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適度な緊張感が漂う中、ノクスが話し始めた。
「さて、今回の御依頼はディディカ領を収めているクジャスト=エル・ディディカ様よりの御依頼です。ご依頼内容は自領迄の護衛、より正確に言えばディディカ領領都までの護衛です。此処までで質問は?」
周りを見渡したノクスは、誰も不満が無い事を確認すると続きを話し始めた。
「依頼自体はディディカ領領都までですが、そこからの帰り道も依頼の範囲に入っております。ですので帰り道でも気を抜かない様にお願いいたします。」
「質問がある。」
「どうぞ、カンザス様。出来れば自己紹介もお願いします。」
「あ~、『テルミナント』のリーダーやってるカンザス=ドッハと言う。帰りも依頼に入っていると言う事は、向こうでこっちに来る道すがらにある依頼を受けても良いのか?」
「構いませんが、恐らく依頼を受けれる時間は無いでしょう。向こうに着いて直ぐに引き返しの依頼の始まりですから。」
「そうか。」
カンザスはそれを聞いてパーティーメンバーにハンドサインを送った。
恐らくは『何も依頼は受けるな』と送ったのだろう。
「此処からディディカ領領都までは10日程を予定しております。帰りも同じ風ですので合計20日程を予定しております。」
「10日!?かなりの長期依頼だな。飯は?」
「各自で用意するように通達があった筈ですが?パーティー名『タイラント』リーダー、デッド=ブルーザー様」
「いや何、ガキが浮かれて聞いてないかなと思ってな。」
此方をあざける様に笑顔になったデッドをメイリンは無視した。
それを見たデッドは露骨に苛立った顔をした。
「尚、今回の任務に際しまして私、ノクス=フェミルが員数外として皆様に同行します。」
「成る程。パーティーの評価策定の為ね。」
「それもありますが、デッド様がガキと仰った彼女の昇格試験依頼でもありますので、そちらの査定でもあります。」
そう言ってノクスはメイリンに目を向け、目線だけで謝ってきた。
どうやらメイリンを『ガキ』と呼んだ事を気にしての事のだったので、メイリンは頭を左右に振って謝る必要が無い事を示した。
どうやら意図は伝わったようで、ノクスは笑顔になった。
「って事は、アンタの安全はあまり考えなくても良いな。」
「はい、構いませんよ。ただ、私が帰還しなかった場合は、此処に居る皆様の評価にも傷が付きますがね。」
「・・・ちっ!」
「ギルドの職員を囮にしようとするなよ。俺ら迄共犯を疑われるだろ。(ボソッ)」
「馬鹿だから周りの迷惑考えて無いんじゃない?(ボソッ)」
メイリンの近くに居たラスティの言う通り、デッドの発言はギルドに対して不信感が在る者がする発言であり、今回の様な同行依頼でそんな事を言ってしまえば当然評価が下がるし、下手をすれば共犯として疑われるのであった。
「簡単ではありますが今回の依頼内容は以上となります。それでは初めに、各パーティーの代表者様で全体のリーダーを決めていただきたいのですが・・・。」
「私はカンザスに1票。理由は経験もランクも十分だから。」
「アマンダが言うならその期待に応えよう。デッド、貴様は?」
「・・・仕方ねぇ。カンザスの旦那に預けらぁ。」
「不承不承だな。そんなに俺が仕切るのが嫌か?」
「いんや。ただ、使えるかどうか判らんお荷物のガキの責任を請け負いたくねえのさ。」
デッドの言う事はもっともなのだが、一々棘のある言い方に流石のメイリンも怒りが湧いて来ていた。
「はいはいメイリンちゃん、一々怒らない。あんなのの言動はスルー安定よ。」
「・・・怒ってるのか、その子?」
「表情筋がほぼ死んでるけど、慣れると雰囲気で分かるわ。」
「そうか。・・・お嬢ちゃん、名前はメイリンだったな?俺等の所に来るか?1人だと何かと大変だろ?」
カンザスの申し出はメイリンとしては有り難かったのだが、
「パーティーには入るつもりだけど、貴方の所に入ると試験に落ちそうだから、アマンダの所に入る。」
この部分も昇格試験だと思い辞退した。
「そうか、判った。」
そしてそれを理解したカンザスも深くは追及しなかった。
「いぃぃよし!メイリンちゃん!索敵任せた!」
「任された。その代わり戦闘宜しく。私は自衛しかできない。」
「初の長期依頼だもんね。それ位は請け負うわ。」
「では私も此方に一応お世話になります。」
そう言いながらノクスが近づいてきた。
「了~解。よろしくね。」
「有難う御座います。ではこれから依頼者の元に向かいましょうか。」
「如何隊列組むか決めないのか?」
「護衛人数から何までどれだけいるか判らないですから、直接確認してその後決める事になります。」
「・・・承知した。厄介だな。」
「うっっわ、面倒。」
その言葉を理解できないまま移動し始めた為、メイリンは急いで追いかけた。
そうして依頼人の元に着いた時に、その意味を思い知った。
(馬車多いな~。)
この人数では守るには多すぎる位の馬車がそろっていた。
「これは無理だ。ノクスさん、依頼人にこの人数では無理だと伝えてくれ。」
カンザスがノクスに対してそう進言した時、馬車の傍に居る騎士の1人が此方に気付いた。
「それに関しては大丈夫です、我々も護衛しますので。」
どうやら此方の話も聞こえていた様だった。
「成る程、それは安心だ。・・・どうやら、護衛の人数が足りなかった様だな。」
「その通りです。領主様が王都の方に屋敷を持つ事になりまして、そちらにも警備の騎士や使用人を配置しなければならなくなったので領地から持ってきたのですが、資金の都合上数がギリギリでして、帰りは探索者の方を入れる事で安全を図る事となったのです。」
「そうですか。では隊列はどの様に組みましょう?その相談は・・・。」
「ついて来てください。隊長の所まで案内します。」
「解りました。各パーティーのリーダとノクスさんはついて来てくれ。他は待機だ。」
カンザスの指示に従い全員が思い思いに待機し始めた。
メイリンも各種装備と保存食の確認と、パインの依頼で借りれた装備の確認をし始めた。
「こんな子供が何故この場に居る?」
装備の確認をしていると、目の前に可笑しな服を着た一人の男が立っていた。
「依頼を受けたから。」
「・・・ふん。下賤な組織は人手不足も深刻なようだ。せいぜいワシ等を守る盾位にはなれよ。」
そう言いながら一番豪華な馬車の方に進み始めた。
それを見送ったメイリンは首筋をさすっていた所、ラスティが話しかけて来た。
「大丈夫だったか?」
「大丈夫だけど?」
「そうか、あの人が依頼人のクジャスト=エル・ディディカ様だ。失礼の無い様にな。」
「ん、判った。」
そうしてラスティも離れた後、メイリンはもう一度首筋をさすった。
(あの人から嫌な予感がしたな。注意しとこ。)
経験からこう言う感覚は馬鹿にできない事を知っているメイリンはクジャストを警戒するようにした。
切りが良いのでここで切ります。
護衛パーティーの内訳
馬車・・・8台
ディディカ領帯同護衛騎士・・・10名
テルミナント・・・10名
タイラント・・・8名
不変の風・・・4名+メイリン(ノクス)




