3-14
メリッサは準備を終え、西区の繁華街入り口に来ると、早速持ってきた魔道具を起動させた。
(え~と・・・あっちか。)
そうして、先程紹介された密偵に近づくと背後から声をかけた。
「お待たせ、待ったかな?」
「!?・・・メリッサ様、その外套は?」
「完全気配遮断の外套だね。これだけで結構な額になるよ。」
今のメリッサの恰好は魔道具の外套に大型のトロリーバックを引き、いつもの人目に引く容姿とは全く違った容姿をしていた。
「さっそく始めようか。手順は判ってるよね?」
「はい、解っておりますが、確認してもよろしいですか?」
「良いよ。君に渡した魔道具の内一つを『出品物』に付ける。そうするとあたいに位置情報が送られるからそれを頼りにあたいが暗殺。そういう流れね。付けた事の確認を行いたいからもう一つの魔道具を耳に付けて。」
「畏まりました。・・・こちらを・・・こうですね。」
「そうそう、じゃあ起動テストするよ。一回離れるね。」
そうして声の聞こえない位置に来るとメリッサは魔道具の一つ・・・相互通信装置を起動した。
「聞こえてるかな?」
{聞こえております。}
「周りに不審に思った人いない?」
{おりません。}
「じゃあ大丈夫だね、そっちに戻るよ。」
戻ってきても完全遮断のせいで気付けていない密偵に、メリッサは手で体に触れた。
「ここだよ、ごめんね。」
「すみません。こちらの鍛錬不足です。」
「良いよ良いよ、気にしない。あたいの顔のせいで、こんな外套使ってるだけだから。」
「・・・ルイン様に言って皮膚移植を受けたらどうですか?」
「それでも同じだよ。特徴的な顔のせいで、本来は隠密には向かないのよ。」
「それでも『仕事』はするのですね?」
「『実験』だよ。理論を作ってそれの証明、ただそれだけ。」
「解りました。・・・先に聞きますが後始末はどうしましょう?」
「死体はそのまま放置。彼奴の部屋に違法商品の証拠品をばらまいておいて。貸した魔道具は仕事後に返して。多分、それで終わりかな。」
「解りました、ではこれから行動します。」
「よろしくね~。」
そうして密偵が去って行くのを見送ったメリッサは身体強化を使い屋根に登った。
(さて、先に組み立てますか。)
そうしてトロリーバックを開けると、中に入っていた物を組み立て始めた。
ガチャガチャと組み立てるとそれを知っている者は『銃』と言い、それに詳しい者は『27インチバレットMRAD』と言う物だった。ただ、先端の銃口は細くなっており、針位しか発射できない様になっていた。
(ルインには感謝だね。前までは指輪に針を付けて、近づいて肌を狩っ切っていたけど、あたいは身体強化は苦手でね~。直接戦闘にならない様に静かに近づかなきゃいけないのは、気を使ったよ。)
銃身の組み立てを終わりスコープを付けた銃の動作チェックを行っていると通信が入った。
{見つけました。これから魔道具を付けます。}
「了解。付けたら一度離脱して。」
{解りました・・・付けました、少し遠い所で監視します。}
「再度了解。」
それを聞き終わったメリッサは、もう一つの魔道具・・・マーキングセンサーを発動させた。
(あっちの方角ね。距離は・・・建物があり過ぎだね。もう少し高い所に行くか。)
丁度良い建物に登ったメリッサは、標的の方角を確かめながらバックをもう一度漁り始めた。
(ええっと・・・これとこれだね。)
そうして取り出したのは液体の入った瓶だった。
「【錬成】」
そして錬成を始めたが、その錬成は通常と違っていた。
(条件設定、後部爆発で加速、加速後送信用マーキングセンサーに向けて推進。命中場所はスコープ目視の場所。標的命中後に液体をコンマ1秒づつずらして瞬間注入。注入後、錬成物質は液体を除き即霧散・・・錬成完了!)
そうして、条件設定と言う高難易度錬成でこしらえた針を錬成したメリッサは、排莢部分から針を入れ排莢チャンバーを閉じると、座り撃ちの体制で狙いを定め初めた。
(距離は・・・700メートル位かな。周辺障害物は人垣だけだけど、いつも通りにやれば問題無し。じゃあ狙いをつけて・・・。)
標的の首筋に向けてレティクルを合わせるとトリガーに指をかけた。
「【身体強化】・・・実験開始。」
息を止めてトリガーを引くと先端部分からマズルフラッシュは起きたが、一切音の無い発射をして標的の首筋に一直線に進む針を幻視した。
(第1段階終了、続いて第2段階)
スコープ越しの標的が首に手を当てたのを確認したメリッサは通信を行った。
「標的に命中、魔道具の回収をして。」
{承知しました。}
その通信の後に素早く隠密がマーカーを回収すると、標的であるジェットに変化が起きた。
唐突に苦しみだすと口から血を吐き出し始め、次いで目や耳からも血が流れ始めた。
その事態に繁華街にいた人々は恐怖しだしたが、誰もジェットを助けようとはしなかった。
やがてジェットが倒れると、ようやく来た憲兵が倒れたジェットの確認をしだした。
(もう死んでるよ、そいつ。まあ、毒の種類は判らないだろうね。普通だったら死なない筈の良薬なんだから。)
メリッサの撃った針は薬品を二種配合した物で、単体使用なら良薬として効能を発揮するが2つを掛け合わせると途端に毒になる物だった。
(防毒のアミュレットの特性上、良薬自体は毒としては検知できない。血と2種の薬品が反応して毒薬になる薬何て物は対象外なのよ。)
{今、どちらにいらっしゃいますか?}
「ああ、さっきの入り口に来て。そこで受け渡しをお願いね。」
{畏まりました。}
そうしてメリッサは銃を解体しながらバックに仕舞う途中で、ある事を思い至った。
「そう言えばあんた、あたいの事を『男女』って言い続けてたね。多少のストレス解消に付き合ってくれてありがとう。実験に付き合ってもらい感謝します。地獄があるのなら、そこで色々やった事に後悔してな。」
そう言いながらバックを閉めると、繁華街の入り口に向かって飛び跳ねた。
切りが良いのでここで切ります。
TAC50かM82A3かM24E1ESRにしようか迷いましたがこれにしました。
魔道具紹介
完全気配遮断の外套・・・気配減衰の完成版。政策難易度が高い。
相互通信装置・・・いわゆるトランシーバー(イヤホン付き)。耳に付けるタイプで、付けた者しか聞こえない(一応聞こえて無いかの確認は必要)。
マーキングセンサー・・・受信側と送信側で対をなす魔道具。
バレットMRAD・・・メリッサの暗殺用武器(基本はトロリーバック型収納魔道具に収めて運ぶ)。
トロリーバック・・・異空間収納バックの一種でかなりの容量がある。(メリッサは銃以外に暗殺に使う薬品を大量に入れている)