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異界暗殺業  作者: 紅鈴
医者
18/185

1-17

ルインは焦っているケイに引きずらせるように先導されていた。

日が沈んで、そろそろ閉院するかと思った時に、ケイが来院してきて訳も判らずに引っ張って来られたのだ。

流石に引っ張られる理由を教えてほしかったが、焦りと憔悴が混じった顔に何かが有ったのは判った。

そうこうしていると治療院に来ていた。そこで要件は奥さんのマリンの事だと思い至ったが、案内された場所に着いた時に何をさせたいのかは分かった。


「先生・・・彼女を・・・僕の・・・。」


ベットの上に横たわり顔に白布を被せられたマリンを見た。


(ここからの所見では死因は恐らく出血多量によるショック死、原因は胸の貫通創。もう少し近寄れば詳しく見れるな。)


そうして、近づこうとした時に、ケイが近付いて来た。


「先生は凄腕の治療師ですよね?妻を・・・僕の大切な人を治せれますよね?」


そうして、縋るようなケイにルインは医者としての現実を言うしかなかった。


「ケイさん、現実を見な。彼女は死んでいる。どうあがいても治療はできません。」

「何を・・・言って・・・」

「死者蘇生はできません。できるとしたら、死亡している彼女の傷を修復して、奇麗な体にする事だけです。」

「だって・・・先生は『神の奇跡の再現者』って・・・噂が・・・」

「その噂自体は否定しませんが所詮は噂。本物の神ではないので、出来ない事は出来ないと俺は言うよ?」


その言葉でケイは崩れ落ちた。ようやく現実が追い付いて来たのか、そのまま蹲り、泣き始めた。そして後ろから、今の状態の時では来てほしくない、嫌味な声が聞こえてきた。


「やはり『神の奇跡の再現者』と言うのは噓のようですね。あなたはやはり『異端の切り裂き魔』ですよ。」

「・・・久しぶりだな。ダリウス()()()()()。」

()()ですよ、異端者。下級だったのは、あなたがまだ治療院に居た頃です。」


そう言って、十数人治療師を引き連れてきているダリウスは厭味ったらしく続けた。


「さあ、切り裂き魔。さっさと退きなさい。彼女の傷の修復を行なわないといけませんので。奇跡が使える異端者がここに居るのは不愉快です。それとも、あなたが原因ですか?切り裂き魔?」

「ありえないな。いつ頃、何が起きたか知らないが、俺の擁護証言は俺の患者がしてくれる。」

「どうだか。あなたのような異端者に治療される患者等、当てにできませんよ。悪魔に御業に魅入られていますからね。」

「・・・おい、その言葉は聞き捨てならない。訂正しろや。」

「では、奇跡を起こしてみなさい。そうすれば誰もが信用するでしょう。」

「・・・このくそ野郎!!!だった「ではその奇跡を、あなたはできるのですか?ダリウス治療師。」」


熱くなり怒鳴りかけた時に、凛とした声が廊下から響いて来た。


「関係ない治療師は退きなさい。私はその部屋に用があります。」


そしてほかの治療師より豪華な服を着た人物が部屋に入って来て、ダリウスの前に出た。


「お久しぶりです。マグヌス治療院長。」

「お久しぶりです。ルイン=ギルファ様。ご活躍は陰ながら聞こえております、治療院代表として感謝の意を。」


頭を下げた院長は、次に謝罪の言葉を紡いだ。


「そして、部下が大変失礼いたしました。自分でも出来もしない事をあなたに要求し、あなたを辱めようとした事を重ねて謝罪します。」

「・・・顔を上げてください医院長。その謝罪は、後ろにいる奴がしなければいけません。」

「その通りですが、この方が彼にとってはひどく心を痛ませるので。」

「・・・判りました、謝罪を受け入れます。」

「ありがとうございます。・・・このご遺体の所見を、お願いしても良いですか?」

「お待ちください医院長!そのような異端者に遺体の事を任せるのは・・・。」

「黙りなさい。あなたは彼以上に傷の具合を確認できるのですか?できるのなら、やりなさい。」

「それは・・・」


そして、意外な事にやろうとしていた事の許可が出てきた。それを止めようとしたダリウスもルインの腕を知っていたので唸るだけで、自分でやろうともしなかった。それを許可と受け取り、ルインは死体になったマリンを調べ始めた。


