4-12
ジタンは治療院を抜け出し、ナインの自宅に向かったが、何処にもいなかった。
(あの野郎、どこ行きやがった!?・・・いや、ここに来ても意味は無いか。)
よくよく考えたら顔が割れているだろう犯人が、自分の住処に帰って来るのはあり得なかった。
(恐らくだが、協力者の家に泊まってるんだろうな。問題は、誰が協力者だが・・・)
フレンダ侯爵家に向かえば協力者は大方は判るだろうが、現在は深夜であり、この時間の訪問は気が引けた。
(捜査の為の訪問だから良いけど、流石に殆ど寝てるよな。・・・夜明けにするか。ハビン君も心配だし。)
そうして急いで治療院に戻って来たジタンは、早速ハビン達の容態を聞いた。
「ダリウスさん、部下達の傷はどうなりました?」
「全員無事に治りましたよ。起きるのは数日後でしょう。」
「有難う御座います。」
「それと、ルインが探していましたよ。何でも、あの傷の事で話がしたいとの事でした。」
「・・・此処には居ない様だが、彼は何処に?」
「自宅に帰りましたよ。そもそも伝言自体が、明日家に来る事が前提のようでした。何でも特殊な魔法を使う為に一度、家で準備がいるそうで。」
「解りました。その様にいたします。」
「気をつけてくださいね。腕は確かですが、教義違反を平然とやる奴なので。」
ダリウスのその言葉に、ジタンは疑問に思って思いっきり聞いてみた。
「認めてるんですか?」
「認めるも何も差は明らかです。今日だって、奴の指示は的確だった。」
「・・・正直ダリウスさんは、四角四面の人だと思ったので驚きました。」
「余り声高らかに言えませんが、上級治療師になると年々、奴の行いが正しかったんじゃないかと考えてしまいますね。教会の教えに従っているだけでは、救えない命が多すぎます。その点、奴は自由だ。国王陛下と言う後ろ盾の元、日々治療に励んでいる。あの姿こそ、我々治療師の在るべき姿だと思います。」
「そこまで言うなら、険悪な態度を改めたらどうです?調べたら、険悪な仲なのは結構有名でしたよ?」
「これでも代々教会に奉公している一族の出ですから、異端者には辛く当たらないといけません。」
「難しいですね。」
「本当にそうです。奴自体はそこら辺もある程度分かっていて、あの態度ですから。・・・患者は責任をもって守りますので、犯人を捕まえてください。」
「そう致します。では、失礼します。」
「神の御加護を。」
ジタンは治療院を後にして、犯人であるナインを捜す為に夜の街を駆けたが、奴が何処に居るかは掴めなかった。
明け方頃に仮眠を取り、軽く状況の整理をしながらギルファ医院に向かっていた。
(昨日の調査から判ったのは、実行犯はナインと言う事と、その協力者がいる事だな。武器も秘密の塒もその協力者からの提供だろう。)
だが気になる事はあった、何処で調査状況を知ったかだった。
(西区の警邏隊の詰め所と言う場所が分かっても、あの襲撃は早すぎる。何処で情報が漏れた?)
