9-15
湖畔での野営から更に日数が経ち、今日はディディカ領領都に到着予定の日であった。
「ラスティ。」
「聞きたくないが、どうした?」
メイリンは現状の状態を、横にいたラスティに聞いた。
「コレ、今日着く?」
「・・・ギリギリだろうな。」
現在の時刻は夕方で、今は領都の検問所で立ち往生をしていた。
なぜこうなったかと言うと、
「魔物の襲撃は想定してたが、あんな回数じゃなくてもなぁ・・・。」
「仕方ない、切り替えよ。」
複数回の魔物の襲撃により、予定時刻を大幅に遅れて検問所に到着した為、確認に手間取っているのであった。
「ドライだねぇ、おじさん心配になっちゃう。」
「事実だから。・・・まあ、領都の近くであれだけの数と回数の魔物が襲撃してくるのは可笑しいとは思うけど。」
「侯爵家に騎士団いるんだよな?駆除が間に合って無いのかね?」
「もしくはサボってるか。」
「嫌だねぇ、領民の税金を何だと思ってんだか。」
呆れたように言うラスティだが顔は真剣だった。
「・・・此処だけの話、俺はこれが魔物使いの仕業だと思ってる。」
「魔物使い?」
「そうか、メイリンちゃんは知らないか。偶にいるんだよ、魔物を何らかの方法で手下にする奴が。」
ラスティの話だと、本来なら魔物は自意識を持っている為制御不能なのだが、薬品の使用や魔法を利用したりで魔物を支配下に置く輩がおり、総じてそいつ等を『魔物使い』と呼称している様であった。
それを聞いたメイリンは『マグノリアの殺しの手口に似ている』思った。
「魔物使いの事は判った。根拠は?」
「襲撃回数にしては毎回襲撃する魔物の数が決まってた。」
ラスティが言うには前線に行く際に計画的に倒す為に魔物の数や配置を見るのだが、複数回の襲撃にしては魔物の数が何時も一緒であった。
「配置で誤魔化そうとしてたんだろうが、数数えてる側からすれば何時も一定数だから可笑し過ぎたんだよ。」
「ラスティも可笑しいのに気付いたの?」
「其方も気付いたか。」
いつの間にかこちらに来たアマンダとカンザスが会話に加わった。
「アマンダはどう可笑しかった。」
「襲撃の時間間隔。体内時計だから正確じゃないけど、移動を始めて大体30分おきに魔物が出て来る訳無いでしょ。カンザスさんは?」
「全体の統率力だな。どの隊列になっても、馬車の配置を変えても、狙う馬車が一緒だった。」
「・・・怪し過ぎる。依頼主に言った?」
「それなんだが『探索者が話しかけるな!』と怒られてな、護衛騎士の隊長にも話を通したんだが『領都に着くから気にするな』と。」
「危機感なさすぎよ。今回の依頼で誰が危険かって言ったら、ディディカ領の関係者でしょ?」
「例の噂か・・・。」
どうやらアマンダもカンザスも『狩り』の事は気にしていたらしい。
「だけど、もう領都だから何もできないよ。」
「・・・そうだな、後は領兵に任せれば良い。」
そうして懸念点を論っていたら、検問所の扉が開いた。
「通れる様だな。」
「何処で依頼が終わるんだろ?」
「門を通ったらですよ。その後直ぐに引き返しの依頼の開始です。」
ノクスも此方に来た様だった。
「引き返しは探索者の人数はこのまま、騎士1人と馬車3台と男爵令嬢の護衛で良かったんだな?」
「そうです。ただこの時間です、今日は恐らく、この町に泊りになるでしょう。」
「その方が良いかもな。予定の時刻だったら野宿だったんだろ?多少金は掛かるが、ゆっくり出来るなら御の字だ。」
そうして馬車と一緒に全員が入ったのだが、
「いい加減にしてください!何度も言いましたよね!私は貴方の婚約者じゃない!」
「そんな!そんな事を言わずに・・・」
(うわぁ・・・。)
領都の中に入って直ぐにエドウィンがメローネを家に招待したのだが、その中に探索者とディノスが入って無い事を問いただした。
そうしたら空気も読まずに婚前交渉の話を切り出した為、流石のメローネもキレた様だった。
流石にこの状況は痴話喧嘩に慣れたメイリンであってもドン引きであった。
「女性一同。あれ、止めれるか。」
「「「「無理。」」」」
カンザスがその場の全員に聞こえるように聞いた願いは、関わりたくない女性陣のせいで無駄となった。
「・・・俺が行ってもかどが立つよな。」
「火に油だ、諦めんだな。」
流石のデッドもこの状況には冷静らしく、カンザスの行動を無駄と言い切った。
(・・・仕方ないなぁ~。)
このままヒートアップして宿が取れなくなる事態は避けたかったので、メイリンは火元迄動いた。
「ねぇ。」
「メイリンさん?」
「何だ!?探索者風情が口を「黙れ。」じゃ・・・なぁ!!?」
「メローネさん、行こ。こんな分らず屋に関わらずに宿捜した方が良いよ。」
「・・・そうですね、行きましょう。」
メイリンの登場により冷静になれたメローネは直ぐに理解して離れた。
「なぁ、待ってくれ!!!」
だがそれをエドウィンが止めようと手を伸ばすが、その手は空を切り、そのまま無様に地面に倒れた。
「・・・ださぁ。」
「き、貴様~~~!!!」
誰が行ったかも判らない言葉に激高したエドウィンがメイリンを睨むが、メイリンの寒々とした目を見たエドウィンが黙った。
「貴方、自分の状況を理解してる?」
メイリンはエドウィンに仕方なく状況を理解させることにした。
「なっ・・・何を!」
「好きな人に呆れられてるし、何なら嫌われてる。メローネさんと少し話す機会が在ったから知ってるけど、婚約者もいるのに追いかけてるって、ストーカーと同じだよ?」
「くっ!だが私は!」
「諦めれないのは理解できるけど、婚約者がいる以上これ以上は略奪・・・それも頭に『最低』って文字が付くやつだから、諦めたら?」
「そんなのは!」
「関係ある。メローネさんの意思はもう決まってるのに、貴方のせいで迷惑してる。自分が先に好きになったのに、振り向かれなかった時点で貴方の負け。」
ぐうの音も出ない正論に言葉を失ったエドウィンだったが、
「小娘!息子に何て言い草を!」
親であるクジャストがしゃしゃり出て来た。
「親なら息子に引導を渡したら。」
「何を言うかぁ!!!」
「メローネさんが何度も言ってるのに、聞き分け無く息子を応援してるのは、良識ある大人としてはどうなの?」
「ぬぐっ!」
「領地経営してる人がこれだと、領民の人から関心を無くすよ?それは嫌でしょ?」
その言葉がクリティカルヒットしたのか、クジャストも黙った。
「もう良いね。メローネさん、行こ?」
「ええ。では御2方、今日はこれで。」
離れ始めたメローネに付いて行くように探索者達やディノスも動き始めた。
メローネ組がある程度まで離れた時に後ろに振り返ったメイリンは、ディディカ家の2人が睨んでいるのを見た。
切りが良いのでここで切ります。
魔物使いについて
今話で書いた通り、何らかの方法で魔物を従えている者です。
魔物を従える方法は多岐にわたりますが、魔物使いの総数は多くありません。
理由は
1,従える際のコスト(薬品だったり魔法だったり)
2,従えた後のコスト(命令を聞かせる為の調教等)
3,管理(勝手な行動をさせない工夫)
です。