「死因は胸と背中の貫通創による出血性ショック死。傷の具合は・・・正面からの氷結属性の魔法。傷の大きさから恐らく氷矢ですね。」

「・・・何故、正面だとわかる?後ろからかもしれないだろ。それに、属性も別のかもしれんだろう?」


当然の疑問をダリウスは聞いて来た。


「近づけばわかるが正面の傷が内側にめり込んでいる。質量物が胸にめり込んだのが分かるから火じゃ無い。それ以外の属性で考えてたら魔力の残滓が強くて属性が判明した。」


魔法はその行使跡が大体残るので、使った魔法が強ければその場に強く残ってしまうのだ。


「・・・胸からの貫通創以外の目立った外傷は無い。犯人は知り合いだな。」

「気付かない距離からの打ち込みでは無いのですか?氷矢でしたら、それなりの距離からでも出来ますよね?」


同じような疑問をマグヌスが聞いて来た。


「魔力残滓から相当焦って魔法を練り上げています。目の前位の距離じゃないとここまで残りません。・・・そのせいで今、疑問ができましたが。」

「どう言う事でしょう?」

「彼女は今日、健康維持の為の運動日ですよね?そうだとしたら、緊急時に備えて治療院の近くで散策していた筈です。それなのに魔法の行使を見たり感じた人が居なかったのはおかしい。」

「・・・認識疎外の魔道具ですね。」

「その通りです。計画的犯行なのに襲撃だけは杜撰な程です。知り合いなのにこんな事をする人物がいるのはおかしい。」

「誰かに恨まれている可能性があっただろう。」

「そんな事はありません!少なくとも、妻の交友関係の中で、妻を殺す程の恨みを持つ者なんて!」

「そこは俺も保証するよ。だから、この犯人は相当、変な人物だね。」


ケイの絶叫に肯定したルインは、他にも気になる所を調べたが、それ以上の情報が出てこなかった。


「これ以上は、無理だな。傷の修復を行なって、今の所見を憲兵に届けよう。」

「・・・それで犯人が捕まりますか?」


ケイが絶望一色な顔で聞いて来た。それに関しては言わなければと、一度息を吐いたルインは言葉を紡いだ。


「気を強く持ってくれ、ケイさん。恐らく犯人は捕まらない。現場に認識疎外の魔法具があるのは聞いていたな。そのせいで犯人の顔を誰も見ていない。交友関係で怪しい者が聴取されるだろうが、誰も、自分がやりましたなんて言わないだろ。だからこれは、ここで終わりになるだろう。」

「そん・・・な事って・・・嘘です・・・よね?そんな・・・あああああぁぁぁぁぁ!!!!」


そうしてケイが崩れた姿勢のまま泣き始めてしまった。


「なんでだよ!もうすぐ子供が生まれる筈だったんだ!それを!こんな!ふざけるな!返せよ!妻の命を!笑顔を!僕に返してくれよ!!!」


その場にいた3人はケイの咆哮を聞いて、やるせない顔になった。全員が治療する者なのに、近くに居なかったので助けられない痛みは誰よりも分かっていた。


「・・・ケイさん。今日はもう遅い、治療院で泊っていきな。そして奥さんと一緒にいて整理をつけてほしい。院長、ケイさんの宿泊許可をお願いします。」

「出しましょう。ダリウスさん何人かの治療師に指示を。」

「畏まりました。ケイ殿、私についてきてください。手続きを行い、宿泊できるようにいたしますので。」


そうして、ダリウスに手を引かれたケイが退室して、2人は語り始めた。


「情けないですね。治療師として怪我をした者の近くに居れないのは。」

「それは仕方ないかと。偶然、その場に居なければ、あの傷は治せません。」

「そうですが、神の如き奇跡を預かる者の一人として、犯人には怒りを禁じえません。」

「俺もですよ。こんな事する奴は相当な人でなしですよ。」


ルインは煙草ケースを出そうと思ったが、ここは禁煙なのでやめた。


「院長。これ以上ここに居ても仕方ないので退出します。今日、会えたのは嬉しかったです。」

「私もです。教会の教義が緩くなれば、すぐ、あなたの異端認定を取り消したい程に。」

「・・・まだ、私が居てほしいですか?」

「ダリウスを上級にしなければいけない程にね。腕だけでは無く、精神性も鑑みて認定してほしい物です。」


互いに別れを告げて、ルインは歩き出した。早くストレスを解消したかったから、治療院を出たら煙草を吸おうと思って外に出たら、見知った顔が居た。


「こんばんわ、ルインさん。一緒にお仕事の話をしない?」


パインがそんな事を言いながら、待ち構えていた。

切りがいいのでここで切ります。

やっとタイトルに追いついた。


魔力残滓について

魔力を込めれば強く残ります。今回はとにかく早く発動させるために思いっきり魔力を回していたのでかなり残っていた。

属性も同じ原理です。

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