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ルインはパインと一緒に治療院の近くの路地に入った。
そこでルインが、煙草ケースを出し、火を付けながら壁に背を預けた。
「・・・それで、仕事ってのは?」
同じように背を預けて、胸元からケースを出したパインはそのケースの中身を取り出しながら話した。
「もちろん裏よ。『オークション』の緊急開催になりますわ。」
「まだ『出品』は入って無いだろ?それなのに開くのか?」
「あの調子では、少し押せば『出品』しますね。だから、先に、偶然近くに居たあなたに。」
そうしてやっと取り出したのは煙管だった。刻み葉を雁首に入れ、魔法で火を着け、一息ついた。
「実はね、あの遺体を発見したのはうちの密偵なのよ。犯人も、その時に見ているわ。」
「・・・誰だ?」
「名前はライル=デミトリス。建築家の弟子で、師匠はガンス=クラフト。師匠の方はあなたの知り合いね。」
その名前を聞いた瞬間に後悔が押し寄せてきた。
「チッ・・・直さなきゃよかった。」
「あら?犯人も知り合い?」
「虫垂炎って病気の治療で医院に来た患者だ。治療内容はいるか?」
「要らないわぁ。どうせ死ぬもの。」
そう言いながら雁首を地面に向けて、煙管を持っている方の反対の手で手首を叩いて灰を落とした。
「・・・犯人を見たのならおかしいな?現場には認識疎外が掛かってたはずだが?」
「貴方も判るでしょ?認識疎外は万能じゃ無い。魔法や魔道具で中和すれば疎外は軽減できる。私の密偵は全員、中和の魔道具を持ってるのよ。」
中和の魔道具は高価だが製作できる者が『競合相手』に居るのをルインは知っていた。
「なんですぐに助けなかった?」
「残念ながら、大急ぎで現場から離れる犯人を見つけたのは、遺体のある場所からだいぶ離れた場所よ。それを不思議がって気になった密偵が、現場に近づいて初めて分かったのよ。」
それなら仕方ないと思ったルインは、煙草の灰を落とした。
「今すぐぶち殺したいのは判るけど、そう言う事だから、開催まで待っててね。」
「判ってる。いつまで仕事初めの頃の話をするんだ?」
「仕方ないじゃない。貴方、初めては『オークション』を通さずにやったでしょ。」
「お恥ずかしい限りで。」
この世界のきっかけを話していると、メイリンが路地に入って来た。
「オーナー。『出品物』の追跡が困難してる。」
「それは困ったわね。どうにかできない?」
「時間が経ち過ぎてる。隠れるのが下手でも、どこに居るかが分からないと探すのも一苦労。」
「その通りね。・・・さて、密偵を増やす方向で・・・」
「必要無い。医院に戻れば追跡は可能だ。」
「あら、どう言う事?」
「野郎は俺に借金していてな。魔道契約書があるからそれで追跡できる。」
魔道契約は契約内容の縛りで常に魔力を放つ関係上、その繋がりでの原因の追跡をするのが容易なのだ。
「決まりね。メイリン、ルインについて行って。契約書を受け取ってあたしの所に。」
「分かった。」
「ルイン、お願いできますね。必要な経費はあたしが払います。それはあなたが『オークション』で落とした際の代金からは引きませんので、安心してください。」
「了解。その代わり必ず『出品』させろ。誰が落札しても良いが、できれば俺が落としたいからな。」
「それは『オークション』で頑張って・・・メイリン、何回目なの?ナイフから手を放しなさい。」
「ん?握ってた?」
どうやらルインから醸し出された殺気に警戒心から無意識にナイフを握っていたようだった。
そのルインの顔は能面の様になっていた。感情が無く、標的に対しての怒りで、逆に冷静になっていた故の顔だった。そしてそのまま殺気が出ていた。
「警戒心が強いからそうなるのでしょうが、違反者じゃないから仲間よ。いい加減慣れなさい。」
「判ってるけど、ルインの殺気は怖い。」
「すまんな。これだけはどうしようもない。」
「あたしはその顔好きよ。普段を知っているから余計にね。」
そうして、人でなしの所業のつけは『ろくでなし』の法にゆだねられたのだった。
切りがいいのでここで切ります。
パインはルインの静かに切れる顔は好きですがそれは恋愛感情ではありません。
長い付き合いの中でやさしさと怖さのギャップに心がゾクゾクしてるだけです。
パインの煙管について
刻み葉はルインの煙草と同じものです。つまり製作者が同じ。
製作者「前、ルインの煙草の匂いが気に入ったって言ってたから同じのを渡した。あれで恋愛感情無いのは可笑しいでしょ?でも、2人の恋愛観分かってるからなんも言えないけど」