4-11
日本ではあまり見かけない種類の酒が出てきます。
ジタン達が詰め所を襲撃された時、ルインは治療院に居た。
そして、とんでもない絡み酒に付き合わされていた。
「にゃぜ、おみゃえひゃあひょひょき、いひゃんひゃひひゃったにょぢゃ!?」
「だから、あの時はそれをしなきゃ助からない命があったんだよ!この話、今日で何回目だ!」
「10回目ですね、まだまだいきますよ。」
「噓でしょ?いい加減、浄化の魔法で酔い覚ましをさせたいんですけど?」
「頑張ってください。私は彼の飲酒に付き合うと、必ず数十回は聞かされるので。」
げんなりとした表情を隠しもしないマグヌスは、諦めの境地でそう言った。
床には20本近くの空き瓶が転がており、明らかに酔っているダリウスを、ルインとマグヌスが相づちをうつ様にしていた。
こんな状態になったのは、マグヌスに誘われて付いて行った先の酒場でダリウスに見つかり、『急患の心配がありますので、此処じゃなくて治療院で飲みましょう』と誘導され治療院に場所を移し、ダリウスが自身秘蔵の酒を水の様に飲んでいたらこうなったのだ。
(まさか秘蔵酒が度数の高いマール・ブランデーとはな。此奴、案外と酒飲みか?)
葡萄の絞り粕と樽熟成の独特の匂いが織りなす風味が、意外と強い度数を相殺する位には美味しいのだが、度を過ぎれば酷い酔い方になるのは何処の世界でも共通なのを、身に染みて解らされた。
「おみゃへひょもふひょうひょふょふぃふぇひゃひょふぃ、ひゃんひゃこひょひゃあっへ・・・おへひょひゅるひみひゃひゃかひゅひゃ!?」
「解らんな。同期の中で一番飛び抜けていたのは自覚は有るが、目標にするんじゃなくて、切磋琢磨するライバルの方が良いんじゃないか?」
「しょにょしゃがべっひゃひゅふゅぎへ、らいびゃりゅとひへみへふゃふぁひゃんびゃ!びゃかひゃきょへるべふぃもひゅひょうふぃふぁふぇふぁ!」
「それは悪かったな。正直に言えば、俺ももう少し此処に居たかったよ。だが、何時かはあの行為をやってたな。教会の戒律に縛られてたら、救える者が救えなくなる。」
「虚しいですね。貴方がいれば、この国の治療院の信用が高まるのに・・・。」
「信用の為じゃありませんよ。俺は救える命を可能な限り救うために、この道に入ったんですから。」
「ひょうへひゅひゃな。ひょのへいへおひゃふぇみょぎゅぎゅじゅぎゃうじゅにゃわれりゅにょぬぃ・・・」
「何時かは誰かが別の方法で作り出す技術だよ。まあ、教会の戒律に真っ向から歯向かうのは、勇気がいるが。」
「そうですね。そして何時かは宗教裁判の多さで、戒律が改められます。」
「しょれにゅいにゃんにぇんきゃきゃりゅきょこきゃ・・・。」
「クソ真面目なダリウス君が早めにやってくれないか?お前も俺と同じで、救えるなら救いたいだろ?」
「しょのじょうりりゃが、しょれがれりゅりゅにゃらふゃふぇいりゅ!」
「私もそうですが、役職があると存外不自由になり易いのですよ。それに、教会の立場としては、そう簡単には戒律変更とはいかないでしょうし。」
「さすが大陸一の宗教。規模がデカすぎて、自浄作用が死んでいる。」
「その御かげで、悪徳治療師や邪悪な宣教師は即、破門ですがね。」
そんな事を話していたら治療院内が余計に騒がしくなった。
いつもの事と思い、3人は飲み直そうとしたら突如、扉が開かれた。
「ダリウス様!きゅうか・・・酒クサッ!!!」
入って来たのは下級治療師の1人だった。
「ああ、すみません。ダリウスさんがこの状態なので私が聞きますよ。」
「マグヌス院長?・・・院長も飲んでますよね?」
「飲んでますが、前後不覚と言う訳ではございません。それよりも状況を。」
「はい、警邏隊詰め所で襲撃があり、第2警邏隊の隊員2名と子供1名が負傷。警邏隊の1人が強力な毒物でやられており、残りの2人は特殊な刃物での貫通創がありまして、我々では治療できません。」
「特殊な刃物とは?」
「フランベルジュです。刺した後に左右に動かした様なので、内臓の数か所が切り刻まれています。」
「解りました、私も行きましょう。ルインさん、手伝ってください。」
「良いんですか?俺は一応異端者ですが?」
「毒と傷の治療だけならダリウスさんでも出来ますが、流石にフランベルジュの傷が2名となると、厄介かもと思いまして。」
「そういう事なら判りました、【浄化】・・・おいダリウス!急患だ!酔いは浄化しといたから働け。」
「承知した、浄化も感謝する。すぐに行こう。」
「浄化の魔法を酔い覚ましの為にやるなんて・・・」
「【浄化】・・・貴方も何時かはこういう事をしますよ?それを今日知っただけです。それよりも案内を。」
そうして下級治療師に案内された治療室に連れてこられた。そこにはジタンがいた。
「ジタン様?どうして此処に?」
「今回の責任者なので、襲撃現場は他の隊員に任せました。それより、何故ルイン先生が此処に?」
「偶々此処に誘われて飲んでたら急患が来ただけだ、気にしないでくれ。それよりも患者が優先だ、退いてくれ。」
「・・・子供と部下を頼みます。」
「承知しました。」
そうして部屋に入った3人は、怪我人に構造解析の魔法をかけて傷や毒の具合を見た。
「毒の方は即効性の毒物だな。かなり強力だが、即効性のおかげか、もう毒の気質が弱くなってる。」
「子供の傷もそう深くはありませんね。貫通型の刺し傷以外はそれらしい傷はありませんね。」
「一番ひどいのこの警邏隊員だな。恐らく子供をかばったからこんだけ深くなったんだろう。これは俺がやる。ダリウス、別隊員の方は任せる。マグヌス院長は子供の方を。」
「お前が指示するな!だが、その方が確実だな。失敗はするなよ。」
「誰がやるか!お前こそへまするなよ。」
「では始めましょう。大丈夫です、此処に居るのは、この国で上から数えた方が良い腕の治療師達ですから。」
そうして治療される隊員をしり目に、ジタンは何処かに消えていた。
切りが良いのでここで切ります。
ダリウスはクソ真面目ですが、そのせいでストレスが溜まりやすいです。
どんだけ酒飲んだんだよ?問題
ダリウス「大体私が7割、マグヌス様が1割、2割がルインだ。飲み終わったら浄化で酒精を消して、元通りの体調に戻す事など造作もない。」
大きさは700ミリの瓶です。