3-8
メリッサはまた北の探索者ギルドに向かっていた。
前回はユニコーンの確認の為に向かったが、今回は依頼者として向かうのだった。
(他国に新種の薬草が発見されたのなら、何とかして手に入れたいしね。)
少し前に新種の薬草の情報は出回ってきていたのだが、その出何処の判明に時間がかかっていたのだ。
(流石に他国からの情報は幾ら王都でも遅いからね、そのせいで出遅れちゃったよ。)
そんな事を考えながら北のギルド付近に来たメリッサは、中で騒動が起きているのに気が付いた。
(何時もの喧嘩かな?)
ギルドの中に入るとダンともう一組のパーティーが争っていた。
「てめぇ、いい加減にしろよ!」
「何がですか!俺達はちゃんと正規の方法で狩ったり納品してるんだよ!秘密の狩場なんて知りませんよ!」
「じゃあ何だ!全部偶然だったって言いてぇのか!」
「そうとしか言いようが無いんだよ!」
言い争いの内容は解らなかったが恐らくダンの幸運に関連した物の事は予想できた。
(まあ、あたいも探索者業だったら同じ事を思うからなぁ~。・・・それにしても片方は『瘦せ鴉』か、あいつ実力無いのに威張るからな~。)
そんな争いに関係無しで受付に行くメリッサだったが、受付の者が嫌そうにこちらを見てきた。
「止めないんですか?」
「止める理由がある?基本的には探索者同士の言い争いに、他の探索者は介入不可だよ。」
「このままだと建物が被害出るんですけど。」
「その時は止めるさ。幸い、止める為の魔道具は持ってるし。それよりも、他国で発見された新種の薬草の納品依頼をしに来たんだよ。」
「・・・畏まりました、少しお待ちください。」
受付が依頼書制作の為に書類の準備をしていると後ろで動きがあった。人を殴った音がしたのだ。
「このくそ餓鬼!先輩としてしつけてやるぜ!」
「ハッ!人殴って憂さ晴らししかできないような奴が、しつけとか言うんじゃねえよ!」
「ぶっ殺す!!!」
鞘から何かが抜き放た音がした。恐らく『瘦せ鴉』がダンを殴り、ダンが煽って『瘦せ鴉』が獲物を抜いたのだろう。
(流石に止めるか。・・・これ結構費用対効果が合わないんだよな~。)
腰にあるポシェット型空間収納魔道具から小さな球を取り出し、その球に魔力を込めて2人の間に転がした。
丁度2人の間に転がった球は魔力を放ち始め、障壁を作り出した。
「なんだ!誰がやりやがった!」
「そこまで。探索者同士のギルド内私闘は禁止事項だよ。」
「『男女』!てめぇだって初めは暴れてたじゃねえか!それなのに偶に来ては良い子ちゃんぶるのかよ!」
「その時はあたいの性別の件で暴れただけで、それ以降は暴れて無いよ。それにあたいの本業は錬金術師兼薬屋であって、探索者業はモノのついでだよ。」
そう言いながら争いの場に近づくメリッサは心底呆れた顔をしていた。
「ねえ『瘦せ鴉』。あんたは実力も無いのに威張り散らかす暇が在ったら、少しでも鍛錬なり知識を詰め込むなりしな。ダン君達の事をあたいは知ってるけど結構腕があるのよ。」
「ハッ!どうだか!?どうせ良い狩場を見つけてそこで実力を見繕ってんだろ!」
「あたいもこの子の活躍を他人伝手に聞いてたらあんたの判断に同意するんだろうけど、残念ながら直接見た実力的に噂は本物だよ。」
「探索者活動を全くしない奴の総評なんか当てになるか!」
「さっきも言ったけど、あたいは錬金術師。錬金術師が頻繁に前線に来る理由を言いな!それをしなくて良い様に、あんたらみたいな存在がいるんだろうが!」
その言葉で瘦せ鴉と呼ばれる者は俯き始めた、言われた事に対して反論が無いのだろう。
「話は途中から聞いてたけど、ダン君も言いすぎな部分は有ったかな。だからこの場は喧嘩両成敗だね。それとも、刃傷沙汰起こして永遠に資格停止処分になる?」
「チッ!」「すみませんでした。」
「判ればよろしい。ダン君、怪我を見せな。手持ちの薬草から傷薬作るから。」
「あの、それなら僕等の方から出します。この前、少し取り過ぎてしまったので。」
「あら、ありがとう。じゃあちょっと頂戴。・・・これならいけるわね【錬成】」
薬草を受け取ったメリッサは、その場で薬を錬成しダンの殴られた部分に塗った。
「はい、これで良し。しかし、あんたも災難ね。入ってからの実績が凄いから、怪しまれたんでしょうけど。」
「それはそうですが・・・」
「別に非難してるわけじゃ無いのよ。ただ、こう言うのが纏わり付いて来る位、急激な功績だった訳なんだけど。」
「おい!こう言うのってのは俺の事か!」
「そうよ『瘦せ鴉』。頼むからあんたみたいなのが先輩面しないで。安易に狩場何て物が在るのなら、それは異常事態でしょ?あんたの場合は金の為に報告しないのかもしれないけど、こんな新人の子達がそんなのを発見したら、ギルドに報告するでしょ。」
「ぐぬぬ・・・おい、行くぞ!」
その言葉で周り居た『瘦せ鴉』の取り巻きが共にギルドを出て行った。
「論破されたからって出て行くなよ・・・ダン君、ああは成ってはいけないよ。あの『瘦せ鴉』は実力も無いのに威張り散らしてる嫌な奴らでね、ちょっとでも功績がある新人に因縁を吹っ掛ける馬鹿な奴なんだよ。」
「そんなに酷いんですか?」
「虐めにたかり、酷い時では集団リンチ何てザラな奴らだよ。ギルドもあんなのを抱えたくないけど、見えない所でやるからギルドも切るに切れなくてね。」
「今は見えてましたけど・・・」
「ギルド規則に沿ったやり方ってのがあってね、殴る蹴るだったら注意で済んでたけど、刃傷沙汰の場合はその原因の奴の方が罰は大きいんだよ。」
「そんな酷い事って・・・。」
「仕方ないさ、基本的にギルドの規則でそう決まっていてね。奴はそれを熟知してるのさ。」
転がした球を拾って、ポシェットに収めてダン達に向き直ると屈託ない笑顔で言った。
「さあ、今日は災難だったがこれから何かしに行くのだろう?それで何とか気分を変えなさい。」
「何とかですか・・・できるかな?」
「出来るようにしなさい。そうしないと、この先の探索者業でもっと酷い事があるはずだから、その時に発散方法が無いと、ため込んで地獄を見るね。」
「解りました、変える為に何とかします。」
「その意気だ。頑張りたまえ。」
そうしてダンと別れて受付に戻ると受付の者に感謝され、それと同時に迷惑料で格安で薬草採取の依頼が出せたのだった。
切りが良いのでここで切ります。
使った球は使い捨ての物じゃないよ。
魔道具説明
障壁の魔道具
魔道具を中心に一定距離の壁を作る物。
形は様々で今回は球体型の物を使った。
物によっては使い捨てだが今回は再使用可能な物です(使い捨ての方が強力)(再使用には魔力の重点が必要)