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南区の麵料理屋は沢山あるがルイン達が入ったのは盛りの良さで人気を集める店で、ルインはトマトソースを、ケイはクリームソースのパスタを食べていた。
「やっぱ飯の量が多いですね。この辺りは。」
「労働者の町である南区で、お高いだけの量の少ない料理出してたら、最悪パワー系の兄ちゃん姉ちゃんが腕捲りして殴りに来るだろ。」
そう言ったケイに対してルインはその返しをした。
「俺、西区のそう言うお店も好きですよ。」
「時と場合によりけりだ。俺ならそう言う少なくて高い料理は、会食をしに西区か東区に行く」
「東もですか?」
「偶には魚介系の良い奴が食べたいんだよ。個人的に別大陸にある刺身と言う料理とかな。」
「刺身って・・・よく生魚食べますね。」
そう言ってケイはお腹の辺りを抑えた。彼は一度生魚を食べて寄生虫に当たったことがあるのだ。
その寄生虫の処理はルインがやったので覚えていた。
「うまく下処理すると良いんだよ。聞きかじりの知識でやるから痛い目に合うんだ。」
「なるほど。」
そして、グラスの中の水を飲みほして一息ついたルインは、おもむろに自分の上着の内ポケットをまさぐった。
「ここって、喫煙してよかったんでしたっけ?」
「吸い殻は自己処理だが、吸ってもいいぞ。・・・【灯火】」
そう言って煙草を引き出し火を着ける。
「・・・結構いい匂いですね。」
「まあ、知り合いのおかげだな。あいつの協力がなかったらこんな良い物は吸えない。」
そう言って、煙草を味わいつつ和気あいあいと話す。内容はやはり奥さんのお目出度の件だった。
「しかし苦節5年、ついに君も一児の親かぁ。」
「ありがとうございます。その苦節も先生の支えのおかげで苦にはなりませんでした。」
「俺がやったのは奥さんの大体の排卵日を調べるだけだよ。妊娠に必要な事をしたのは君達だから。」
「それでもです。治療院ならその排卵日?と、言うのも判りませんでしたから。」
そうケイに言われてむず痒しさを覚えたルインは必要以上に煙草の煙を口に含んだ。その煙を天井に向けた吐くと気恥ずかしさから話題を無理やり変えた。
「・・・駆け出し家具職人が師匠の娘さんと熱烈恋愛、その末に師匠を認めさせて独立、即結婚、普通にお姫様が夢に見たみたいなストーリーだな。」
「アハハ、そう言われるとちょっと恥ずかしいですね。」
そう朗らかに笑うケイを見て、毒気が抜かれながらもその先を話そうとしていた時だった。周りの噂話が聞こえてきた。
「また、変死体が出てきたらしいぜ。」「またか、今度はどんなんだ。」「首2ヵ所、内側から破裂しとったそうな。」「この前は毒耐性のあるアミュレット持ってたのに毒殺だったな。」「その前は全身の水という水が真水に変わった者だったのぅ。」「でも、その変死体達、結構人から恨まれてたよね。」「・・・って事は、あの噂の?」「そうかもしれん。」「いや、噂は噂だろ。そんなもん眉唾だろ。」
そう聞こえてきた。
食事処でする話じゃないのにそんなのを聞かされた2人は、多少の嫌悪感をにじみ出た顔をしながら、
「・・・せっかくの良い気分が台無しですね。」
「そうだな。」
そう言って煙草の火を消し、吸い殻をポーチの中に入れながら席を立つルイン。それに合わせてケイも席を立った。
「お会計だよ~。どんだけだい?」
そうケイが言うと、近くの店員が駆け寄ってきた。
「お会計は一緒ですか?」「別々で。」「じゃあ、一人、銅貨5枚と鉄が5枚です。」「「はい。(おう。)」」
ポケットからそれぞれ銅貨と鉄貨を出し、店員に渡す。
「お二人ともちょうどですね。ありがとうございました。」
その声を聴きながら、そのまま二人は店を出た。
2人とも同一の方向に仕事場があるので自然と同道していた。
「『新月の夜に、ある場所で、お布施と恨み言を言うと、恨まれた者がろくでなしに殺される』でしたっけ?あの噂?」
そんな事を帰りの道中でケイがルインに聞いてきた。
「そんなんだな。まあ、噂は噂。誰かの与太話さ。」
「そうですよね。でも、僕はちょっと怖いですね。」
「なんで?」
「いやぁ、師匠に認めてもらったのは良いんですが、大切な一人娘を、どこぞの馬の骨に取られたのは結構、恨まれてそうで・・・。」
「納得ずくだったんだろ?弱気になるな。それに、これから親になる奴がそんな弱気でどうする?これから先、もっと弱気になりそうな事が一杯あるのに今からそれだと身が持たないぞ。」
「・・・判りました。気を付けます。」
そう言いながら他にも世間話をしていると、医院の前まで戻ってきた。
「それじゃあな。仕事終わったら奥さんの所行くのか?」
「行きますよ。すごく好きなので。できればいつも一緒にいたいんですけど、お金が無いと何もできませんからね。」
「これからもっと大変だからな。医者として言える事は『健康第一、体に気をつけろ』だ」
「ありがとうございます。それでは。」
「あいよ。」
そう言って、ケイと別れてルインは玄関の鍵を開けて看板を『open』に返しながら建物に入っていった。
切りがいいのでここまでで。
ルインの煙草について
製作者「肺に煙を入れても、病気になりにくい薬草で作った(ドヤァ)」
基本、ルインは口の中で煙を溜めて、肺には落とさずに吐き出す吸い方です。
製作者の薬草知識とルインの医療知識の合作で作った物で、少々高いですが双方納得の品になっています。
(なお、この製作者は今後登場します。)