9-13
現在は魔物襲撃から2日後、ロイエンタール出発から4日後の夜。
この日は野営となった。
それと言うのも、雇い主のクジャストの息子・・・エドウィンと言ったか?が予定していた街では無く、その先の湖畔に行って寝泊まりしたいと言ってきたからだ。
今回の湖畔宿営に雇われである探索者の意見は反映されないが、流石に所属騎士からは反対の声が多く上がった。
だが、次期領主の意見と現当主の強権により、湖畔での野営が強行されてしまった。
流石に騎士も自分の雇い主である当主の意見には従わざる得なかったが、場所を湖畔の畔の開けた場所、全馬車及び全員がほぼ1ヵ所に固まる事、何処かに行く際は最低でも3人の護衛をつける事、騎士も夜警に加わる事を条件に渋々折れたのであった。
そんな訳で野営する湖畔だが、エドウィンの言う通り此処で野営したい気持ちは判るものであった。
水は近場なら底が見えるほど澄んでおり、それなりの大きさも誇っており、危険生物の気配も無い為、現状は夜盗の気配を探るだけで済んでいた。
「メイリンさん、どうですか?」
現在の時間の夜警は不変の風であり、今回の依頼でメンバーに入ったメイリンも当然この時間に夜警をしていた。
「今の所、何処にも何も無いよ。」
「なら安心ですね、あと数時間頑張りましょう。」
交代迄の数時間を周囲索敵の為に行っており、メイリンは員数外である筈のノクスと一緒に行っていた。
「いいの?他の人と組まなくても?」
「今回は昇格試験の審査が本命ですし、他の方の査定は帰りでも出来ますから。」
そう言われてしまえばメイリンは何も言い返せなかった。
「・・・2日前の魔物襲撃の際の索敵は見事でした。貴方が虎視眈々と各パーティーに狙われている理由が解りました。」
警戒をしていたらノクスが話しかけて来た。
「別に、仕事をしただけ。」
「貴方はそうかもしれませんが他の方は驚いてましたよ。秘密裏にですがテルミナントのメンバーは貴方の加入を試みたいようですよ。」
「何で?あそこは私以外にも索敵できる人はいるし、そうじゃなくても魔道具を持ってたよね?」
「探索者の中でも進んで索敵をやる人って、あまりいないんですよ。」
ノクスの話によれば、探索者の大体が直接戦闘をメインにしており、索敵や戦闘補助等の探索者は全体から見れば少ない様であった。
「タイラントが良い例ですね。あそこは全員が戦闘者で、魔物を見つけるのに必要だから、メンバー全員がほんの少し索敵が出来るだけですから。」
「嫌な事実。」
どうやらタイラントは戦闘狂故に獲物を見つけるだけの技術はあるが、護衛の任務では役不足な位の索敵能力の様であった。
「ですから、専門の索敵者の確保って急務な所が多いんですよ。」
「ラスティも言ってたね、専門職が欲しいって。」
「ああ、不変の風もそうですね。アマンダさんが器用ですから成り立ってる部分は在りますね。」
そんな話をしていたら、不意に野営地から気配がした。
「・・・ノクスさん、野営地から誰か出て来た。」
「えっ?まだ時間では無いですよ?」
ノクスは何処からか取り出した懐中時計を開いて時間を確認していた。
「危ないかもしれないから少し見てくる。」
騎士の誰かだったら別に気にはしないのだが、もしかしたら依頼主が勝手に出てきたのなら問題であった為、確認するしかなかった。
「ちょっと!緊急だったらどうするんですか!?」
「その時は合図を上げる。付いて来るの?」
「・・・付いて行きます。」
ノクスも問題点を見極める為に付いて来るようであった。
気配の元に行くと人が2人居た。
(あれは・・・騎士の人と・・・もう一人は確かメローネさん?)
