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(どうしてこんな事になった?)
ライルは薄暗い道を歩いていた。その足は千鳥足になっており、かなりの量の酒を飲んでいたようだ。
その思考は一種の現実逃避に入っていた。
(彼女に男じゃ無いって言われてついカッとなって。)
そうして思い出すのは自分が殺した状況だった。確かに怒りで見えなくなったのはその通りだったが、その前の行動に途轍もない補正が入っていた。
(彼女がいけないんだ!彼女が僕の愛を受け入れて、僕と一緒に来てくれたら、あんな事にはならなかったのに!)
もはや自分の都合の良い妄想で精神を落ち着かせようとしているライルは、目の前から迫って来る人物に気付いた。
「ふぁれ、ルインふぇんふぇい。ろうふぃたんでふふぁ?」
「ああ、やっと見つけた。久しぶりだね、ライルさん。相当飲んでるね。」
「ふぇえ、ふぃあなほろはふぁりまふぃて。」
そうして、こちらに向かって来たルインは、ライルの目の前で止まった。
「ほうひはんふぇすふぁ?」
「まあ、ちょっとね。君を探してたんだよ。」
「ろうふぃて?」
「簡単に言うと君に対しての治療が足りなくてね。それに対しての謝罪と報酬の事で確認したい事があって探してたんだ。」
「しょうらんれふね。」
「で、治療不足の件なんだけど、少し解析させてくれないかい?」
「ふぃいでふよ。」
そうして、さらに近寄ってきたルインはライルを解析をした。
「解析終了。うん、やっぱりあの時のやり残しがあったね。簡単な奴だから、ここで処置するね。」
「ろんふぁんですふぁ?」
「多少痛いよ、【身体強化】【腕部硬化】」
そう言ったルインは自分の指を片方づつ束ね始めた。
(体の強化は判っても、何で腕の硬化なんてしたんだ?でも治療に必要な事なんだよね。)
酒のせいで思考が鈍っているライルは、目の前の異常事態に気付いても、それが治療の為と納得していた。
そうしてルインは束ねた指をライルの左右の首筋それぞれ打ち付けた。
「治療は完了したよ。やり残しも処置できた。」
「ふぁりふぁふぉうふぉざいまふ。ふぉれふぇ、ふぉんふぁひょうひふぁんでふふぁ?」
暢気なライルは感謝をした。ルインは何故か俯きながら距離を離しつつも話し始めた。
「ああ、それはね、恋の病って言って本来は治らないんだよ。今やったのはその為の対症療法だよ。」
「ふぇえ、ふぉんふぁ・・・」
そう言った瞬間にライルの首が両側とも爆発した。そして血が噴水の様に噴出した。
(え?なんで首が?)
急激に力の抜けたライルは地面に倒れた。そして治療してもらおうとルインに手をのばして、そこで俯き気味だったルインの顔を見た。
(何で・・・あんなに冷たい顔をしてるんだ?)
その顔は能面の様に感情が無く、目は凍えるように冷たかった。まるで、捨てられるゴミを見るような物だった。そんな顔をしたルインが話し始めた。
「お前の恋の病は異常だよ。愛し合っていた2人の幸せを、横恋慕で全部ぶち壊したんだからな。だから、お前を助けてしまった俺に、殺人の依頼が来たんだ。」
(なんだソレ!ふざけるな!僕は被害者だ!)
「多分お前は今、自分を被害者だと思ってるかもしれないが、その思考自体が異常だ。普通は罪の意識から、罪人としての行動をしなきゃならないのに、酒におぼれて現実逃避してるのは、その意識が希薄だからだよ。そんなお前に医者としてのできる事はそれでも助ける事なんだろうが、俺はもうお前を助けようと思って無くてな、だから手っ取り早く最高の処置をしに来た。」
そのまま後ろに振り返ったルインは、ライルが死亡していくのを確認しずに去っていく。その行為でライルは自分の周りに誰もいなし、治す者がいない状態に気付いた。
(嫌だ・・・死にたくない・・・先生・・・助けて・・・。)
手が震え始めたライルは、そのまま去っていくルインの最後の言葉が聞こえた。
「死んで神の御前で許しを請いな、人でなし。」
その言葉を最後にライルは力が付き、死亡した。
切りがいいのでここで切ります。
暗刃だのロージアだの言われるのは覚悟しています。
使用魔法
腕部硬化・・・補助系統で名前の通り腕を固くするもの。