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4章開始します
ジタン=オルフェスは警邏隊詰め所で過去の事件資料を精査していた。
この頃の怪死事件の発端は何処からかが気になっていたのだ。
だが、調べても調べても何時から始まったのかが出てこなかった。
(此処まで出ないとは・・・10年前の資料でも出ないとなると廃棄事件庫にあるかもしれないな。)
廃棄事件庫とは事件解決又は迷宮入り事件の資料を保管している倉庫で、事件再捜査等の為に資料を保管している建物である。
有るなら此処かと当たりを付けたジタンだが気軽には行けないだろうと思い至った。
(誰か隊長業を変わってくれ。本来俺は、現場で捜査する方が性に合ってるんだよ。)
ジタンの昇進は偶然が重なった結果だった。
王都警備隊に入った時は当時は一番下の隊である第15隊だった。
それが偶々遭遇した殺人事件で犯人検挙をしてしまった為に第2隊に異動をする事になり、未解決事件を捜査していたら偶然捜査ミスを発見して上司失脚及び犯人逮捕に繋がる功績を出して昇進し、それから暫くしたら当時の隊長の抜擢で自分が隊長になってしまったのだ。
(もはや呪いだろこんなの!俺より古株の人が一杯居るのに、業務を俺に投げやがって!)
そう思うジタンだが、実際はその古株全員一致の意思の元、隊長職に推薦されたのだった。
まさか自分より若い隊員が、事務処理能力も実働業務能力も上だと思い知らされ、一部は嫉妬したが直ぐに性格面でも優秀だと思わされ、潔く身を引いたのだった。
様々な事を考えていながら資料を片付けていると、資料室に来客があった。
「隊長?どうしました?」
「ラッセンか?いや、怪死事件を追っていたんだが、始まりがどの時だったかが分からなくてな、資料を引っくり返してた所だ。」
「ああ、あれですか。有りましたか?」
「少なくとも10年遡っても無かった。有るとしたら廃棄事件庫の中だ。」
「・・・あの中を探るとしたら何年掛かるんでしょう?」
「言うな。あの倉庫は別の意味で魔窟だ。」
廃棄事件庫とは聞こえがいいが、実際は事件資料の真贋を問わずに保管してるだけの、只の倉庫なので何処に何があるかは担当部署の人間でも判らない様な物だった。
「まあ、あそこに行くのは無理だな。隊長業を代行してくれる奴が育たない限り、調べには行けないだろう。」
「隊長って現場主義者なのに、書類仕事もできますからね。」
「出来るからで20後半に隊長職を押し付けられたんだよ。そのせいで、30後半でも未だに彼女無しだ。」
「お見合いとか来ないんですか?」
その言葉を聞いたジタンは苦い顔をしながらつぶやいた。
「・・・余り他人に言うなよ。俺は親無し子でな、気付いたら孤児院の1つで暮らしてたんだよ。」
「そうなんですか?」
「まあな、そこの院長が良い人でな。この人を守れる位になろうと思って、頑張って学院に入学したんだよ。今、考えれば懐かしいな。普段は学校で好成績を叩き出して、休みは探索者として魔物シバイて金にして生活してたんだよ。」
「で、念願かなって警邏隊員ですか。」
「違げ~よ。本当は騎士に成りたかったんだが、学院を卒業する1年前に院長が亡くなってな。情熱みたいな物が燃え尽きちまったんだよ。だが当時の学院の成績上位者が無職か探索者かの2択を、学院が許さなかったんだ。で、一応騎士として応募してみたら、門前払いだった。理由は素性不明者だからだ。」
「クソですね、それ。」
「思うだろ。だから騎士に近い警邏隊に入ったんだよ。」
「隊長が警邏隊なのは判りましたが、それとお見合いの関係は?」
「素性不明って言ったろ。そのせいか知らないが、昔の知り合い連中が俺を避けるんだよ。それのせいでお見合いを誘ってくれる相手が居ない。」
「出身孤児院の人もですか?」
「それなりには会ってるが、あいつ等も出会いが欲しい側。他人のお見合いより自分の出会いだよ。」
「世知辛いですね~。」
「だろ!俺、出会いが欲しいよ!」
そう言いながら漁っていた資料を全部戻し終えたジタンは、ラッセンに向き直った。
「さて、何を探しに来た?今ならこの中の資料の位置をほぼ覚えてるから、何でも聞いてくれ。」
「あ、じゃあ・・・」
そうして、業務に戻るジタンは、いつもの隊長であった。
切りが良いのでここで切ります。
ジタンが騎士隊に入れなかった理由は別にあります。
それはこの章で判明します。
廃棄事件庫
貴族街にある資料館の一つ。
基本的には警邏隊しか来ない。(偶に貴族が恐いもの見たさに来る)
王都の騎士隊が常駐(左遷部署)していて、資料の探索をしてくれるが、膨大な資料の数のせいで担当者でも何所に何があるかは不明。