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メイリンの体を治療の為に弄りながらルインがもう一つの仕事の話をしていた。
「それで、『定例オークション』は開催されるのか?」
「今月は今の所無いよ。有るとすれば『緊急』だけかな?何かあればその時はまた来る。」
そう言うメイリンは体から来る痛みとその後に来る快感に耐えていた。
「今の所は定例は無しね。まあ、良いこった。『競りの対象』なんて無いに越した事は無いんだからな。」
「・・・それで生活できるの?」
基本的に子供には治療費をとらない事を知っていたメイリンはルインにそう聞いた。
「お前なぁ・・・。治療は適正価格だし、一部の『競合相手』みたいに、馬鹿みたいに金の掛かる趣味も無い。趣向品として煙草をやっていて、それは一般の物より高いが生活を圧迫する程の出費じゃない。生活は安定的だよ。」
そう言いながら体を弄るルインに、以外なそうな声でメイリンが聞いた。
「・・・美味しかったり珍しい食事は趣味じゃないの?」
「旨い物は食べたいが回数は多くない。そもそも俺の場合、渡来料理のせいで高いだけで、少しの我慢で旨い物が食べれるなら我慢する。」
「ふ~ん。」
その答えで興味を無くしたのか、その話題を切りにかかったメイリンに、ルインは昼食の時の話をした。
「しかし、お前ら、噂をばらまきすぎじゃないのか?」
不意を突かれたのか、目をパチパチさせながらメイリンが聞き返してきた。
「どんな噂?」
「『新月の夜、ある場所で、お布施と恨み言を言うと、恨まれた者がろくでなしに殺される』だな。」
「噂はとにかく撒けば、目暗ましになるって『娼館長』が言ってたから、頑張って撒いた。」
「それはそうだが、・・・『真実』の部分が入ってるのはどうなんだ?」
「『その部分がどこか判らないなら意味が無い』って『娼館長』が言ってた。」
「まあ、そうだな。」
噂と言うのは、一つの噂に尾ひれに背びれに腹びれに胸びれが付く事が多いのを、人生経験で判っているルインは、肯定しつつも懸念すべき部分を言った。
「噂好きが悪戯に調べて、『オークション』を知ったらやばいのは判ってるよな?」
「その時はその人を調べて、危なかったら『排除』されるでしょ?」
当たり前でしょ?みたいな顔をしたメイリンにルインは怒鳴った。
「ガキが黒い事を言うな!」
「聞いてきたのそっち!」
「そうですね!すみません!」
子供に論される大人という構図を作ったルインは、ちょうど施術が終わったのでベットから離れた。
「ほい、終わったぞ。・・・体はどんなもんだ?」
「うん・・・、やる前よりは良い。針治療の時みたいな感覚。」
軽く体を動かして体の調子を確かめるメイリンの感想に、充実感を覚えるルインは説明が続いた。
「針にしろ、今回のは『整体』って言うんだが、種類は違うが体の調子を整える治療だからなぁ。充実感はそれなりにあるから。」
「どう違うの?」
「子供でも判りやすく言うなら、針は血の流れとか筋肉のほぐしとかで、整体は骨の形を整えるものだな。効果はあるが一時的な物だから、定期的に施術しないとまた悪くなる。」
「むうぅ・・・、来るたびにやらないと。」
そう言って悩む姿は子供らしいなと思うルインは言った。
「関係者だから言うが、真実の隠し方は上手いな。」
「まあね。・・・お金は?」
メイリンはそう言いながらナイフを腿に装備し始めた。
「いつも通りだ。子供からは貰わない。メイリンの場合、貰うなら『娼館長』だな。」
「そう言って、お金、もらった事、有る?」
「何回かは有るが、回数からすれば少ないな。」
「甘いね。」
「甘くて結構。これも仕事だ。」
そう言いながらルインは真剣なまなざしでメイリンを見た。
「お前が頼み込んで何とか得られた仕事だから仕方ないが、危険を侵しすぎるなよ。『命は一つ、失えば戻らない』だ。」
「判ってる。まだ『娼館長』に恩を返せてないから、絶対に死ねない。じゃあね。」
そう言いながら、外套を纏い治療室を出て行ったメイリンに対して、聞こえているか分からないのを察しながらルインはぼやいた。
「気負いすぎるなって事なんだがな。お大事に、かわいい密偵さん。」
切りがいいので切ります。
メイリンのナイフや能力について
危機察知能力がかなり高く、ほんの少しでも危険だと判断したら即、警戒して、逃走準備に入ります。
ナイフは大ぶりのサバイバルナイフでメイリン用にグリップが握りやすく加工されています。
これを緊急時に使いますが、戦闘技能は12歳としてなら高いですが一般的には弱いです。
その為、他の技能(主に建物侵入や対象調査等)が主な任務です。
ピッキングは天才的な上に標的追跡は上手い故一度狙われたら厄介です。