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そうしてオーバンが意識のないリルをさらに締め続け、結構な時間が経った後に彼女を解放した。
確認の為に座ってルインに教わった簡単な死亡確認を行うと、死亡しているのを確認した。
(ちゃんと死にましたね。絞殺では無く、切断の方が簡単なのですが今回は事後処理の関係で絞殺の方が都合が良いんですよね。)
そうして、立ち上がると手で柏手を打った。その瞬間に密偵の1人が出てきた。
「終わりましたか?」
「はい、お仕事終了です。これから事後処理をお願いいたします。」
「畏まりました。どの様にいたしましょう?」
「まず彼女の家に、彼女を首吊り死体として偽装してください。その現場にファドン侯爵の密書と汚職関連の書類を適当に散乱させておいてください。」
「密書は判りますが汚職の書類もですか?」
「あの侯爵家は後ろ暗い事が私にも聞こえてきていますので、決定打として出しましょう。そして今回の事件をファドン侯爵の指示とする書類を死体の下に遺書と共においてください。死体発見は明日の朝にお願いします。とりあえずは以上ですね。」
「遺書の内容は?」
「今回の事件で罪の意識から死んだ事、ファドン侯爵の指示だった事ですね。」
「畏まりました。では・・・」
「ああ、次はメイリンさんに監視をお願いしたいのですが?」
「その時にならなければ誰が配置になるか判りませんので、確約は出来かねます。」
「つれないですね、仕方ありません。ではお願いします。」
そうして、密偵と別れたオーバンは帰路に着いた。
翌日の朝にリルの死体が指示通りに発見された。
そして死体の調査に警邏隊のジタンが現場に入っていた。
「首吊り自殺なんだよな?」
ジタンは死体に不思議な点を見つけていた。
「そうですね、そのように出ています。」
「だとしたらおかしくないか?」
「どこがですか?」
「この索条痕だよ。よく見たら首の全体に渡ってる様に見える。首吊りなら縄の掛かってる部分だけなのにこれはおかしいだろ?それに指だが、なんか適当に繋いだ痕無いか?」
「そんな風に見えますか?自分には見えないです。」
「おい、他の奴も見て観ろ!この傷どう思う?」
そして他の隊員にも聞いたが『そんな風には見えない』の声が多数上がった。
(気にし過ぎか?その位の方が良いんだが。)
「お前らの意見は判った。一応、治療師に見てもらうが、同じ意見だったらファドン侯爵の方に調査を向けるぞ!こんだけ証拠があるんだ、どんなに上の地位でも絶対に逮捕するぞ!」
「「「「「了解!!!」」」」」
そうしてさらに数日後、オーバンは自室で目を覚ました。すでに日は結構高くなっていた。
(今日は・・・休日でしたね。)
休日だからと少しだらけきっている自分に苦笑しながら、今日の予定を立てようとしていた。
(何故でしょう?何時もの休日なら新しいデザインの為に、街に出る筈なのに今日に限って言えばしたくありません。)
その原因を探っていると思い至ったのはミリスの事だった。
(恐らくは、まだ引きずっていたのですね。ならこういう時にはお酒です!ちょうど仕事終わりに飲もうと決めていた物もありますし!)
そう決めたらさっそくワイングラスを出し、例のワインをグラスと共に机に置いた。
(まずは味見ですね。此処で馬鹿な事をやると残りが台無しですので。)
ワインをグラスに一口分入れて匂いを嗅ぎ、軽くグラスをスワリングした後にもう一度匂いを嗅ぐ、そうした後に入れた分を口に入れて、ゆっくりと口の中で香りと味を味わった。
(ああ、良いですね。ワイン単体で味わえる程の強い匂いと酸味。口の中で少し唾液と交わると出てくる渋みが、他の物を余計な物としてしまいそうです。)
だが、つまみが無い状態の飲酒は相当早く酔いが回ってしまう。
(これにはさっぱりした物が良いのでしょうが、酢の物では駄目ですね。さっぱりとしたチーズなんてどうでしょうか?)
そうして冷蔵庫の魔道具を探っているとカッテージチーズを取り出した。
(これなら合いそうです、余韻がある内に試食しましょう。)
そうして口に含むと先程のワインが奇麗に混ざって納得した感じになった。
(この組み合わせですね。では、楽しみましょう。)
グラスに半分程のワインを入れ椅子に座ると、丁度日差しがグラスを反射して目に強い光が入った。
その時に一瞬だが、ミリスが自分の服を着て踊っている姿を幻視した。
(なる程、これは相当な引きずりですね。)
普段からにこやかな自分の顔をさらに綻ばせながら、グラスを自分の顔より少し上に持ち上げてこう言った。
「来世があるのなら、素敵な服を着て元気な姿で人生をお楽しみください。」
そう言い終わると、グラスを口に傾けた。
これでこの章が終わりました
良い年の瀬を(2024/12/31ですので)
オーバンがメイリンを指名した理由
オーバン「だっていつもあの服じゃないですか!偶には着せ替えたいのですよ!」
ビスティリシ・ヴォルペぇ・・・