3-15
ジタンは昨夜に起きた変死事件を隊員の1人と共に検証していた。
「この怪死体は、西区の繁華街のど真ん中で発見されたんだよな?」
「はい、そうです。」
「犯人は誰も見て無いと?」
「正確に言えば、誰が犯人か判らないですね。」
「首筋の傷以外は目立った外傷は無し。毒殺だろうが、どういう毒か分からない、と。」
「その通りです。」
「手詰まり!!!」
「そうです!」
その言葉と共にため息を出したジタン達は、怪死体に布をかけた。
「この死体・・・ジェット=サグマと言いますが、恨みを持っていそうな奴が多すぎます。職業は探索者ですが、かなりの落ち目で徒党を組んでの恐喝やリンチ、その他にも軽犯罪のオンパレードで、いつどこで反撃にあうかのトトカルチョが出来てる程だそうです。」
「全員に聞いていたら年を越しそうだな。・・・解った、この事件は迷宮入りな。」
「それで良いんですか隊長?」
「良くないがお前、全部調べるのに他国に渡らなきゃいけないと言われて、経費が落ちると思うか?」
「・・・無理ですね。」
「基本的に探索者は他国には金で自由に行き来できるからな。助かってるのは、重犯罪者の探索者は渡れないってとこだけだ。」
「そもそも重犯罪だったら牢屋の出番ですね。」
「その通り、だから知らぬ存ぜぬで切り抜けて終わり!幸い、此奴に家族はいないみたいだし!」
「そうしますか・・・ハァ~。」
今回の怪死事件を放り出したジタン達は、もう一度遺体を見分し始めた。
「首の傷で気になった事があるんだが、良いか?」
「なんです?」
「傷自体は針と思われる物だろうが、これ、かなりの速度で飛来してないか?」
「そう見えますか?」
「俺には見える。それならそのまま撃ち抜けばいいのに、何で毒なんだ?」
「耐衝のアミュレット対策じゃないですか?」
「そうだな。此奴は持って無かったが、持ってる奴対策だろう。じゃあなんで毒で死んだ?此奴は持ってなかったが、毒耐性のアミュレットは、アミュレットが毒と認識できれば防護する筈なのに何で貫通できた?」
「言われてみれば・・・アミュレットが認識しない新種の毒ですか?」
「もしくは、毒に詳しくてアミュレットの機構にも詳しい奴だな。両方の線で一応探るか。」
「・・・出てきますかね。」
「出ない。薬に詳しい薬師やアミュレットを作れる錬金術師に聞いても、両方の特性を持ってる奴は、あまり居ない。そもそも、抜け穴があるなんて知らないだろうからな。」
「何で知らないんですか?専門職なのに?」
「専門家だからだよ。捜査能力を抜きにして、毒に詳しい薬師だったらアミュレット持ちに対して毒殺なんて考えない。錬金術師なら毒に頼らずに別の方法でやる。だからこの犯人は、相当頭のおかしい奴だな。」
「・・・良い意味でですか、それ?」
「悪い意味だよ、ある意味な。」
見分が終わり、捜査に出始めたジタンはこの事件の怖さを思った。
(相当な速度の出る射出装置なのは判るが、針で首を撃ち抜く為だけに、そんな物を作る狂人が居るのが恐怖の一つだな。針にしたってそうだ。そんだけの速度なら爆発系の何か使ったんだろうが、それでいて針は対象に刺さるまで形を保ってやがった。これも怖いな。その2つが何時こっちに向けられるか判らんのが怖い。新種の毒も怖い。怖い物だらけで捜査するのは仕方ないが、見つからない方が身のためだ。)
「・・・何時からこんなのばっかの事件が増えた?其処からも探った方が良いかもな。」
目の前に闇が広がっているような感覚の捜査を続けなければいけないのを感じたジタンは、最初の糸口から手を付けようと思った。
切りが良いのでここで切ります。
探索者の他国入国について
基本はその国での用事の依頼を受けたのならお金と依頼書で入国できます。
一般入国の場合は手続きが複雑になります。(入国書にパスポート等読者側の入国審査と同じ)