7-22
ガデンザ商会の従業員であるナサトミ=フィガロは夜のロイエンタールのある場所に、仲間を引き連れながら向かっていた。
(まさかドーアンの旦那が呼び出すとはな。)
ガデンザ商会がドーアンと組んだのは4年ほど前になる。
(あの頃は最悪だったな。)
10年前にガデンザ商会が潰れ、其処の従業員はほぼ散りじりになった。
残されたのは何処にも就職の当てのなかった奴か、真面な事が出来ない屑ばかりだった。
そいつ等を放っておけなかったガイア=ガデンザは何とか商会の再起を果たそうとした。
一度潰れた商会が再起を図るのはとんでもない苦労があったが、商会長のガイアが辺境の、それも情報も行き来していない様な辺鄙な所に行商を行なうようにし、自分達はその為の商品を何らかの方法で収集する事だった。
幸いにも残った連中は腕っぷしが強かったおかげで、護衛の無い商隊を襲ったり、弱そうな山賊を狩って戦利品を頂いたり等、とにかく商品を集めるのには最適だった。
当然官憲に目を付けられたのだが、その度にガイアがのらりくらりとかわす様に証言した。
そうしているとドーアン侯爵がガデンザ商会のパトロンに付き、最初よりは真面な商売が出来る様になった。
だが、デロイス商会の介入により辺境での商売に陰が出来た。
デロイス商会により商品の定価価格が割れてしまった為、自分達の商売が上手く出来なくなってしまった。
それを知ったガイアはデロイス商会に嫌がらせを始めた。
丁度、デロイス商会はロイエンタールに商会の拠点を作っている最中だったので、ドーアン侯爵にも協力してもらい、事実無根の手紙を関係各所に拡散してもらった。
(馬鹿が!あんな状況になったなら撤退すればいいのに欲を搔くから!!)
商品の納入の目途が立たない状態が続くが、それでもめげる事無く商売を続けたデロイス商会は、多くの契約と固定客を得て、躍進し始めた。
それを面白がらなかったドーアン侯爵がガイアへの連絡員として寄こしていたナサトミに事態の解決を依頼し、ガイアの伝手を使って違法薬を入手し、其処等辺の浮浪者を使って店舗に襲撃をかけた。
店舗の監視の方もドーアン侯爵が手を廻して、騎士隊でも無能集団な隊を凶悪犯が立て籠もっているという定で監視に使わせてもらった。
そのおかげで商会長のムーアが死んだ事はガデンザ商会関係者一堂にとって行幸な出来事となった。
「ナサトミの兄貴!ドーアン様が呼び出すなんて何かあるんでしょうね!!」
「阿保、厄介事かもしれないだろ。少しは気合入れろ、ダイス。」
「でもさ、ダイスの言い様にも納得は出来るぜ。ただ『来い』としか書かれて無かったんだろ?」
「ギル、厄介事だろうが何だろうが、直接会うのは依頼の基本だ。浮かれるな。」
「厄介事は嫌だな~。デロイスの時みたいに楽なのが良い。」
「グエン、仕事が楽な事は無い。あれも辛かったろ。」
「そうでも無いよ。そこら辺の不良者に薬をがぶ飲みさせるだけじゃん。」
「誰が監視したと思ってんだ!今度そっちやってみるか!?」
「メンド~。やれる人やって。」
「ったく、今度はやらせるからな。」
ナサトミ自体も多少は浮かれてはいたが、それでもこの一党のリーダーとしての自覚があった為、表には出さずに目的地まで向かっていた。
だからだろう、いきなり後方から横に抜ける風が吹いたのを知覚したのは。
「誰か通ったか?」
「いや?」
「何も無い筈だけど?」
ギルとグエンからの返事があったが、ダイスからの返事が無かった。
「ダイス?返事は?」
呼びかけたが、応答は無かった。
「ダイス!何処だ!出てこい!」
「お~い!ダイス~!」
全員がダイスに呼びかけたが、返事は一向に帰ってこなかった。
「・・・急ぐぞ、ダイスは後回しだ。」
「わかった。・・・って、あれ?ギルは?」
その返事でギルを捜したが、ダイスと同じようにこの場から消えていた。
「逃げるぞ!全力で走れ!!」
言うやいなやグエンが走り出し、自分もその後を追った。
暫くすると自分が前に出たが、流石に走り過ぎて息切れしたタイミングで休みを取った。
「な・・・何なんだよ・・・一体・・・!」
「しらな・・・ブヘェ・・・すよ。」
「だよな・・・。」
息を整えている際に考えたのは、あの時の風だった。
(多分だがあの時に何かが起きた、それは判る。だが、その何かが解らん!)
普通に考えれば襲撃だが、自分達を襲撃する理由がわからないし、意味も無い筈だった。
(だってそうだろ!デロイス商会の事件や他の事件だって俺達がやった証拠は無いんだから!)
犯罪の証拠を残す程、自分達は馬鹿ではない。
その自負があるからこそ、この襲撃が異様だった。
「い・・・息・・・整えれたか?」
「何・・・とか・・・。」
「急ぐぞ、ここも危ない。」
「解った。」
2人が集合場所に行こうと物陰を出たら、変な人影を見つけた。
目を凝らすとダイスとギルが壁に寄りかかっていた。
「ダイス!ギル!何処に居たんだ。・・・ヒィッ!」
駆け寄って2人を見たが、その2人は首が切り裂かれ、辛うじて繋がっているだけの状態で立っていた。
「ナサトミさん。どうだった「急いで行くぞ!走れ!」・・・わか・・・。」
返答と同時に上から降って来た何かにグエンが押し倒された。
ソイツが腕を動かし、何かを抜いて此方を見た瞬間、ナサトミは自身の全力でその場から走り去った。
(何だあの化け物!何だあの化け物!何だあの化け物!何だあの化け物!!!)
真っ黒な衣装でよくは判らなかったが、人であったのは確かだった。
だがこの暗闇の中、そんなのに追われ続けていた恐怖がナサトミの心をかき乱した。
休みも無く、ただ必死に逃げ続け、何とか集合場所に着いたナサトミは、前方にいたドーアンを見つけ安堵した。
「ド・・・ドーアン様・・・遅れてすみません。」
ドーアンが此方を見ると驚きの表情をした。
「どう言う事だね?ガイア君が来るのではなかったのか?」
「へ?」
疑問が脳に行く前に自身の延髄に衝撃があった。
そして衝撃によって全ての疑問がようやく理解できた。
(ああ、俺達はとんでもない殺し屋に狙われてたんだな。)
それを理解したした時に、ナサトミの生涯が終わった。
切りが良いのでここで切ります。
少しホラー風味です。(夏の最後だしいいよね?)
タイレル何やったの?
暗殺
方法は次話で出します。