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オーバンは近くの椅子をベットの近くに運び、その椅子に座った。
「それではオーバン様、娘の為によろしくお願いいたします。」
「おや、出ていかれるのですか?」
「申し訳ありません。今は仕事が忙しく、出来ればここに居たいのですが、それも叶わないので。何か有りましたら、メイドを置いておきますので、そちらに指示をお願いいたします。」
「畏まりました。」
「では、・・・ミリスすまない。」
「大丈夫です。お仕事頑張ってください。」
そう言ったラジアルが出ていき、入れ替わる様にメイドが1人入って来た。そのメイドは壁際に立つ用に控えたので、オーバンはミリスに向き合い話をし始めた。
「さて、申し訳ありませんが、まずはお部屋の状況を見て良いですか?」
「構いませんが?何故でしょうか?」
「ここではっきり申し上げますが、あなたに対しては『何を着せるか』より『どのような物を連想させるか』の方が良いと思うのですよ。」
「どのような物、ですか?」
「はい、きめ細やかな肌、ご病気に在らせられるのに褐色の良い顔、骨張っている訳でも筋肉質でも無い腕、衣装の選択肢が無制限に出てきてしまいます。ですので、あなただけの一着を連想できる物の方が衣装を作るためのヒントになると思いまして。」
「それと部屋の状況がどのような関係が?」
「ここに長い事いらっしゃると言う事は、貴方にとっての好みで埋め尽くされている可能性がございます。そこで、この部屋を観察し、お気に入りの物を連想できるような衣装が良いと思いまして。」
「分かりました。お願いします。」
「ありがとうございます。何回か質問させていただく事になりますので、お加減が悪くなれば申し付けてください。」
そうしてオーバンは室内を見渡し始めた。室内は必要最小限の物しかなかった。それ故なのだろう壁際に咲く花が妙に気になった。
「黄色のパンジーですか?珍しいですね。」
「そうでしょうか?」
「ええ、パンジーは色取り取りの花を咲かせますが、ここにある物は黄色だけで統一された物ばかりですので。」
そう言ったオーバンは窓の外にも黄色の花を咲かせるパンジーの群れを見た。
「黄色がお好きなんですね。」
「はい。昔、治療院の外にあった花畑が奇麗で、その中でも一番奇麗に咲いていたのが、黄色のパンジーだったのです。」
「では、これをベースに作りましょう。」
「宜しいのですか?確かデビュタントは着る服が決まっているのではないのですか?」
「何世代も前の王がデビュタントの衣装が一緒過ぎて『同じ衣装は見飽きた!好きに着飾え!』とキレましてね。それ以降、この国のデビュタントでは過度に露出さえしなければ、好きなように衣装が着られます。」
「ええっと・・・何と言うか・・・凄まじいですね。」
「まあ、凄まじい王家ですから・・・。」
そうしてスケッチブックを出したオーバンは、色々なデザインを見せようと思ったが、取りやめ新規にデザインを描こうと思った。
「ミリス様、今から新規でデザインを描きます。どうかその間に、要望等が有りましたら。お申し付けください。」
「既存のデザインからでは無いのですか?」
「既存のデザインは確かに安定はしますが、恐らく野暮ったいイメージになってしまいそうなので、今回はやめます。ご覧になりたいのでしたら渡しますが?」
「いえ、それよりお話がしたいです。」
「私とですか?」
「はい、その・・・お恥ずかしいのですが、あまり家族や手伝いの方以外と話した事が無くて。そこ以外の外の世界が知りたいのです。」
「分かりました。受け答えが多少適当になりますが、可能な限りお答えします。」
そうしてスケッチをしながらオーバンはミリスと話し始めた。
「では、先程の王の事とか王家の事を教えていただけますか。」
