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異界暗殺業  作者: 紅鈴
化生
176/177

8-13

ルイン達は馬車事故の処置が終わり、疲れた為現場から離れた位置で座っていると、ガダルが近づいてきた。


「妹の事を先に治療していただき、有難う御座います。」

「ああ良いよ。治療師として可能な事をやっただけだから。最初だったのは偶然の産物だ。」

「お前があの場にいたのはそう言う事か。御仁、ルインを呼んでいただき感謝する。あの事故が最初の1名だけの犠牲ですんだのは、御仁の御陰だ。」


近くに居たマグヌスがガダルに礼をした。


「いえ、あの場から近くて腕の立つ人を知っていただけで、知らなかったら呼べませんでした。」

「それでもです。あの場にルインを呼ばなかったら、ルインと私が治療した患者は死んでいたでしょうね。」


そう言われはしたが、ルインとしては懐疑的だった。

確かに派遣された人員で処置するのならもう1人は死んでいただろうが、少なくともトリアージタッグ通りにやっていれば、死亡人数はもう1人だけ増えただけだろう。

それが判らない程、マグヌスは無知では無い筈だった。


「そうですか。・・・妹が心配なので、すみませんが失礼します。」

「応。気をつけてな。」


マグヌスの説明に納得したガダルを見送ったルインは、マグヌスに質問をぶつけた。


「おい、御世辞にしても持ち上げ過ぎだ。あの程度なら死亡人数が増えるのは後1人だけだろ?」

「・・・お前はなぁ。素直に称賛しているのに、何故それを素直に受け取れん!」


どうやら照れ隠しの入った称賛の様だった。


「何度も言っているだろ?自分の腕を卑下するなって。」

「卑下もする。さっきも言ったが、5人で分担しなければならない事を1人で出来たのは、純粋に称賛する。俺でもあの状態で処置するなら、後2人は治療者がほしかった。」

「どう言う事だ?私にも解る様に説明してほしい。」


唯一、あの治療の難しさを理解していないダリアが質問してきた。


「あんな風に何かが突き刺さった物を引き抜くと、其処の傷を塞がない限り、際限なく血が噴き出るんだ。・・・お前も異端執行官なら習ったろ?矢傷はそのままにしておいて、安全に傷の処置が出来るまで刺しておけって。」

「確かに習ったが、引き抜いた位で危険になるのか?」

「馬鹿たれ。物質で塞いでいた物が無くなって、それを埋める為に血が出てくるんだぞ?有限の血が際限なく出てくれば、それだけで血が足りなくなって死亡するんだ。」

「・・・あっ。」

「更に言えば、あの傷は貫通・・・つまり体を貫いてた。1ヵ所じゃ無くて2ヵ所から噴水みたいに血が出続ければ、貴方の考えてる以上に早期に死ぬ破目になる。」


貫通創の処置で一番難しいのはそこであった。

幾ら奇麗に塞ぐ技術があったとしても、その前に有限の物が無くなってしまえば結局の所は助からない。

だから慎重に引き抜きながら、順次傷を塞ぐしか方法はなかった。


「そうだったのか・・・ん?お前は体を切って開いて治療をするんだよな?」

「治療の場合によってはな。」

「その際の血液はどうしているんだ?あの場所を詳しく調べたが、血液の類はなかったぞ?」


ダリアの言う通り、医院の中には血液を輸血する器具は在っても、血液その物は無かった。

そもそも冷凍保存の技術の無い異世界で、人間の血液を保管しておく事が難しかった。

だから別の方法を取った。


「・・・ダリウス。あの事言っていいか?」


そしてその事はロイエンタールの治療院の上層部全員が知っていた。


「・・・言わなければ納得しないだろう。」

「何だ?何かあるのか?」

「スライムに複数の種類がいるのは知ってるな?」

「ああ。そう言えばお前の家にも1匹いたな。」

「俺の所にいるのはピュアスライムだが、スライムの亜種のブラッドスライムは体液の毒性を排除できれば、どんな人にも馴染む万能の血液になる。だから秘密裏に、その研究がこのロイエンタールの治療院で行なわれている。」

「そしてその研究の成果として、国王陛下の癌の摘出治療にその血液が使われた。」

「はぁ!?」

「ちなみに、この研究を始めたのはマグヌス様だからな。」


マグヌスは昔から医療にかかわる研究を行なっており、その研究の1つが万能血液の作成だった。

マグヌスはスライムの内、特殊な機能を持つスライムを研究し、ブラッドスライムの体液の特異性の解明と無毒化に成功。

どんな人間にも合う万能血液の作成に成功したのだが、教会の教義の関係でこんな物を作っても意味が無いと研究を秘蔵していたが、高度な外科手術の行使に輸血用血液が必要なのを知り、喜んで研究を再開したのだった。


「つまりロイズ王の血液は、元スライムの体液?」

「まあ、そうなるわな。それから外科手術の際には、治療術式の報告を義務に、血液の提供をしてもらえるんだよ。」

「ちなみに言えば、そいつの鞄の中にさっき言った血液があるんだ。鞄は錬金術師に作ってもらった特注品で、異空間の様な広がりと中に入った物を保存できる様になっている。探しても見つからないのはその為だ。」


それを聞いたダリアはじとっとした目を2人に向けた。


「・・・教国に報告は?」

「できる訳無いだろ(できる訳が無い)。」


2人の言葉にダリアは頭を抱えながらため息を吐いた。


「・・・だな。この事は他の人も知っているのか?」

「ロイエンタールの治療院の上層部・・・大体、上級治療師全員が知っている。そもそも私以外の上級治療師が、マグヌス様の各種研究目的を理解して協力者として赴任していたからな・・・。」

「俺やダリウスは知った時は驚いたぞ。粛々と研究してるのに、当の本人が『意味の無い研究だ』と腐ってたんだからな。」


ルインとダリウスは、ルインが治療院を去る契機になった国王の治療の際にそれを知り、2人共困惑はしたが、マグヌスの治療に掛ける執念を知っているので、秘密にする事とした。


「そうだ、丁度良かった。ダリウス、この後治療院に行っていいか?」

「何かあるのか?」

「明日、初期の胃癌の手術をするんだけど、一応予備の血液が欲しいんだ。時間は大丈夫か?」

「特に予定は無いが、明日か・・・。」

「何だ?問題でもあるのか?」

「明日、マグヌス様も私も休息日なんだ。マグヌス様が見学を所望するかもしれん。」

「別に問題はない。手出し無用で頼む。」

「承知した、ついてこい。」


その言葉と共に、3人が治療院に向かって歩き始めた。

切りが良いのでここで切ります。

そりゃあ、共感する部分があるのなら、ね。

後、スライムの亜種設定、便利。(オイッ!)


マグヌスの研究が教会にバレて無いの何で?

A,誰も話して無いから。

(正確には話をした人間を全員仲間に引き込んでる。)

(研究参加者全員が教義に疑問を持っていた。)

(ルインのおかげで疑問も解消して、研究に意義が出来た。)

(つまりロイエンタール治療院上層部全員隠れ異端者。)

(なお、ダリウスも研究に参加しており、研究内容は関節の軟骨成分の修復)

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