1-19
ケイは誰も居ない、自分以外帰っても来ない部屋に帰って来た。
事件はルインの言う通りに推移した。
事件現場を誰も見ていないせいで犯人を見つけられなかった。交友関係も調べたが怪しい者はいたが誰も彼女を殺して無いという結果になっていた。
(何でこんな事に・・・何で妻が・・・)
その思いが思考を渦巻いていたケイは、無意識に妻の部屋に入って、彼女の思い出の残滓に縋りつこうとした。だが、無意味だった。余計に虚しさが去来してすぐに部屋を出た。
(こんな事していても彼女は永遠に帰ってこない。そんなのは判ってる。でも、もう・・・)
生きる気力が尽きかけているケイは、死のうとしていた。唯々、彼女に会いたい。その一心で、死のうとしたが恐怖心で自殺ができなかった。
(死ぬのは簡単じゃないんだな。こんなに絶望してるのに、僕は弱いな。)
そうして自殺をしようとしては止まりを繰り返していると、不意に一通の手紙が目に入った。
差出人不明のその手紙は、豪華な便箋で目立つようになっていたので気になったのだ。
(こんな豪華な便箋で、誰だ?)
そうして手紙を見たケイは、その中身を見て、生きる気力を吹き返した。
内容は犯人を知っている事、指定した日と場所と時間に来る事で教える事、その時にもし復讐したいなら、この手紙と金貨1枚以上で見合った値段を持ってくる事と書かれていた。
(もしかしてこれって、噂の・・・。)
指定日は新月でも無いが、その日に行けば犯人が分かると知ったケイは、藁にも縋る思いでその場所に向かった。
その場所は北区にある廃墟の一つだった。
(ここに、犯人の情報が。)
そうして、指定された時間になると何処からともなく声がしてきた。
{時間通りだね。真実を知りたいかい?}
男なのか女なのか分からない声が辺りに響いた。恐らく魔道具で声を分かりづらくしているのだろう。
「知りたいです!お願いします!妻を殺したのは誰なんですか!」
ケイは周りを見回したが、誰も居なかったので全体に聞こえるように声を張った。そして、謎の声はそのまま続けた
{犯人の名前はライル=デミトリス。知ってるかい?}
「僕に、妻と別れるように言ってきた人です。」
{その男が犯人さ。治療師の所見は聞いてたね、あれは大当たりだよ。ずいぶん優秀な治療師さ。}
「どうして犯人が分かっているのに、憲兵に言わなかったんですか?」
{確かに目撃はしたさ。ただし、それは逃げ出してる犯人を見たというだけで、犯行の瞬間を直接見た訳じゃ無い。あんたもやった瞬間の証拠が無ければ言い逃れはするだろ?}
「それは・・・そうですが・・・」
{だから、意味が無いと思って憲兵には言って無いのさ。物証も無いしね。}
「でも、認識疎外の魔法か道具を使ったと言っていましたが・・・」
{使い捨てなら消えちまうよ。そう言うのを、上手く仕入れたんだろうね。}
「そんな・・・。」
{で、どうする?憲兵に言ってもこの件は取り合わないよ。水掛け論を永遠と調査する余裕はないしね。}
そう言われて、ケイは考えた。手紙の通りにもし復讐をするのなら、話に乗りたかった。その位腹が煮えくり返ってはいるが、同時に詐欺の可能性があった。詐欺だった場合は金貨だけ持っていかれて、そのまま犯人である筈のライルは生き続ける事になる。そうなればどうにもならない。自分では犯人を探す手段が無いからだ。
「・・・一つ聞きたいのですがいいですか?」
{何だい?もしかして手紙の事かい?簡単だよ。あんな現場なんだ、もしかしたらと思って治療院で張ってたんだよ。だから、治療師の話も全部聞いてたんだ。そうして、あんたの事を尾行して、直接手紙を入れたのさ}
そこまで言われれば、この人は恐らくの段階だが、詐欺をしないのだろう。そして、ケイは決心した。
「あの男をを討ってください!お願いします!妻と生まれる筈の子供が死んでのうのうと生きてる彼奴を殺してください!」
{その願い、依頼として受け取ったよ。持ってきた手紙の上に金貨1枚以上を置いてここから去りな。}
「会わないんですか?」
{何で会うんだい?あたし等は正義の味方じゃ無いんだよ。所詮犯罪者さ。だから、あたし等の顔は仲間以外には誰にも明かさない。}
「判りました。ココに置いていきます。」
そうして持ってきた手紙の上に金貨を5枚置いて、ケイはその場を去った。暫くしてから不安になって戻ったら、手紙と金貨は無くなっていた。
切りがいいのでここで切ります
本当に直接入れたの?問題
入れました。密偵が部屋に潜入して見える位置に落としました。