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「凄いですね隊長。あの突撃を冷静な判断で止めるのは。」
「実戦経験の差だ。ロック、お前もその内に出来る。」
「それでも隊長は特別だよ。殆どの隊員は習った事しかできないから、格闘術なんて咄嗟に出ないですよ。」
先程の喧嘩の犯人を簡易詰め所に入れた後、詰め所の隊員に調書をお願いして警邏の再開をしていた頃に、ロックが称賛して来た。
「まあ、格闘術に関しては警邏隊の入隊前に習っててな。そのせいか咄嗟に出るのは格闘術なんだよ。」
「あれを見ると警邏隊も、もっと格闘術の訓練を入れて欲しいですね。」
「入れない方が良い。打ち方を間違うと犯人を殺しかねんし、こちらも負傷する可能性が多い。捕縛術の方が犯人逮捕には重要だ。」
「そうだな。隊長みたいに上手く出来れば良いが、下手にやると怪我に繋がりかねんしな・・・俺みたいに。」
「ラッセン先輩はやった事があるんですか?」
「ある。そして怪我して、治療費が馬鹿高かった。」
「どんな事したんですか?」
「犯人に向かって思いっきり右拳を突き出したんだが、相手の皮鎧に当たってな。その衝撃で手の骨が折れて、犯人捕まえた後に治療院に行ったら、銀貨50枚取られて1週間痛かった。」
「1週間で済んでよかったな。本来なら2ヵ月位掛かる筈の怪我だぞ。」
「そのせいで当時付き合ってった彼女にプレゼント渡し損ねたんですけど!」
「それはご愁傷様。で、その彼女は?」
「今、独り身なんですけど・・・」
「すまんかった。」
ラッセンの過去の失敗と結果に素直に謝ったジタンだったが、ロックがそれでも話を掘り返した。
「隊長って、なんであれだけ格闘術ができるんですか?」
「さっきも言ったが格闘術を教えてくれた人がいてな。その人は俺の育ての親だ。」
「良い人なんですね。」
「まあな、良い人だったよ。色々教わったが、格闘術は生きていく上での最終手段みたいな形で教わったな。」
「最終手段ですか?」
「武器を持っていない状態で、魔物に対抗する手段として教わったんだよ。俺の場合は他の事よりもこっちが上でな、よく困らせたもんだよ。」
養父代わりだった院長は様々な事を教えてくれたが、この格闘術に関してはあまり熱心に教えようとはしなかった。
院長が言うには『そんな事になる前に騎士に助けを請え』と言われたからだ。
だが、ジタンは他の事よりもこの格闘術に適正があった。
その事に院長は困ったが、子供の頃に去勢すると余り良くないと思い、渋々ながらも教えてくれたのだ。
「まあ、何で魔物想定な格闘術なのかは解らなかったがな。」
「でも、魔物相手に殴りかかるのって怖くないですか?」
「普通に怖いよ、だから最終手段だ。・・・これ以上、あまりこの話を広げようとするなよ。」
「「了解。」」
そうして強引に打ち切ったが、ジタンとしては歯がゆかった。
(まあ、仕方ないか。まさか教わった技を人に撃つと危ないなんて思わんだろうし。)
院長先生に格闘術を教わる際に口酸っぱく言われたのが『人に対して本気で打つな』と言う事だった。
(掌打での衝撃の通し方から近接での肘や膝の使い方、10センチ位の隙間での全力の出し方に、あんな技なんて人に打ったら本当に死にかねない。だからだろうな、人に対して撃つ時はできるだけ手加減するんだが、それでも殺しかねないとおっかなびっくりで打っているのは。)
教わった事が理由で手加減をする事は仕方ない事だが、それでも心の何処かである思いが擡げるのだった。
(何時か全力で打っ放したいな。・・・何考えてんだ、俺?)
この考えが出るから偶に顔が恐くなるんだろうなと思うジタンだった。
切りが良いのでここで切ります。
危ない技ですね。
警邏隊の必修科目
基本は捕縛術等の業務に必要な事だけです。