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オーバンが店舗に降りてくると、件の客人・・・クジャスト=エル・ディディカが居た。
「遅いぞオーバン。何時まで待たせるのだ。」
「すみません。何分、服飾士として新作を出そうとアイディアを出していたら、殊の外筆が進みましてね、弟子に引っ叩かれる迄来客に気付きませんでした。」
「成る程、それは納得が出来る理由だな。」
ムフッと鼻息を荒く吐くクジャストの服を見たオーバンは、苦言を言いたかった。
(相も変わらず・・・ダサい!!!)
オーバンの思考通り、ほぼ同じ身長だが筋肉質故に体格が大きいのに、体に合わない小さめのシャツに裾口や丈の幅が広い・・・所謂ドカンズボンを履き、その下の革靴はセンターシームのチャッカブーツと言う、この男には到底似合わない装いの上、色合いもシャツはピンク、ズボンは蛍光3色編成に靴も蛍光黄緑と言う、どうしたらこんな服装になるのかが判らない格好だった。
可愛らしい顔立ちなのに、侯爵としての威厳を出す為に蓄えた髭も相まって余計にダサく感じてしまうほどだった。
「早速ですが、ご依頼されるお知り合いの方は何方に?」
「うむ!メローネ、何をしている?来なさい。」
メローネと言う女性が呼ばれた事に気が付き、此方に近寄ってきた。
「紹介しよう。メローネ=ディ・エルシャン。地位は男爵令嬢だ。」
「メローネと言います。本日はよろしくお願いします。」
挨拶と共に頭を下げたメローネ嬢を見たオーバンは同じ様に頭を下げた。
「これはご丁寧に。私はこの店の店主をしております、オーバン=ファルドと申します。」
「お噂はかねがね聞いております。本日は宜しくお願いいたします。」
「挨拶は済んだな。では、邪魔者は退散しよう。オーバン、後は頼んだぞ。」
顔合わせが済んだのを確認したクジャストが店を後にすると、オーバンは息を吐いた。
「行きましたか・・・。良かった。」
「あの・・・、もしかしてクジャスト様が・・・。」
「はっきり言いましょう。一人間として、あの方は好きにはなれませんね。」
仕事の都合上何度もクジャストには会っているのだが、とても好感を持つ気にはなれなかった。
「服を作り扱う者として、服装に無頓着なのはいただけませんね。それも何度か注意しているのに、一向に改善する気が無いのはわざとなのかと思いたいです。」
「私も何度か会ってはいるのですがその・・・、奇抜な服ですよね。」
「ええまあ。・・・あの服がどこで売っているのか聞きたい程です。」
「何でも、自分の御抱え服飾士に作らせているそうですけど・・・。」
それを聞いたオーバンは頭を抱えた。
「・・・2つ目がディディカ領の『狩り』に関してです。」
「ああ、私もあの噂が本当なのか知りたいところです。」
『狩り』とはクジャストの生家であるディディカ侯爵家の領地で行なわれる狩猟大会なのだが、この狩猟大会には黒い噂が立っている。
「狩りの対象は昼の間は普通に動物や魔物なのですが、噂では秘密裏に夜の部門があり、その場では人間狩りをやっているかもしれないとの噂でしたね。」
「はい。私もそう聞いています。ただ、明確な証拠が無いんですよね?」
「ええ。『領地の騎士達は当てにならないから』と王が密偵を遣わしたのですが、一向にその気配が無かったようですが、毎年あそこは夥しい数の死人が出過ぎています。」
毎年、ある時期になるとディディカ侯爵領から大量の喪服の発注が掛かってくるのだが、その数と時期が完全に一致しており、服飾士達の間では気味が悪い注文として取られていた。
「私の所にも依頼が来た事がありましてね。独自に調べたのですが、ただ単に親類が亡くなっただけで終わってしまったんですよ。そこから気味が悪いですから、あの時期のディディカ領の仕事は引き受けない様にしたんですよ。」
「興味本位で聞きますが、どうなりましたか?」
「別に何も無いですよ。依頼が来なくなっただけです。」
「そうですか。」
安堵のため息を吐いたメローネを見て、
(この様子では『あの事』は言わない方が良いですね。)
オーバンは『ある事』を話すのを躊躇った。
「最後にですが・・・これはあの人個人に起因しているモノですね。」
「もしかして・・・、選民思想な所ですか?」
「それですよ。あの性格の御かげで私まで被害を被りそうでしたから、その後の出来事で一気に嫌いになりましたね。」
オーバンが語った事によると、商品の納入に行った際に偶然出会ったのだが、その時にクジャストを目標にした領民による襲撃が起こり、それの対応に追われた際に平然と領民を殺して逆賊として処理した様であった。
「事件的には正当防衛になっていますが、あの時の犯人の言葉と、その言葉を吐き捨てるように否定したあの方の言葉が、未だに記憶に残っているんですよね。」
「そうだったのですか・・・。」
「領民あっての領地であり領土ですが、その領民を蔑ろにするような人を私は余り好きになれませんし、そもそもの襲撃自体の要因を調べたら例の『狩り』の噂に行きつきましてね。そこから一気に嫌いになりました。」
「私も領地はありませんが男爵家の令嬢としてその様な言動はちょっと嫌ですね。」
「そう言っていただけるなら幸いです。・・・と、話がそれましたね。どの様な服がご所望ですか?」
「あ、それはですね・・・。」
嫌な事を何とか振り切ったオーバンは仕事に取り掛かった。
切りが良いのでここfr切ります。
オーバンって結構人嫌いするの?問題
しません。
この襲撃の時は迷惑だなと思いましたが、その後の調査と喪服依頼で嫌いになりました。
(嫌悪感からの嫌いです。)




