4-10
何とか貴族街近くの詰め所まで来たジタン達は一息ついた。
「ここまで来れば大体は安全だ。」
「隊長、大体って言わないでくれ。まさか襲撃がこの中で起きる可能性を考えてるのか?」
「考える事は損じゃ無い、あり得ないを考えるのも隊長には必要だ。」
「そんな事が起きたら、犯人が余計絞れそうですね。」
「だろうな。少なくとも爵位持ちは確定だ。」
そう談笑しながらも、ジタン達は外套を取り、建物の中に入ろうとした。
「ジタン隊長?その恰好はどうされました?」
「3日前に特殊な傷を負った殺人事件が在った筈だ。それの重要参考人を連れて来た。」
「3日前ですか?確認の為少々お待ちください。」
「いや、待てん。現在、参考人を殺すために暴漢の襲撃受けている。先に安全な場所を確保したい。」
「承知しました!とりあえずは建物の中に。お前等!これから厳戒態勢だ、集中しろ!」
入り口に居た隊員をすり抜け、建物の中に入ったジタン達は、最悪を想定した行動をしていた。
「ラッセン、事件資料室に行ってくれ。3日前の事件全部持ってこい。ロック、ラッセンを手伝え。場所は窓のある2階会議室で、俺は先に行ってる。」
「「了解!」」
「ハビン君、2人が戻ってくる迄俺と一緒に居てくれるかい?トイレに行く時も俺に声をかける様に。」
「トイレもですか?」
「すまないと思うが、あの襲撃だけで終わるとは思えなくてね。最大限の警戒をするにはこうするしか無いんだよ。」
「解りました。」
そうしてジタンは2階への階段に行き、ラッセン達は事件資料室に向かった。
2階の会議室に着いたジタンはハビンを近くに控えさせながら、部屋の各所を点検し始めた。
その態度に怪訝な顔をしたハビンが聞いてきた。
「何でそこまで警戒するんですか?」
「先程も言ったが襲撃の回数が少なすぎる。此処に誰かが先回りしてる可能性を考えての行動だ。」
「慎重なんですね。」
「臆病な位だよ、要人警護はそれだけ危険なんだ。」
一通り調べ終わったジタンはハビンを窓から離れた椅子に座らせ、自分もその近くに立った。
「立っているのは襲撃の警戒ですか?」
「そうだね。杞憂で終われば良し、終わらなければ・・・逆に好都合かな?犯人の糸口になる。」
「・・・少し怖いです。」
「そうだね、俺も・・・」
「違います、隊長さんの顔が、まるで来て欲しそうに見えたので。」
そう言われたジタンは唖然とした。まさか自分の顔が歪んでいたとは思って無かったのだ。
「それはすまなかった。襲撃される方が恐いのに、襲撃を期待しているのはおかしいな。」
「いえ、僕も変な事を言いました。」
そうしていると入口の方から大きめのノック音が聞こえた。
「誰だ?」
「隊長、ラッセンです。事件帳を持ってきました。ただ、俺もロックも両手が塞がってて開けられません。」
「判った、少し待て。」
入り口に近づき警戒しながら開けると、ラッセン達が入り込んで来たて資料を机に置いた。
「それが事件資料か・・・多いな。」
「関係無いのが混じってるのでもう少し減らせます。仕分け手伝ってください。」
「当たり前だ。・・・ハビン君、申し訳ないが手伝ってくれないか?関係の無い資料を脇に退けるから、それを回収して別の机に置いてほしい。」
「解りました。」
そうして資料を捜査する事数分、当りだと思われる事件を見つけた。
「在ったぞ。被害者はモロナ=フィル・フレンダ前侯爵50歳、遺体は特殊な剣による殺害。似顔絵もあるな。ハビン君、申し訳ないがこのおじさんかな?」
取り出した似顔絵をハビン見せると彼は大きく目を開いた。
「そうです!この人です!」
「有難う。・・・ロックお前、絵心は?」
「有りますが、何でです?」
「ハビン君の証言から犯人の似顔絵の作成をしてくれ。俺もラッセンも絵は下から数えた方が早い。」
「判りました。ハビン君、犯人の特徴を教えてね。」