警邏隊なのはハビンを追っていた破落戸から聞けば良いとして、何処に向かったか等は判らない筈だった。
(協力者の残りの人員で総当たりか?その場合は組織がデカすぎだな。)
西区だけでも数十件近く詰め所が在るのに、その全部を一々調べていたら、日が暮れる筈である。
(通信の魔道具か?その線だと錬金術師と材料がいるから、余計に金が掛かる。費用対効果が合わない。)
通信系統はその道具の都合上、高価な素材とそれを作れる錬金術師を揃えないといけないので、武器以外の金銭がかかる。元侯爵殺害の為なら費用対効果が合わない筈だった。
(・・・解らんな、どっちも正解に思えてきた。)
そうこう悩んでいると、ギルファ医院に着いていた。
医院の前には丁度、開店準備をしていたルインがいた。
「ああ、ジタンさん。丁度、良かった。このまま閉めれる。」
「良いんですか?患者は?」
「まあ、大丈夫でしょ。少し待ってくれ。中から必要な物取ってきて、俺の馴染みの鍛冶屋に行こう。」
「鍛冶屋ですか?」
「下手糞が変な傷付けたから解ったが、片手のフランベルジュだろ。あんな特殊武器なら、その店行けば大体判る。」
「何故です?」
「その店、南区の鍛冶連合会の現会長の店。そこ以外の地区でも、伝手使って調べてくれそうだから。」
「成る程。」
そう言って店に入って数分後に、紙を数束持ってきたルインの先導でその店に向かった。
「状況の確認だけさせてくれ。子供と警邏隊の1人がフランベルジュ。もう1人の隊員が即効性の毒だったな。」
その途中でルインが確認の会話を始めた。
「そうですね。」
「何であんな傷が付いた?何かの調査か?」
「もう関わったので言いますが、3日前の事件の重症参考人が少年でした。それの護衛中の襲撃です。」
「成る程。」
「・・・どうして聞いたんですか?」
「傷は2人共腹で、剣を縦にした貫通創でな。隊員が覆いかぶさったから、背中の傷がひどかったんだ。それなのにもう1人が毒なのが気になってな。」
「ああ、納得しました。」
「まあ、下手糞だったせいで骨の貫通が出来なかったんだろう。だから簡単に貫ける肉の部分を貫いた後に、確認もせずフランベルジュで上下に動かしただけですんだんだけどな。・・・っと、ここだ。」
そうして『ダロン鍛冶店』と書かれた店に着いたルインは、ジタンを引き連れて店の中に入った。
入った中から、金属を打ち付ける音が盛大にしていたが気にせずにルインは叫んだ。
「タイレル!居るか!?」
「今、行きますから待っててください!」
「今の声は・・・まあ、タイレルは出てこないか。」
そうして出てきたのは170センチ程の青年だった。
「ルインさん?何の用です。後ろの人は?」
「ミルド君、数日前に片手のフランベルジュなんてヘンテコな剣を卸して無いかの確認だ。それのせいで警邏隊に怪我人が出ていてな、後ろの人は警邏隊で調査中のジタンさんだ。」
「片手のフランベルジュですか?そんな物・・・あっ!?」
「どうしたの?」
「数日前にその剣が盗まれたって言う噂が立ってました。確か・・・フレンダ侯爵家です。」
「何だと!?フレンダ家がかい!?」
「はい。あそこの家の前当主が奇剣好きで、現当主が誕生日プレゼントに渡そうとしてた剣が盗まれたそうです。」
「マジか・・・その・・・盗まれたのは店舗でかな?」
「いえ、ダニエル商店に卸すはずだった商品が納品途中に襲撃されて、そこに入る筈だった商品が全部盗まれたそうです。その中に件の剣も入ってます。」
「襲撃犯は誰だか判ってるかな?」
「まだ判って無いです。ただ、捜査に何処からか圧力があったそうです。」
ジタンはその報告に頭を抱えながら呻いた。
「その圧力の先は騎士隊だ。恐らく、貴族連中が自分達の名誉の為に叩き潰そうとしたんだろう。」
「・・・最悪ですね、それ。」
「ああ、それに最低だ。件の剣は前当主の殺害に使われた。現当主を陥れる為に盗んだんだろうね。」
「・・・警邏隊はどうするんですか?犯人を捕まえられますか?」
「・・・最悪、こっちにも圧力が来るだろう。そうなったら調査終了だ。基本的には警邏隊より騎士隊の方が部署としての位は上だから、どうにもできない。」
「手詰まり、だな。」
「ですが、どうにかできる可能性もある。・・・ご協力に感謝します。この先は警邏隊の仕事ですので、ルイン先生はこれ以上は関わらないようにお願いします。では失礼。」
「解りました、気をつけて。」
そうしてジタンは店から出て行った。残されたルインはミルドに紙を渡しながら話しかけた。
「タイレルにコレ渡しといてくれ。今回の事件で使われた剣の傷を詳しく写したものだ。タイレルならこれ見てさっきの状況を聞けば、何が起きるかは判る筈だから。」
「解りました?」
「俺も店開けなきゃだから帰るね。じゃあ、よろしく。」
切りが良いのでここで切ります。
警邏隊と騎士隊の違い
要は地方公務員と国家公務員の違いみたいなものです。
(警邏隊が地方公務員で騎士隊が国家公務員)
(どちらが上かなんて物は基本無いですが爵位のせいでそう思えるだけです)