8-6
検視の翌日、ルインは自室で目覚めた。
(まあ、帰って来たんだからそうだよな。)
あの後は普通に帰ってきて、夕ご飯食べて寝ただけであった。
多少、襲撃に身構えをしたが、どうやら此方には興味が無い様だった。
(マスクもボンベも渡した時点で俺の作業は終わってるし、サリンを見つけるのは他の奴の仕事だ。俺は緊急時に仕事をすればいい。)
そう結論付けて、朝食を作る準備に取り掛かったが、裏口の扉が激しくノックされる音でそちらに向かった。
(誰だぁ!?こんな朝っぱらから!!)
裏口に着くと、鍵を開けて扉を勢いよく開けた。
そこには何故かいる筈のない人物がいた。
「ザムザさん?どうやってここに行きつきました?」
「カン・・・と言う事に致しませんか?」
笑顔のザムザが立っていた。
「一応、裏口何で表に回ってもらえます?」
「あっ、用事は直ぐにすみますよ。これを渡しに来ただけですから。」
懐から教国製の聖書を取り出すと、それをルインに渡してきた。
「・・・有難う御座います?」
なぜこんな物を渡してきたのか困惑はあったが、悪意も感じ無いので素直に受け取った。
「おや?素直に受け取るのですね。私は受け取らないと思いましたが・・・。」
「異端者にはなりましたが、信仰自体はまあ、それなりって所です。俺なりには信仰はしていますよ。」
ルインの発言をより正確に言えば、元から神道の考えが主であって、教会の教義ですら『あっ、そうですか。』程度でしかなかった。
治療院に入る為だけに信仰している態度を出す方が辛かった位だった。
「そうですか。・・・実は私、巡礼の旅の途中でこの街に寄ったんですよ。暫くは街にいますので、何か有りましたらお尋ねください。」
昨日、マグヌスが言っていた話は本当の様だった。
「何か教会に有りましたらお尋ねしましょう。ただ、俺の場合、治療院の方が用事は多いでしょうね。」
「それで構いませんよ。・・・では、朝早くにすみませんでした。」
「確かに迷惑でしたが、居られる期間が限られてるなら仕方ないかと。ですので、貴方に神の御加護を。巡礼の旅に良き兆しを。」
巡礼者に対しての定型文をザムザに送ると、それに満足したザムザが礼印を行ない、踵を返して去って行った。
それを見届けた後、家に戻ったルインは貰った聖書を魔法で探知した。
(怪し過ぎるだろ。何でこんな物を俺に渡してくるんだよ。)
別に巡礼者が聖書を携えているのは問題ないのだが、それを他人に渡したり、ましてや異端者に会いに来てる時点で怪し過ぎた。
(魔法は・・・何も仕掛けられて無い。物理的な奴か?)
魔法での精査が終わり、中身を確認してみたが何も入ってはいなかった。
(流石に勘繰り過ぎか?・・・いや。)
ある事に思い至ったルインは、そのままキッチンで聖書を焙った。
(暗号隠し位はこの世界にもあるだろ。聖書で一番やりやすいのはこれか?)
俗にあぶり出しとも呼ばれる技術位使われているかもと思い焙ってみたが、特に変わりはなかった。
(・・・これだけやって何も無いなら・・・薬品か?いや、それはないか。)
仮に薬品を使った何かを行なっているのならルインでは何もわからないが、ザムザの性格上、その可能性は低かった。
(あの性格ではあるが教義にだけは忠実だからなぁ、変に教義違反をやる訳ないか。)
確かに死体愛好家で教会に属して無いのは人としては認めてはいないが、それ以外の感性は比較的真面な為、教会から異端者として告発されていないのであった。
(何にしてもメリッサの所に持ってって、調べてもらうか。・・・それより朝飯だな。)
怪しさしかしない贈り物を放っておく程馬鹿では無いが、医者として朝飯を食べない選択をする程切羽詰まった訳では無いので、仕事場を長時間開けれる方法を考えながら朝食を作り始めた。
切りが良いのでここで切ります。
怪し過ぎたかな?
ザムザの性格
今話でも書きましたがネクロフィリアと教徒以外の塩対応以外は比較的真面です。
任務であれば教徒外の人にも真面に接する事は出来ます。(ルインは別の意味で目にかけてます。)