1人は騎士の恰好をしていたが、鎧に付けている紋章はディディカ家のモノでは無かった。
もう1人は今日の夕方、エドウィンに引っ張られて湖畔を探索していたメローネであった。
2人は約束の3人の護衛を付けずに野営地を離れようとしていた
「あの2人・・・何処に行くのでしょう?」
「見つけたからには追いかけないと。」
「合図は上げないんですか?」
「今はまだいい。そんなに野営地から離れて無い。」
実際野営地と目と鼻の先におり、悲鳴でも上がれば直ぐに誰かが来る位置であった。
そのまま2人について行くと、池の畔で2人共座って会話をし始めた。
「何をしてるのでしょう?」
「・・・そういう事か。」
ノクスは理解できなかったが、メイリンは職業柄理解できた。
「どういう事ですか?」
「あの2人、恋人。それも近い将来、結婚する仲。」
娼館でも身請け話を聞く事があるが、その時の嬢の顔と相手の顔が今の2人と一致したのだった。
「安全なら退散したいのですが・・・。」
説明を聞いたノクスは出刃亀をしたくない気持ちから撤退したい様であった。
「私もそうしたいけど、何かあったらいけないし、警告もかねてここは思いっきり行こう。」
逆にメイリンは2人に近づく事を選んでだ。
「・・・あああぁぁ!もう!」
メイリンの行動で覚悟を決めたノクスも2人に近づいた。
「お願いなんだけど。」
「「うわぁ!!!」」
メイリンの接近に2人は驚いた。
別に足音を潜めて接近した訳でも無かったが、2人の世界に入っていた為聞こえていなかった様だった。
「えっと・・・探索者さん?」
「そう。メイリンって言います、メローネさんと・・・。」
「ああ、失礼。ディノス。ディノス=リ・サイア。騎士伯だ。」
そう言ってディノスが立ち上がり、礼をした。
「ん、2人共・・・特にディノスさんはこの野営地を出るルールは知ってるよね?」
「ええ(すまない)。」
「なら、ルールには従ってほしい。騎士のディノスさんは良いとして、他に2人護衛を付けて欲しかった。」
「御免なさい(申し訳ない)。」
自分より年下の者にお説教を食らった2人は素直に反省した。
「まあ、こんな良い場所で逢引したい気持ちは判るけど。」
そして、メイリンの爆弾発言に2人とも固まった。
「・・・メイリンさん。」
ノクスが離れた位置と呆れ顔でメイリンを見ていた。
「あのですね、・・・ええっと、・・・」
「別に言い触らしはしないよ。何なら魔道契約しても良い。」
メイリンは懐のポーチから羊皮紙とペンを取り出すと、羊皮紙に魔道契約の書類をその場で作り上げ、それをメローネに差し出した。
「凄い。探索者さんってこんな事も出来るんですね。」
「はっきり言いますが、それをできるのはメイリンさんだけですよ。・・・メイリンさん、評価点をあげますので探索者ギルドの行員になりませんか?」
「ならない。・・・如何する?」
ノクスの勧誘を素っ気なく払いのけたメイリンは、メローネに聞き返した。
「いらないです。そこまで秘密って訳でもありませんから。・・・ただ、エドウィンさんには言わないでもらえますか。」
「もしかして夕方の探索って、本心では嫌だった?」
メイリンは夕方にメローネとエドウィンを見かけた時にメローネが迷惑そうな顔をしていたの見ていた。
その顔は嫌悪感から来るものだったのでよく覚えていた。
「・・・そうですね。何でしたら、何度も説明してるのに聞き分けないあの方が嫌いです。」
そしてはっきりとメローネはエドウィンを嫌う発言をした。
「話、聞こうか?今ならディノスさん以外だと、私とノクスさんしか聞いてない。」
「メイリンさん?」
「話をするなら護衛としているって誤魔化せれるから。」
「・・・少しだけ吐露させてください。」
そうしてメローネが話し始めた。
切りが良いのでここで切ります。
魔道契約書の作り方はメリッサに習った。
この夜警配置おかしくない?問題
ノクスがメイリン以外の不変の風全員を説き伏せました。
(説き伏せた理由は今話しに出ていた査定の為。全員理解した為、素直に譲った。)
今回は何かあればノクスがメイリンを護衛する予定だった。




