2-9
ワインを仕舞った後にアトリエに戻ろうとしたオーバンだったが、店舗部分が騒がしいのに気づいて、確認の為に降りてきた。
「どうしたのですか?」
「あ、店長。」
店舗部分に入るとそこにはパインが立っていた。
「こんにちは、オーバンさん。ちょっと衣装の事で相談があったのだけれど、新人さんが私の美しさに驚いちゃって。」
「それは申し訳ございません。・・・それで、衣装と言うのはどう言う物でしょうか?」
「今度入る嬢が結構な物を持っててね、その為に新しい衣装の方が良いかなと思ってここに来たのよ。」
『結構な』の所で胸の横を手首で回していたので、相当な物を持っている方なのだろうと思ったのだが、その行動は皮肉にしかならないだろう。
「セクハラ覚悟で言いますが、貴方が言うと相当な皮肉ですね。今も一部の方にとっては目に毒ですよ。」
「誉め言葉として取っておくわぁ。」
「それで、肝心のサイズはどの位ですか?何でしたら煽情的なデザインの物を、首の後ろに大振りなリングを付けて結べるようにできる物が良いかと思いますが?」
「それ採用!できればフリーサイズで何個か作って欲しいのだけれど・・・」
「普通の布で良いですか?それなら可能ですが。」
「お願いね、できたらすぐに連絡を頂戴。貴方が直接じゃなくても良いから。」
そう話していると今度はいつもの外套を纏ったメイリンが静かに入って来た。
「すいません、オーバンさんはいますか?」
「あら、メイリン?どうしたの?」
「オーバンさん昨日、探索者に依頼出した?」
「出しましたが・・・まさかもう入って来たのですか?」
「うん。偶々、ギルドに居た私がギルマスから緊急依頼で伝言に来た。」
「・・・何か貰いました?」
「ん?何か貰う物あった?」
その言葉でパインの空気が変わった。恐らくは偶々居たメイリンに、無償で言伝を頼んだのが琴線に触れたのだろう。
「パインさん落ち着いてください。言伝の内容は私なので、私がシバイてきます。」
「店長!ちょっと・・・」
「行きますよ、メイリンさん。案内をお願いします。」
「わかった。」
手早く必要な物を持ったオーバンはメイリンを伴って探索者ギルドの前に来ていた。メイリンがギルドに入ろうとするのを止めたオーバンは自分に身体強化の魔法をかけて、ギルドの扉を蹴っ飛ばした。
「ギルドマスターは居ますか?ちょっと話があります。」
そうして入ったオーバンの目は冷えていた。ココには結構な数の探索者がいたが、その全員がオーバンと言う人間を知っていたので、ここまで冷えた目をする人物だと思えなかったのだ。
「あの・・・オーバンさん・・・身体強化を・・・」
「ギルド、マスターは、居ますか?」
「只今呼びます!お待ちください!」
そうして受付が奥に引っ込む事数分、厳つい上にガタイのいい男が降りてきた。
「おう、オーバンさんどうした?昨日の依頼の事だったら・・・」
降りて来て暢気な声で語りかけてきた男の頭を強引に掴み、そのまま強引にカウンターに叩きつけた。
「何しや「動くな、ずれたら危ない【絹糸傀儡】」」
そして、手早く持ってきた物を背中に縫い始める。作業にして数十秒立った時に糸を切ったオーバンは男を解放した。
「こんな所ですか。もう動いて良いですよ。」
「いや、何しやがる!何をやった「バンヒュ!」・・・あ?」
恐らく背中にある物をいち早く見た受付は、それを見た瞬間に盛大に噴き出し、そのまま地面に転がった。
「おい!?どうした!?」「グヒュ!」「ビュハ!」「ボッフォ!」
そうして背中を向けたギルドマスターの背中を見た者が次々と噴き出していた。
「おい何だよ?何があったんだ!」
「ギルマス、ジャケットの背中を見ろ!とんでもない、・・・駄目だ笑い死ぬ!」
「背中?・・・なんじゃこりゃ!?」
ジャケットを脱ぎその背中を見たギルドマスターは絶叫した。
何せそこには、可愛らしい文字の『DANGER』とデフォルメされた可愛らしい熊のアップリケが縫い付けられていた。
「おい!オーバンさん!これ早く取ってくれ!」
「取っても良いですよ。その代わり彼女に対して報酬を。」
そうして、メイリンを前に出したオーバンだったが、ギルドマスターは怪訝な顔をしていた。
「何言ってやがる?言伝の件か?」
「それですよ、私が赴いたのは。『仕事には報酬を』この言葉は師匠から賜った薫陶です。彼女は『伝言』と言う『緊急依頼』の仕事をした、その報酬が無いのはおかしいと思いますよ。」
「こんな事で報酬を払ってたらギルドが赤字になるわ!」
「簡単な物で良いのですよ。水の一杯でも良いと思いますが。」
「・・・嬢ちゃん、それでいいか?」
「何でも良い。」
「解った。後で目の前で渡すから、先に取ってくれるか?」
「畏まりました・・・良かったですね、私で。今、私の店にパインさんが居たのですよ。」
「・・・逆に助かったのか。命拾いした~。」
「どう言う事?」
「パインさんには結構な逸話があるのですが、パワー関連は事実です。」
「彼女の本気のビンタ一発で首がもげたってのがあってな、そんなのを食らいたくないんだよ。」
「そんなに凄いとは思えない。」
「まあ、結構な細腕ですからね、信じられないのは判ります。」
「そうじゃなくても、娼館長の1人に睨まれてるとな、男は結構危ないんだよ。」
そう言っている間にアップリケを取ったオーバンは軽く謝罪をし、依頼品を受け取り布屋に染色依頼を出した。
丁度いいのでここで切ります。
くどいかなと思いますがお付き合いください。
ギルドの扉とギルマス
実は扉は両開きです。
ギルマスは眼帯付けたロック様。