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自分が起こした殺人の現場から離れたルインは、内ポケットから煙草を取り出して火を着けた。
(別に、裏仕事はストレスとは思って無いんだがな。・・・仕事の後は気分を切り替える儀式みたいにしてるのが原因かな?)
基本はストレス軽減の為に吸っている煙草なのだが、こうも毎回だと考えてしまうのだった。
「お疲れ様。」
「案内と監視ありがとな、メイリン」
「それが仕事。」
屋根の上で仕事の遂行を見届けていたメイリンが、上から降って来た。そして、仕事についての話をし始めた。
「後処理どうする?準備できてるよ。」
「噂を流す事と、新聞に今回の事件を上手く掲載してくれ。」
「内容は?」
「噂の方はライルが横恋慕してしつこく迫った事と、マリンさんの死に疑問を持った知り合いが居るように仕向けてくれ。新聞はライルが死んだ事と違法物の発見で良い。」
「依頼人が怪しまれない?」
「怪しまれるだろうがそこは仕方ないと割り切ろう。依頼自体はしたんだが、証拠が無いからな。水掛け論だよ。」
唯一の証拠である手紙が回収されているので『オークション』までたどり着けないから、依頼が有った事が関係者以外では判らないのだ。
「判った、伝えとく。・・・一緒に居て良い?」
「方向は途中まで一緒だからな、別に良いぞ。」
そうして、新聞社ある方に2人は動き始めた。
「何話そう?」
「別に何も話さなくても良いんじゃ無いか?そもそも、会話する内容なんて長い事付き合いがあるせいで余り無いだろ。」
出会ってから数年、表も裏も一緒に居た時間が長いので、大体の趣味趣向は互いに知っていた。
「いつも思うけど、あれでどうやって殺してるの?」
「・・・殺しの技を聞くのは、マナー違反なんだがな。」
「疑問は聞けって言ったじゃん。」
その言葉は昔、メイリンに色々と使える技能を伝授する為に授業をした事がある時に言った言葉だった。
「まあそうだな、そう言ったな。・・・他にばらすなよ。他人に手の内がばれると警戒されるからな。」
「分かった。」
そうしてルインは一息つくとメイリンに説明を始めた。
「さて、俺の技だが、別大陸の素手の技に像形拳って技がある。色んな魔物の特徴を素手で表現する物なんだが、俺の場合、治療で使う器具を表現して、その器具の誤った使い方を再現してるんだよ。」
「武器の方が楽そう。」
「標的と憲兵に警戒されない為だな。武器があるとそれだけで警戒心ができる。それで仕事がやり辛くなるだろ?」
「ん、警戒する。」
「だから俺は素手なんだよ。他の奴だって、自分の武器を、武器に見えづらい工夫をして殺しに向かうからな。」
「じゃあ、今回表現したのはどんな器具?」
「覚えてるかテストしよう、注射器の話はしたな?」
「確か、液体の薬剤を器具に入れて、入れた薬剤を対象に注入する器具だっけ?実物、見た事無いけど。」
「中々シリンジとプランジャができなくてな。『薬屋』が完成させようと躍起になってる。」
『そんなのがあれば細かい液剤注入が楽~。』と開発に勤しんでいるが、特にプランジャの再現が出来なくて結構、金がかかってるのだった。
「それ以外の使い方もあるが、俺の話は人に使う場合だからな。で、この注射器は使い方を誤ると危ないんだよ。特に、血管に使う場合な。」
「その結果が、さっきの爆発?」
「その通りだ。解りやすく言うと、高速で流れてる液体に物凄い狭い道を用意すると、その入口に負荷がかかるだろ。そうして耐久限界になるとその入り口が水圧で壊れる。あれはそれの再現だ。」
「理解した。」
「俺は他にも技はあるが今回のはそれだな。腕の硬化も身体強化も、器具の再現に必要だから使ってる。」
ルインはそう解説したが厳密に言うと違っていた。実際は指で突いた時に極小の魔力を血管の中に飛ばし、血管の中で硬化させ塞栓を作ったのだ。魔力を飛ばす為に体ごと強化して、硬化をし易くする為に腕を丸ごと硬化していた。
そして穴だらけの説明をしたのは自分の殺し技の露見を防ぐためと、幾らメイリンに自分が教育を施したとはいえ、幼さのせいで血管の構造を上手く想像できる事が出来ないだろうと思っての事だった。
そうして話は終わりにしようとしたルインだったがメイリンの次の言葉で雰囲気が変わった。
「・・・そういえば、何で怒ってるの?」
「怒ってる?」
「気付いて無いの?裏の仕事の後、ずっと怒ってる。」
「・・・言われればそうか。まあ、内容は解るが。」
「なんで?」
「自分に怒ってるんだよ。こんな事やってる自分のろくでなし加減にな。」
「ろくでなしじゃないよ?逆に立派。」
「いや、ろくでなしだよ。だってそうだろ、人を治すのが仕事の医者が、何で率先して人殺してんだよ。しかも金まで貰ってな。」
そう言って皮肉気に笑うルインは続けた。
「復讐したくてもできない人の為って、奇麗なお題目は貰ってるよ。だがな、所詮は人殺しだ。行為自体は褒められたもんじゃない。むしろ非難される物だ。」
「非難されたいの?」
「その方が幾らか楽だよ。よく覚えとけ。この仕事はどんなにあがいても、ろくでもないもんだ。誰も正義の味方なんかじゃないのさ。だから立派なんて言葉は相当な皮肉さ。」
そう言って大量の煙を吐き出すルイン。ちょうど新聞社と医院への分かれ道が迫った。
「私もいつかその気持ちが分かるかな?」
「続けていくなら判らされる。そういう仕事だ。じゃあな、処理頼んだ。」
「じゃあね。」
そうして分かれ道に着いた2人は、そう言って別れた。
切りがいいのでここら辺で切ります。
怒ってるって事はストレス溜めてんだろと言われるかもしれませんが、当人はストレスじゃないと割り切っています。(ルインにとっての大体のストレスの原因は馬鹿な患者と馬鹿な治療者)
『薬屋』と新聞社と魔物について
薬屋は先出だと鉄扇の材料提供者にして煙草の製作者。
新聞社は大きい街には普及しています。ロイエンタールでは密偵が何人か働いていて、随時情報収集中。
さらっと出しましたが魔物も居ます。それでできる商品もあります。