7-21
「で、何でそんな依頼を受けちゃったの?」
「まあ、何といいますか・・・一応、正当な理由でしたので受けても良いかなと。」
「そうね受けても良い理由はあるわね。だけどさぁ、幾らオークションでもこの金額だったら誰も受けてくれないわよ。」
「それは理解しています。ですので特例をお願いしたいのですが・・・。」
「特例?」
「ある方が落札した際に、その方が対象から金品を奪っても宜しいですか?」
「駄目に決まってんでしょうが!!何考えてるの!?」
「いえ、理由があるんですよ。実はその人が今回の対象のせいで不利益が出まして、それの補填分だけ取るのはどうでしょう?どうせ裏金ですし、その人は自制心もありますし。」
「駄目よ。一度そう言うのを許したら金品を奪う殺しになって、際限がなくなるもの。だからどこでも禁止にしてるのよ。」
「そうですか。・・・なら、いつの間にか無くなっていたらどうです?」
「・・・もしかして貴方が盗んで、その人に遠まわしで恵むの?」
「ええ。一応、今回の件でかなり関わっていますので、その罰で今回の依頼の監視役になろうかと。」
「仮にも纏め役が現場のドサ廻りしてほしく無いんだけど。」
「その言葉は先程の件を認めたと認識しますよ?」
「・・・私は何も知らない、何も聞かなかった、貴方が勝手にやった。そう言う事にします。」
「有難う御座います。」
「それで、誰が落札したらそうするの?」
「それはですね・・・」
ある地下で始まった『オークション』は佳境を迎えていた。
「本日最後となります出品物は、ドーアン=ムゥ・ヴィジカ、侯爵家の者です。」
聞こえてきた驚愕の声に、パインが申し訳なさそうな顔をした。
「心苦しいので先に言っておきます。この出品物の初期提示額は金貨1枚からです。」
それを聞いた入札者達は一気に白けてしまった。
「解ります。私も流石にこれで出品をする気はなかったのですが、ちゃんとした理由がございますのでお聞きください。」
一息ついたパインは説明を始めた。
「今回の出品者はサイモン=ミゲルと言います。彼は最近までストリートチルドレンとして活動しており、金銭的に余裕はありませんでした。」
それを聞いた入札者達は感心した声を上げた。
「現在、彼はある場所で働いてますが、そこからのお使いを任された際にある事件に巻き込まれました。その事件とはデロイス商会店舗襲撃事件です。彼はその現場に居合わせました。」
それを聞いていた入札者が反応した。
「事件の概要を言いますと、デロイス商会襲撃犯は禁止薬物ミダニスを過剰摂取させ腕部を異常強化。その場で死亡が確認されました。ですがこの襲撃犯を調べてみるとかなり不審な点があり、追加調査の末、襲撃を指示していた存在が浮き上がってきました。」
周囲を見回すと前のめりになる人が増えてきていた。
「襲撃犯の作成は10年も前に潰れた筈のガデンザ商会と言う商会。その指示を出したのがドーアンです。ドーアンはガデンザ商会と裏で結託し、辺境での不正金銭徴収を行ない、互いに私腹を肥やしていましたが、デロイス商会の善意あるの介入により金銭徴収が行えなくなりました。」
会場の反応を見る限り上場の演説だったようだった。
「それに怒ったのがガデンザ商会率いるドーアン陣営でした。ドーアンはガデンザ商会や自身の伝手を通じて、ガデンザ商会のやらかしをデロイス商会がやったように仕向けました。そこで藻掻くさまを存分に楽しむつもりだったでしょうが、其処は海千山千の本物の商人!危機を己の糧とした剛腕で回避し、逆に利益に繋がるようにしたのです。」
盛り上がりを感じさせる演説を行うが、これ以上の熱は感じなかった。
「これに歯噛みするドーアン陣営ではありません、さらに攻勢に出ようとしました。ですが、自身の策略が完全にバレて、逆に自身の首を絞めてしまったのです。その為、彼等はデロイス商会の最短の排除方法として、店舗襲撃を行ないました。」
(会場の熱が変わらない。もうこれ以上は駄目ね。)
パインも熱が変わらない以上、これ以上の説明は不要と判断し、締めに入った。
「先程も言いましたが今回の初期提示額は金貨1枚から。落札方法は提示額から競売者呼びかけでの値下げ式で行ないます。では入札者様、存分に競ってください。」
そう言って落札が始まったが、一向に誰も値付けをおこなわなかった。
(まあ、そうよね。この国で貴族を殺すリスクがどれだけあるか分かった物じゃ無いし。)
どれだけ腐っていても、国家の根底に居座る地位を確立している貴族に手を出すのがどれだけ危険かは此処に居る者達は理解している。
(特に侯爵以上は駄目ね。警邏隊に騎士隊、最悪王家直轄の隠密迄出てきたら、こっちの素性が全部、丸裸になるでしょうね。)
だから誰もやらずに『流れ』になりそうだったが、
「条件付きで金貨1枚。」
誰かが入札をした。
「金1!金1以下無いか!・・・無いようですね。では落札です。落札者は別室へどうぞ。・・・今回のオークションはこれで終了となります。お気をつけてお帰り下さい。」
入札者が続々と去って行く中、パインは別室の1つに入った。
「入札おめでとうございます。・・・ダイレル=アザキエル様。」
そこにはタイレルがいた。
「・・・世事、要らない。さっき、入札、条件、言いたい。」
「はい、どうぞ。」
「・・・貴族、殺す。敵対者、抹殺、許可。」
「駄目ですね。それを許可してしまうと、罪も無い方に迷惑が掛かりますので。」
「・・・敵対者、ガデンザ、場合。」
「それでしたら良いですよ。何でしたらおぜん立てしましょうか?」
「・・・頼む。」
「依頼、承りました。では、そう致しますので、少々お時間をください。追って連絡いたします。」
「・・・解った。」
「後、あたし相手だったら本当の口調でも良かったんじゃない?」
「・・・礼儀、必要。今回、特に。」
「畏まらなくていいのに。・・・他にご注文はありますか?」
「・・・特には。」
「解りました、連絡をお待ちください。」
そう言われて席を立ったタイレルだったが、
「あ、そう言えばお待ちください。」
パインに止められた。
「・・・何?」
「少し、今回の依頼で特殊な状況が発生します。貴方には一切、負担は掛からないようにいたしますが、もしかしたら負担になるかもしれませんので、ご留意ください。」
「ざけ・・・ふざけるな。」
「・・・大丈夫です。後日、貴方に使途不明金が入るだけですから。」
「・・・依頼書、領収書、寄こす。」
「不正経理にはしませんよ。大丈夫です。・・・それだけです。」
呆れの目をしながらタイレルは出ていった。
切りが良いのでここで切ります。
権力があるってのは厄介ですね。
タイレルの本来の口調って?
なんとなく察してください。
少なくとも口に出してる部分は考えながら出してます。(だから最初に沈黙が入る。)
思考はどうかって?・・・お察しください。