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やっと、裏仕事への導入が書ける。
医院に戻ってきたルインは、開けながらも午後の準備をしていた。
と、言ってもやる事はそう多くない。
清潔にする為の掃除は【浄化】の魔法でしてしまえば良いし、薬の補充も定休日にまとめて行なうのでどこにどういう風に仕舞ったかの確認をするだけ。
やる事と言えば、いつ誰かが来ても良いように身だしなみを整える位だ。
(まあ、薬なんて物は『治療院』じゃ必要じゃ無いからな。『医者としてこれ位は』と思ってやってるだけのフェイクみたいなもんだし。)
そんな事を思いながら、窓を鏡の様に使いながら身だしなみを整えていた所、委員の玄関のベルが鳴った。
「いらっしゃいま・・・あんたか。」
入ってきた客に対してぞんざいな扱いをしていたが、そんな事を言ってもかまわなそうな風貌の客だった。
外套のせいで見えにくいが見えている部分だけでも褐色が良く健康そうな肌、真っすぐに伸びた背、ドアを閉める際のキビキビと動く手は『どこが悪いんだ?』と思わせるような印象を与える。
背は低いが、見えている輪郭は幼そうな印象のせいで『この位か』と思える位の身長だ。
体形は判りづらいが太っていたりやせすぎな印象はなさそうである。
そんな『どこが患者だよ!?』と思われる客は、医院に入ってルインを見据えるとこう言った。
「一応、お客に対してその態度はどうなの?」
「ここは井戸端会議所じゃない。病人が来る場所だからな。見るからに健康そうな知り合いが客で来たから、ちょっと嫌味を言いたくなっただけだ。」
「・・・まあ、私も普通だったらそうかも。」
そう言いながら『勝手知ったる我が家』の如く奥に行こうとする来客者に対してルインが慌てて止める。
「待てコラ!内容は判るが一応、何の用できたのか言えや。」
「む・・・要件2つ、両方ともお仕事関連。」
「・・・片方の要件はなんだ?」
「針治療。あれ、終わった後、気持ちよかった。」
そう言って、身をよじらせる客、見えないので判断しずらいがおそらく顔も結構、蕩けているのだろう。
「・・・ようこそ『お客様』。ご案内いたします。」
そう言って、治療室に続く扉を開ける呆れ顔のルイン。
その後ろを、トコトコついて行く珍客。・・・その光景は何故かシュールさがあった。
治療室に入ったルインは針治療の準備をしながら、珍客に問いただす。
「それで、針を打つ場所ははどの辺りだ?」
「動き回ってたから足が痛い。特に関節。」
「了~解。・・・いや待て、針じゃなくても良さそうだから少し調べるぞ?」
「どういう事?」
「確かお前、成長期のはずだからな。その痛みは骨の歪みから来るものかも知れん。」
そう言われた珍客は外套を脱ぎながら、むくれ顔をさらした。
「むぅぅぅ。私、大人。」
そんな返答を聞いたルインは、呆れ顔を隠さずに正対した。
「前に年齢を聞いたから反論するが、12歳は俺からしたら子供だ。」
「それでも働いてる。」
「『娼館長』のおかげで働けてるだけだからな?その『娼館長』事態、お前に『仕事』させるのかなり嫌がってたんだぞ。」
「・・・そう言われると、心、痛い。」
そう言いながらシュンとした珍客に対してルインは手をかざす。
「そう思うのなら無理はするな。【構造解析】」
「でも無理しないと『娼館長』が困る。」
「他にも人員がいるからそっちも頼れって事だ。・・・解析完了。やっぱり骨の歪みだな。」
「・・・治る?」
「治るもんじゃ無いな。成長痛って言って人によりけりだがしばらくは痛い。だが安心しろ、背が伸びる前兆みたいなもんだ。しばらくすれば背が高くなって痛みも治まる。」
「成長、・・・私も『娼館長』みたいに・・・。」
そう言いながら妄想の世界に旅立とうとしていた珍客に、冷たい現実を浴びせる言葉を医者の立場から言った。
「どれだけ伸びるかは人次第だし、『娼館長』みたいな魅惑的な体が手に入るわけじゃないぞ。」
「そんなぁ。」
がっくりとうなだれる珍客。恐らく『娼館長』っぽくした自分の体が崩れ去ったのだろう。
「仕方ないだろ、人の成長は未だに解明されて無い神秘の一つだ。どうやったら、どういう風に成長できるか解明されてたら、俺は、自分好みの体形の女を、自分で育てる。」
「・・・ヘンタイ?」
仕方ないとは言え、言われたくない一言のせいでルインの中の怒りのゴングが鳴った。
「よぉし!戦争か!?戦争なんだな!?その一言は俺に対しての宣戦布告だな!?そう取るぞ!?」
「いやぁ、助けてぇ。」
そんな風に気の抜けた言動を言いながら両手を上げる珍客
「気が抜けた声で言うなよ。・・・おら、そのベットに横たわれ、成長の阻害にならない程度に骨を整えるから。」
「痛い?」
そう言いながら警戒する姿勢は仕事柄のせいで悪い意味で様になっていた。
「痛いが、仕方ないと思え。これも成長の為と思ってな。」
そう言って珍客をベットに誘導する。ようやく脱げた外套を折りたたむ珍客がトコトコとベット近寄った。
ベットの近くの籠に外套を入れた珍客は奇麗な顔をしていた。
少女と判る幼い顔立ちにショートボブの髪、子供らしいがちゃんと出た胸に同じようなお尻。
逆にお腹は、子供らしさが残るが若干細めだ。
これで男と答える奴がいたら『眼科に行け』と言うだろう。
だが、不釣り合いなものがある。それをルインは指摘した。
「おい、両腿のナイフホルスターを外せ。色々と体をいじるから留め金が外れたら危ないだろ。」
「・・・忘れてた。」
同じようにホルスターを籠に入れ、ベットに横たわる珍客。そこで思い出したように珍客が言った。
「もう一個の仕事の方は?」
「治療されながら報告してくれ。多少痛いが報告できる痛さだ。頼むぞ『メイリン』。」
「・・・頑張る。」
覚悟を決めた顔をする珍客・・・メイリンは歯を食いしばった。
ちょうどいいので切ります。
『娼館長』について
容姿などを先出しするとボン・キュ・ボンの妖艶な女性です。
裏仕事の元締めです。
え、何でも屋のかよポジ?残念ですがボン並みの戦闘力を持った虎です。
(必殺シリーズを見ていればこれで判る)