「ラッセン、詳細資料を読むぞ。」
そうして見た事件の詳細資料は、所々あやふやな所は在ったが3日間にしては大体は揃っていた。
事件現場は貴族街の中だが西区の境目近くの路地で、夕方頃の犯行だった。
死因は裂傷による出血死となっており、事件発見時から死亡が確認されていた。
裂傷の具合は酷く、特殊形状の剣で切り裂かれていた。
ただおかしな事は、この裂傷の傷の具合だった。死体にやたらめったらと切り傷が付いていたのだ。まるで嬲り殺しをする様に。
「フランベルジュなのは判るが、あれを効果的に使うなら両手剣の筈だ。まさかレイピアみたいな片手で使う剣を態々作ったのか?」
「突き技だけでやったんじゃないっスか?」
「それなら表面の切り傷が多すぎるし、足の切り傷の理由が付かない。」
「成る程。」
「・・・相当恨まれてたのか、この御仁。怪死事件の実行者以外の犯行だが。」
「何で怪死事件じゃ無いと判断できます?」
「刃物自体は特殊だが態々嬲り殺しをする必要が無い。あの事件は調べた資料だと、被害者のほぼ全員が一撃死に近い形だった。」
「となると、貴族且つこの御仁に恨みを持ってる人物が犯人ですか。」
「そうだな。ロック、似顔絵はできそうか?」
「もう少しでできます。・・・できました!」
「見せて観ろ・・・マジかよ、ナインがやったのか!?」
見せられた似顔絵はナインの顔に似ていた。
「実行犯はナインだな。十中八九背後に誰かいる。」
「ナイン殿単独じゃ無いんですか?」
「ありえん。彼奴は一応騎士だが、特殊形状の剣のオーダーメイドなんて出来る程、給料は良くない。」
「だとしたら、早速ナイン殿を捕まえて背後関係を洗いましょう。」
「その前にハビン君の安全確保だ。此処もきけ・・・避けろ!!!」
ジタンの言葉と同時に襲撃者が上から降って来た。
ロックはハビンを抱えて避けれたが、ラッセンは除け損なっていた。
「ラッセン!?大丈夫か!?」
「傷は大した事は・・・ゴフッ!」
「ラッセン先輩!」
「ロック!窓から飛び出ろ!身体強化してハビン君の安全確保有優先で、外から入り口に行って応援読んで来い!」
「判りました!」
ロックが飛び出そうとした時に襲撃者がロックに襲い掛かろうとしたが、既に構えていたジタンが前蹴りを襲撃者に与えて吹き飛ばした。
そのまま壁に突き刺さった襲撃者を横目にロックが飛び出し、ジタンはラッセンの怪我の確認をしていた。
(毒にやられたな。アミュレットが無いから食らったか。)
そうして怪我の確認をしたジタンだったが外から異音が聞こえた。
「がはっ!」
「ロック!どうし・・・な!?」
其処にはロックがレイピアで地面に縫い付けられていた。
「ロック!!!」
「・・・任務完了。」
壁から出てきた襲撃者が地面に何かを叩きつけると、そこから煙が出てきて視界を塞いだ。
「なっ!待ちやがれ!」
煙が晴れるころには襲撃者は消えていた。
(誰だ一体!いやそれよりも・・・)
素早くラッセンを担いだジタンは地面に地面に降り立ちロックの方に向かった。
そのロックは地面に横たわった状態でおり、こちらの襲撃者も逃げていた。
「ロック!無事か!?」
「まだ、・・・無事です・・・けど、・・・ハビン・・・君が。」
「どこに居る?見えないぞ?」
「俺の・・・下です。」
「退かすぞ。」
ロックの体を横にずらすとハビンが出てきたが同じような刺し傷が付いていた。
「隊長、・・・襲撃・・・者は・・・ナインでした。片手の・・・フラン・・・ベルジュ・・・でした。」
「解った、もう喋るな。おい誰かいないか!襲撃が在ったぞ!怪我人がいる!!!」
大声で叫んだジタンは、流石に3人は運べなかったので救援の到着を待つしかなかった。
切りが良いのでここで切ります。
予告通り明日から少し不定期更新に入ります。
要人警護って難しいの
ドラマのSPを観なさい。
あれで分かるから。