3-9
「クソが!!!」
『瘦せ鴉』と呼ばれる者・・・ジェット=サグマは壁を蹴っていた。
最近、ぽっと出の新人がうまく実績を重ねていく様を、まじまじと見せられて荒んでいたのだ。
(何であのガキ共はあんなに稼げるんだよ!やっぱり何処かに狩り場がありやがる筈だ!)
そうして聞き出そうと詰め寄ったが、結果はそんな物は無いとの事。無理に詰め寄ろうとしたら、偶にしか現れない『男女』が来て、正論で論破された。
なら『勝手に調べてやる!』と意気込んで張り付いたら本当に狩場など無かったのだ。
堅実に探索し、必要なら警戒し、悪ければ撤退。そんな理想的なパーティー運用をまじまじと見せられたのだった。
(ふざけんな!?何でそんな上手くパーティーを運用できんだよ!?他人の意見が強すぎて、そんな風に出来ないだろうが!?)
自身が以前所属していたパーティーと比較しても、その練度は格別だった。
リーダーであるだろうダンの意見とパーティーの意見が合わさる事が多い上に、多少の意見違いをダンは査定して次の問題定義に繋げるように誘導するのが多かった。
自分の所属していた所ではその意見違いで空中分解が多発して、結局は依頼失敗の憂き目が多かったのだ。
(何であのガキ共はあそこ迄信じられる!?こんなの認められるか!?)
そうして様々な鬱屈とした気持ちが心に溜まっていくと、一種の功名的な案が閃いた。
「あのガキは名前を轟かせたいんだよなぁ、だったら先輩として轟かせてやるよ・・・。」
その功名は別名『下種の下策』とも呼ばれる物だと言う事に気付かなかった。
その日、ダン達のパーティーは北の森の中に居た。
内容はトロルスネークと言う、体長8メートル程になる大型の蛇を討伐して納品する事だった。
その蛇は大型故に隠れる事が余り出来ず、仮に捕まったとしても締め付けの力も強くない、見つければ討伐は簡単な魔物だった。
(簡単かもしれないけど、それ故に危険も在る。だから注意しないと。)
『かも知れない』は常に行う事を意識して、慎重に行動するのが肝心だ。と言うのをメリッサに教わりそれを実践していた。
だからだろう、その異変にいち早く気付いたのは。
女の子の悲鳴が森の奥から響いて来たのだ。
「なあ、おかしくないか?こんな森の中で女の子の声が聞こえるなんて?」
「おかしいですが、他の探索者かも知れませんよ?」
「それでも、一応の確認は必要だろ。その子が危険だったら助けよう。それでいいか?」
「「「良いよ。」」」
仲間の了承を得て声の方に歩を進める。そうして声のした森の奥の方に進むと、自分達よりも年下の女の子が多数の魔物に囲まれていた。
「何であんな小さな子が、こんな森の奥にいるんだよ!」
「判りません!ですが、危機的状況なのは明らかです!」
「すぐに救助ましょう!いつも通りのフォーメーションで!」
「判った!」
そうして何時もの通りに前後衛を分けた後、ダンは女の子に向かて突撃し始めた。
その空けた穴をレオナが盾で押し留め、ナダンが狙撃する。不測の事態に備えマイが魔法での援護に徹した。
そうしてダンは女の子の傍にたどり着くと怪我の具合を確認した。
「おい!大丈夫か!?」
「だ・・・大丈・・・夫です・・・。」
「何でこんな所に居るかは後で聞くけど、とりあえず避難するぞ。」
「わ・・・判りました。」
ダンは女の子を担いでレオナの方に向かうが、何故かダンの方に魔物が集中していた。
(どういう事だ?なんで俺の方なんかに魔物の殺気が向くんだ?)
それでも何とかレオナの元にたどり着いたダンは、ナダン達の方に向かいだした。
「レオナ!この魔物達なんかおかしい!原因があるはずだ!なんとか調べられないか!」
「無茶言わないでください!この数を捌きながら撤退するのは骨が折れますのよ!」
「あの・・・背中に何かないですか?ここに置き去りにされる前に、何かを貼られたんですけど。」
「今の状況じゃあ背中なんか見れない!ナダン!もう少ししたらこの子をそっちに投げるから調べてくれ!」
「判った!」
そうして無理矢理身体強化をかけて女の子を放り投げたダンは、もう一度魔物に向き合ったが、今度は投げた女の子の方に魔物が向き始めた。
「レオナ!ナダンの方に魔物が向かうから其方の方に回ってくれ!俺はできるだけ数を減らす!」
「了解よ!」
「ナダン!レオナが援護に入るからその隙に背中を見てくれ!」
「今やってる!・・・ふざけるな!何を考えてこんなの付けやがった!!!」
「何が貼られてた!」
「魔物寄せの魔道具だ!ここら辺の魔物全部此処に来るぞ!」
その言葉を聞いた全員が血が沸騰する感覚を覚えた。普通は緊急逃亡位にしか使わない魔道具を、子供に仕掛けて置き去りにしたのだった。
「今からでも止められないのか!」
「無理だ!使い捨てのやつで停止機構が無い!起動は終わってるから証拠は残るが、魔物の全滅までこの4人でこの子を守りながら戦うのは不可能だ!」
ここ此処に至って誰を残すのかを決めなければならなくなったダンは、素早く考えて答えを出した。
「魔道具の発動が終わってて魔物は此処に来るんだよな!?」
「そうだ!」
「・・・俺が残る!ナダンはその子を担いで街に、レオナは盾で攻撃をそらせ、マイは3人の護衛!」
「出来るかそんなの!全員で引きながらはできないのか!?」
「出来ないと言ったのはお前だろ!誰か1人でも証拠を持ち帰れないのが駄目なら、一番生存率が高い奴が残るのが確率が高い!それが俺だっただけだ!」
その場にいたダン以外のメンバーはその言葉で決意が決まった。女の子を担いだナダンを先頭にレオナとマイがその後ろに付いて全員が身体強化を掛けた。ナダンが駆け出し、レオナが追従する。
「死なないでくださいね。必ず戻ってきます!」
マイがそう言ってその2人を追いかけた。
「死ねるかよ、名前をまだ轟かせて無いんだ!」
周りを魔物に囲まれたダンの必死の抵抗が始まった。
その姿を下卑た目線が見つめていた。
切りが良いのでここで切ります。
魔道具紹介
魔物寄せの魔道具
形は様々ですが基本的には機能は同じ、ただ周辺の魔物を引き寄せる物
今回は一度効果が発動すると周辺の魔物がそこに集まるだけの物(持続性無し)
国によっては違法物(ロイズ国では準違法)(緊急時のみに使用できるが今回は完全な違法使用)