8-4
「すまん、急いだんだがこの時間になった。」
ルインは霊安室を出た後、急いでメリッサの所に行き、ある試作品を急ごしらえで作ってもらった。
そのまま試作品を背負ってマグヌスの執務室に来たのだが、予想はしていたがやはり自分が最後の様だった。
「いや、仕方ない。そんな大物まで持ってくるんだからな。」
「これが重要だからな。」
背負っていた物を空いてる机に置いたルインは、マグヌス達に向き合った。
「それで、進捗は?」
「騎士隊の方は何とかなりますが、やはり犯人が誰なのかが解らないと動けないそうです。」
「実質、命令待ちのゴーレムか・・・。いないよりはマシだな。」
「まあ、国防の要が犯人逮捕に駆り出されるのがおかしいんだがな。」
元々騎士隊は緊急時の国防の為に王都いるのであって、犯人逮捕に駆けずり回っているのがおかしかったのだが、今回の事はルイン視点では緊急だった為、動いてほしかった。
「早駆けで追加人員の手配はしたが、予想では手紙が届くのは3日、人員選定に4日、移動に1月でこっちも期待できない。現人員の浄化の魔法の向上はこれからだ。」
ダリウスも動くには動いたようだが、現状では手の打ちようが無い様だった。
「頼むぞ。大規模な毒煙が散布されたら、この街全部が終わると思ってくれ。」
「それは判っている。毒の特徴は何だ?」
「検死の結果は瞳孔の収縮と神経異常が主だった。神経ってのは、体を動かす時に脳からの命令を体の各部に送る管の事だ。これに異常が起きると脳から体に命令が届かなかったり、命令が途中で書き換わっておかしな行動を起こす。」
「最悪だな。吸ったら駄目な毒煙か。」
「だからこいつを作ってもらった。」
空き机に置いていた物を全員の前に見えるように置いた。
「こいつは少しの間なら毒煙の中でも安全に息が吸える装置だ。マスクから突起が伸びてるだろ?この中に砕いた炭とか空気を浄化できるようにする物質とその物質を吸わない様に紙が入ってる。」
見せたのは前世にあったガスマスクであった。
ただ、プラスチックなんて物が存在しないので、鞣した皮にガラス管を繋いだだけの、前世にあったガスマスクとしては不出来な物だった。
「こちらの布は何です?ガラスが取れない様になってますが。」
「神経異常を起こす毒煙なので、体内侵入を出来るだけ塞ぐ為の目の保護具ですね。」
保護マスクも作ってもらったが、正直、無いよりはマシ程度の出来であった。
「ああ!だから通気性度外視の服なんて頼んだのか!袖口を紐で縛ればある程度は毒煙の侵入を防げるから。」
「そう言う事。で、この大物・・・俺はボンベって言いますがさっきのマスクの突起を外して、付いてる管を付けて固定する事でマスク単体より長時間毒煙の中に入れる装置な。」
そして、酸素ボンベも作ってもらったが、これも何とかそう言う風に使える出来の物であった。
「ガラスの大びんの中にさっきのガスマスクの中の物質が大量に入ってる。コレを背負子に固定すれば暫くの間は毒煙の中でも安全に長時間作業が出来る様になります。」
「大体どの位ですか?」
「試作品ですし急造物なのでマスク単体なら5分、ボンベなら30分位でしょうね。」
それを聞いたマグヌスは沈痛な表情をした。
「こんな物、使わないに越した事は無いのでしょうが・・・。」
「恐らくは無駄です。毒煙の製造が難しいのか、安全性が確保できていないのかで1人位にしか使っていない様ですが、両方解決された際には王都は地獄絵図になるでしょう。」
ダリウスの言った通り、この事件が犯人側の都合によって被害が少ない状態である事が見て取れた。
「そうですね。・・・ボンベとマスクの増産は可能ですか?」
「錬金術ギルドに試作品と仕様書を持っていけば簡単に作れるでしょう。作ってもらった錬金術師曰く『こんな簡単な物が作れなければ、錬金術師を名乗るな。』と言ってましたから。」
「解りました。今からでは遅いですので明日、錬金術ギルドに持っていきます。ダリウスさん、ジタンさん。申し訳無いのですが、貴方方の信用できる人で警護が得意な方を夜警としてお貸し願えますか?」
「何故でしょう?治療院の中なら安全だと思われますが・・・。」
「霊安室にザムザが居たのが気になりましてね。あの男がこの国に1人でいるのがおかしいんですよ。」
「・・・あっ!」
「どう言う事だ?こっちにも解る様に説明してくれ。」
「あの男は現在、教国の命令で複数の方と巡礼に出ている筈なんです。休息の為にこの国に寄ったにしては、見掛けたのがあの男だけというのが気になりましてね。」
マグヌスの言う通り、複数人で巡礼中に立ち寄ったにしては1人だけしか見て無いのはおかしかった。
「警戒に越した事は無い様ですね。解りました、手配します。」
「お願いします。・・・となると、ここの警護が手薄になってしまいますね。どうしましょう?」
「人員が来る迄俺がいます。そんなに時間は掛からないなら、俺でも良いですよね?」
ルインの意見にダリウスが疑問をの声をあげた。
「・・・お前がか?腕はあるのか?」
「あの場所で1人暮らしだぞ。何回かは泥棒の撃退はした。数十分位なら何とかはなるだろ。」
「正直不安があるが、無いよりはマシだな。頼む。」
「応。その代り、早めに人員を寄こしてくれ。」
「直ぐに取り掛かろう。ジタン殿、行きましょう。」
「そうだな。・・・では、頼みます。」
そう言ってダリウスとジタンが出て行ったのを確認したルインは、暫くは緊張の糸が切れない様に集中した。
切りが良いのでここで切ります。
設定的には中世なので原始的にやってみました。(ゴムの開発は結構近代です。)
試作ガスマスク製作現場 グレープフルーツ味
「物は簡単だね。何時欲しいの?」「今すぐ。何なら設計図も欲しい。」「・・・量産するなら仕方ないね。その代わりアンタも手伝ってくれ。あたい1人だと手出しできない物が多すぎるねぇ。」「何をやればいい?」「炭の配合。寝不足なあたいだと間違えそう。」「仕方ないな。」
前日まで実験してた影響で制作後ダウンした。