「そうですね。・・・私が詳しく知っているのは今の王と次期王・・・今の王子ですね。」
「どの様な方なのでしょうか?」
「凄まじい王家と先程言いましたが、本当に凄まじいのですよ。何せ歴代の王達は気軽に変装して城下町に来ます。王と王子が同時に王城に居ないなどザラなのです。今の王など、王子とばったり会ってそのまま酒盛りしているとか、王妃が一緒にいて暴漢を叩きのめしたとか、逸話に事欠かないのですよ。」
「・・・近衛はどうしてるのでしょう?」
「探していますが、いつの間にか秘密の抜け道が増えているそうですよ?」
「王城は穴だらけなのですね。」
「穴で済めばいいのですが。」
言わなかったがオーバンは、その王と王子が一緒に酒盛りしている現場に居て、盛大に噴き出した事がある者の1人だった。
「まあ、そんな王ですがご病気だったのは知っていますか?」
「そうなのですか?聞いてる限りとてもやんちゃな方で、病気とは縁遠そうなイメージなのですが。」
「治療院が匙を投げた程の病気だったのですが、ある治療師のおかげで助かったのですよ。ただ、治療の為に教会の教義違反をしたその治療師は異端審問にかけられました。ですが、王の恩賞でその治療師は破門になりましたが、その経験から教会の国家に真っ向から喧嘩を吹っ掛けようとしてるのですよ。」
「大丈夫なのですか!?この国は!?」
「まあ、大丈夫でしょう。幾ら王でも正当な理由無しに、他国に侵攻しようとはしません。」
「それはそうですが・・・そう言えば、王子はどうなのですか?」
「王子も相当ですよ。先程の酒盛りもそうですが、悪徳貴族の屋敷に一人で乗り込んで大乱闘の大立ち回りをしたり、収穫祭の会場に居て一緒に収穫を楽しんだりしているそうです。そのせいか大臣や近衛の隊長は頭髪がいつの間にか無くなってるそうですよ。」
「なんでそんなのが王族をやれているのでしょう。」
「困った事に歴代王は全員善政を敷いているのですよ。そもそも城下町に降りて来ているのも仕事が終わってやる事無いからですから。」
「うわぁ・・・お父様が偶に頭を抱えている理由が分かりました。」
「そうですね、伯爵家となればそれなりの役職でいますからね。・・・と終わりました。ご覧になりますか?」
「もちろんです。見させてください。」
そうしてミリスが見たスケッチは黄色のパンジーを連想させるような物だった。
2色の色で構成されたドレスで、大部分が濃い目の黄色の色で首元と腰の部分が濃い赤の差し色で決まっており、肩回りはすっきりとし、後ろの部分も下品にならない程度に空いている事で肌の露出と通気性を両立させていた。腕には長手袋をする事によって腕の細さをカバーしていた。
まさに、自分の為のドレスと言える物だった。
「凄いです!このような物を私が着られるのですね!」
「多少は変更点があるでしょうが、大体はそのようになる様に作ります。」
すでに自分がそのドレスを着た状態を想像できたのか、満面の笑みを浮かべるミリスにオーバンは笑顔になった。
切りが良いのでここで切ります。
黄色のパンジーの花言葉「つつましい幸せ」「田舎の喜び」
(by、Yahoo!検索)
そして暴れん坊王家(嫁入りしてるのもかい!)でした。
ある日の王家 グレープフルーツ味
「このクソ宰相!」「このクソ国王!」「夫殿、顎を打ち上げるのなら天に届くように、腹にやるならねじ込むように打つのです。」「嫌、止めてくださいよ王妃様!こっちは宰相止めるのに必死なんですけど!」「王子はどうした!この状態を止めれるのは王子だけだ!」「それが王子の部屋に書置きで『仕事終わった城下行ってくる』と」「逃げやがったあのクソ王子!(ボトッ)」「ああ、隊長の髪が抜けて伝説のNAMIHEIヘアーに」
以上、起きたかどうか分からないある日の王家の一幕でした。(何で本編で書かないのかって、書くスペースねーよ。)