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ルインは地下室を出て、治療院に来ていた。
それと言うのも、ジタンに頼まれたからだ。
「そうですか、その様な事が。」
「第1発見者の1人として言いますが、一度この事を教国に伝えた方が良いです。あの国王にこの事が知れた場合は判りますよね。」
「恐らく教国は『知らぬ、存ぜぬ』で押し通るでしょうね。ただ、いきなり国王に言われるのではなく、私が報告した方が言い訳の質は上がりますね。」
「・・・本当にマグヌス様に直訴できましたね。(ボソッ)」
「・・・あれで異端者なんだよな。異端者の観かた変わりそう。(ボソッ)」
「そこ、聞こえているぞ。・・・アレが特別なだけで、普通の異端者は貴方達の想像通り、話も思考も誰も理解できん。」
事件処理の為に自分が治療院に行けないので、マグヌスに地下室で在った事を直接話して、様々な事を確認をしてほしかった様だった。
「さて、地下室の件ですが、私ですら知らされていませんでした。一応、治療院のトップなんですがね・・・。」
「教会側のトップはどうです?あっちは流石に知らされていなければ、支援も何もできないでしょ?」
「それは今使いをやって調べてもらっている。もう少し待ってくれ。」
「行動が早いな、ダリウス。予想してたのか?」
「お前が警邏隊の人と一緒に来る時点で怪しいだろ。話を聞いてたら案の状だ。」
その言葉にルインは肩を竦めながら黙った。
「死亡した教会員並びに地下室の遺体を全て、こちらで調べます。その方が手っ取り早いでしょう。」
「お願いします。遺体はすでに霊安室に置いてあります、ご存分に。」
「・・・ルインさん、貴方はこれからどうするのです?これからも「やりません。」して・・・ですよね。」
マグヌスの言葉を途中で切ったルインの宣言はダリウスを驚愕させた。
「お前!・・・これだけやって、自分だけ安全圏に戻るのか!!!」
「安全圏も何も俺、立場上、治療のできる一般人だぞ。捜査権限なんて無いのに此処迄協力したのは、状況が状況だったからだ。これ以上に踏み込めば、犯人に殺される危険があるんだぞ?お前が俺を犯人から四六時中守ってくれるのか?できないだろ。仮にできたとしても、そんな生活は御免だ。なら、引き際はここら辺だ。」
ルインの言葉はダリウスも解っていた。
最初の検視はダリウスが依頼をして治療院に来てもらい、其処で検視をした。
今回の件もルインの患者が偶然事件の被害者で、毒の内情を知っている且つ直ぐに動けるのがルインであった為であって、何処か1つでも違っていればルインは手を引いただろう。
「それは解っているのだがな!ここで放り出す程無責任だったか!」
だが、ダリウス自身の感情がそれを許さなかった。
「感情論かよ。・・・確かに感情を鑑みれば寝ざめは悪いな。」
「ならば!」
「さっきも言ったろ?四六時中誰かに守られる生活を、事件解決まで過ごすのは嫌だぞ。」
軽薄そうに言いながらもルインの眼差しは真剣だった。
「お前だって何の犯罪もやって無いのに四六時中、心休まず誰かに監視されるのは嫌だろ?酒を飲むのも、他人の目を気にしながら飲まなきゃいけないのは苦だぞ。」
「解り易い例えをありがとな!!!」
「えっ?!ダリウスさんって酒飲むの?イメージが湧かないんですが。」
「飲む上にかなりの酒乱で絡み酒だぞ。」
「あなた達も体験しますか?」
「「「そんな厄介な酒飲みは結構です!!!」」」
酒飲みになれば分かる厄介な体調変化の上位を聞かされ、更に被害を被ったであろう2人の暗い顔を見て、どれだけ厄介なのかを理解した警邏隊員だった。
「まっ、そんな訳でこれ以上は何かが無い限りは、協力してもデメリットが大きいから引くだけだ。何か依頼が有れば動くから、その気でいてくれ。」
「依頼が有れば、か。・・・今からでも依頼にしてやろうか?」
「ダリウスさん、ルインさんが優秀なのは判りますが、彼の言う通り一般人です。探索者の証を持ってるのは知っていますが、かなりの低等級で抑えているんですよね?」
「入ってから万年低等級です。ほぼ薬の保管の為に取りました。」
「との事です。こういう依頼をするのなら、もう少し上の方を雇った方が良いですね。」
「なら、仕方ないか。」
そうして、ダリウスが納得した時だった。
「マグヌス様、ダッチです。入ってよろしいですか?」
教会側のトップが来た様だった。
「どうぞ、お入りください。」
「では、失礼します。・・・ルイン殿、お久しぶりです。功名はかねがね。」
「お久しぶりです、グラニス様。」
「・・・やはり名字ですか。物悲しい。私の事は名前で良いと言ったではありませんか。」
「治療院時代は偶にしか、今は全く会わないんですよ。それなのに名前呼びはちょっと・・・。」
「貴方の行いは聖人の部類だ。私の様なただ神に祈りを捧げる信徒よりは、貴方の方が上。そして私は上と認めた者に敬意を表します。その貴方が、私を上の者の様に扱わないでほしいのです。」
「ダッチ殿、そこ迄で。お気持ちはわかりますが、先にマグヌス様に報告を。」
ダッチはマグヌスの言葉に不満はあるようだが、
「・・・解りました。報告いたします。私の方でもあの場所に施設があるのは確認できませんでした。」
今は理解してくれた様だった。
「ただ・・・、」
「ただ?」
「現在、巡礼中のザムザ殿が、入都しているのは知ってますよね?」
「・・・昨日、挨拶しました。」
「そのザムザ殿ですが、実際には1月前に入都していて、その報告時に私に件の施設を教えていただきました。」
「解りました。・・・との事です。」
「ご協力感謝いたします。・・・では。」
「俺も帰ります。・・・では。」
警邏隊と一緒に出ると、移動しながら話し始めた。
「どうやら全部、白のようですね。」
「怪しいのはザムザという人物か。」
そう勘違いしている隊員にルインが釘を刺した。
「グラニスさんは嘘をついてますよ。」
「はぁ?!」
「教義に従順な教会員は、他人に嘘が無い時は『神に誓って』と言います。それが無かった以上、グラニスさんはあの場所を知ってましたよ。」
「嘘だろ・・・。」
「ただ、本当の事も言ってますね。ザムザが1月も前にグラニスさんに会ってた事は本当です。だから、捜査方針としては、ザムザのこの1月間の行動を洗い出した方が良いですよ。」
「何故それが本当だと?」
「巡礼中の滞在報告が義務だからです。だからこれは本当の事だと思います。」
切りが良いのでここで切ります。
怖いですよね・・・。
今話でグラニスが本当に言った事
ばらすと地下室に関しては嘘
それ以外は本当の事。