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そこは広くも無いが、決して手狭と言う事は無い劇場だった。劇場の中は暗く、その劇場の広さには釣り合わない人数が客席に座っていた。
疎らに座っている客は、泰然自若とした態度で劇の開始を待っていた。
そこに、一人の女性がスポットライトに照らされて入って来た。いつもの服に豪華なアームカバーを着けたパインだった。
パインは壇上の中心に向かうと、客席を向いて一礼した。
「皆様、大変長らくお待たせしました。只今より、緊急の『オークション』を開催いたします。」
礼を終えたパインがオークションの説明を始めた。
「いつもの事ですが入札者の皆様にご案内いたします。当オークションは出品者の嘆きや無念、遣る瀬無さを、お金と言う形で受け取り出品物に対して、殺害をしていただく為の競売となっております。」
そうここに居る入札者が全員殺し屋だったのだ。
「その為、各規約がございますが現在、違反になるような者や初めての者が居ない為、割愛させていただきます。」
そうして、応業な身振りで内容を話し始めた。
「今回の出品物はライル=デミトリスと申します。彼は、出品者のケイ=ストラグの妻に当たりますマリン=ストラグを殺害いたしました。」
客席から嘆息が聞こえ、それに満足したパインは続きを話した。
「何故、ライルがマリンを殺したかの説明をいたします。我々の調べによりますと彼は、マリンに恋をしていたそうです。ですが、その恋は恋とすら呼べない物でした。彼は、結婚して妊娠中の人妻に対し、夫であるケイと別れて自分に靡くように迫っていたのです。」
そう話した所、客席の何人かから既に殺気が出始めていた。
「彼の犯行は、用意周到でした。使い捨ての認識疎外の魔道具を用いてマリンに接近し、至近距離から胸を貫きました。その傷は背中まで貫通しており、数分後、彼女は死亡。自分は安全に逃げ去りました。」
実際はライルは錯乱して逃げたのだが、それは密偵以外は犯人であるライルしか知らない事実なので、多少の捏造で観客が湧くのなら良しとしてパインは締めに入った。
「この出品物に対しての提示額は金貨5枚からとなります。落札方法は提示額から競売者呼びかけでの値下げ式で行ないます。では、入札者の皆様、存分に競り合ってください。」
俗に、ダッチ式オークションと呼ばれる方法で、人の命を弄ぶ競売が開始された。
「金4と銀90」「金4と銀85」「金4と銀75」「金4と銀50」「金・・・」
どんどん値段が下がて行くその中で、
「金2」
その値段が提示され瞬間、周りが静かになった。
「金2・・・金2以下は無いか?・・・無いようですね。ではこの出品は金貨2枚で落札となります。」
打ち鳴らしは無かったが、その言葉で落札者が決まったのだった。
「本日のオークションは以上です。落札者はこのまま残ってください。」
そうして競売が終わると、客席の客が劇場を出て行った。最後に落札者となった者が、パインに近づいて来た。
「あら、運よく落札できたのね、先生?」
近付いて来たのはいつも着ている白衣ではなく、黒いジャケットを着たルインだった。
「落札する気ではあったからな。どこら辺が下限値かは、周りを聞いてれば分かるからな。」
「ではこの殺し、ルイン=ギルファ様に果たして頂きます。よろしいですね?」
「構わない。」
「現在の犯人の状態は要りますか?」
「頼む。ただ、現在位置だけで良い、それと変装の為に化粧室を貸してくれ。」
「承知いたしました。では、お仕事を開始してください。」
「了解した。変装が終わったら始める。」
そうして、ルインは劇場の化粧室に入り、ジャケットの内ポケットから整髪剤を取り出した。
その整髪剤を手に塗り、髪を後ろに流して一度鏡の前に立った。
(別に、ナルシストって訳じゃ無いが、こうやって印象を変えるのは変装の意味があるからな。・・・ケイさん、あなたの無念、俺が引き受けました。)
そうして化粧室を出たルインの顔は『医者』から『殺し屋』に変わっていた。
切りがいいのでここら辺で切ります。
やっと例のBGMが流れる状態まで来ましたね。
オークションについて
基本はダッチ式で行ないますが別の方式でも行われます。