7-19
「じゃあ、サイモンさん。アンタは店の上司の指示で買い出しに行って、事件に巻き込まれそして気絶した。そこまでは良いか?」
「ああ、そうだよ。」
「で、気絶から起きたらあの馬鹿共に殺されかけた、か。」
「事実しか言ってねえよ。」
「流石に目の前で起きた事を信じない者はいませんよ。」
サイモンはジタンからの尋問を快く受けていた。
先程の偽警邏隊員達を手際よく倒し、サイモンの命を救った事で警戒心は薄れていた。
「それより、あの店員・・・いや、店長さんはどうなったんだよ?俺が気絶した後、何が起こったんだ?」
だから自身が一番聞きたかった事を聞いてみた。
「ミダニスの過剰摂取なら結果は大体解るだろ?デロイス商会会長、ムーア=デロイスは殺害されたよ。死因は撲殺、頭部が潰れたトマトみたいに拳で潰されてた。」
「そう・・・ですか・・・。」
サイモンの落胆に、ジタンは状況からの慰めに入った。
「気を落とすな。あんなのに立ち向かえるのは、俺みたいな警邏隊員か、それこそ力自慢の探索者位だ。アンタみたいな一般人が、あの化け物に立ち向かえってのは酷だろ?」
「それは判ってるんですが、逃げてほしかったなって思って・・・。」
「確かにな。ミダニスは作り方によって何処の筋肉が強化されるか指定できるからな。あの状態なら、急いで店を出れば助かった可能性もあっただろう。」
ミダニスは基本材料となる物だけでは効果は発揮されず、其処に部分指定の効果を持つ薬草を混ぜる事によって効果を発揮する薬であり、指定部分の増強以外は全く効果が発揮されないのであった。
「ただ、周辺調査によると、うまく店から逃げれたとしても無駄だったかもな。」
「何でです?」
「あの辺りにいた人達に聞きこんだんだが、騎士の恰好をした連中が店周辺の道を封鎖してたようだ。恐らく、ムーア店長が無事に逃げられても、其処で殺す算段だったんだろうな。」
「何だよ・・・それ・・・。あの店長さん、人に恨まれる事なんて無い筈だろ!?」
「噂では、かなり阿漕な商売をやっていたとか聞きますが?」
それを聞いた瞬間、サイモンはダリウスの胸ぐらを掴んだ。
「おい、教会員さん。アンタあの店に行った事あるのか?あの店がどんな状態で営業してたのか見たのか?治療が在るからと言って此処に引きこもってる奴が、あの店にいちゃもん付けてんじゃねぇよ!!」
「お・・・落ち着いてください。息が・・・」
「あの店長さんが行商までやって、何処から品を仕入れてるのかわかるか!?あそこの店員がどんな思いで辺境まで行ってるか知ってるか!?それを噂だけで判断すんじゃねぇ!!」
「解りましたから・・・苦しい・・・。」
「・・・あ、すいません。」
「いえ、此方も無神経でした。お詫びいたします。」
ダリウスが頭を下げ、それを戻した時にジタンが聞いてきた。
「アンタ、あの店について詳しいな。あの店で何か不審な事は無かったか?」
「不審どころじゃねぇよ。あの店は計画的に嵌められたんだよ。」
サイモンはデロイス商会が襲撃される原因の経緯を語った。
それを聞いたジタンとダリウスは頭を抱えた。
「あのクソ貴族もそうだが、まさか辺境の悪徳商会がそんな事をやってたとはな・・・。」
「死者を愚弄した事をここで深くお詫びいたします。」
「今謝られてもな・・・。それより、何か俺に出来る事は無いか?あの人の弔い位はしたいんだよ。」
「警邏隊として言うが『下手に首を突っ込むな』だ。相手はゴミ屑といえ貴族なんだ、アンタも馬鹿じゃ無いならその怖さが解るだろ?」
「そりゃあ・・・まあな・・・。」
「ただ、俺達も手詰まりがおきていてな、あんたが入手した情報は何処からもたらされた?」
「詳しい事は解んね~よ。ただ、詳しい資料はダロン鍛冶店にある筈だぜ。あそこの店長がうちの副支配人を通じて何処かに調査依頼を出してたんだよ。その資料の配達は、俺がやったからよく覚えてる。」
「スノームーンとダロン鍛冶店か・・・。解った、有難う。ここから先は警邏隊の仕事だ。だから君は大人しく「隊長!最悪な事がおきました!」治して・・・おい、嘘だろ!?」
慌てて入って来た隊員が息を少しだけ整えるとジタンに報告した。
「その嘘が本当になりました。調査終了です。」
「クソがぁ!!!あんだけ証拠が在るのに、何で終了されなきゃなんねぇんだよ!!!」
「例の悪徳貴族が騎士隊に調査権限を与えたそうです。その為、俺達は今後の追加調査は出来ません。」
「調査は何処の騎士隊だ!?」
「まだ判りませんが、真面な隊では無いでしょうね。」
「最悪だ・・・。もうこの事件は廃棄庫行きだ・・・。」
「すみません、廃棄庫とは?」
「正式には廃棄事件庫って言いまして、事件が迷宮入りした際の資料庫にしてるんですよ。今回の場合は事件を有耶無耶にして、事件資料もぐちゃぐちゃにして無理矢理迷宮入りさせるでしょうね。」
それを聞いたサイモンは声を荒げた。
「ふざけんなよ!俺は怪我してるし、店長さんが死んでんのに有耶無耶にすんのかよ!」
「・・・すまん。何とか上に掛け合ってみるが、恐らく決定は覆らない。諦めてくれ。」
ジタンが悲痛な顔のまま頭を下げたが、サイモンとしては納得がいかなかった。
納得が出来なかったが、自身1人で何とか出来ると思っている程、力が有る訳では無いのは理解していたから、無力な自分に余計に腹が立った。
(何かないか!?俺でも出来る事は!・・・あ、そう言えば。)
王都内で流れるある噂を思い出したサイモンは、それを頼ろうと思った。
(一か八かだが賭けてみるか。幸いにも噂の依頼場所には見当ついてるしな。)
サイモンは退院の日を待つ事にした。
切りが良いのでここで切ります。
ちょっと強引かな?超展開かな?
まあそれも良し。(本来は良くない)
デロイス商会襲撃事件報告書(騎士隊第17隊作成時)
事件現場:デロイス商会店舗
被害者:ムーア=デロイス(死亡)(頭部破壊)、サイモン=ミゲル(軽傷)(打ち身及び打撲)
容疑者:戸籍不明(死亡)(死因はミダニスの過剰摂取)
備考:捜査権限が警邏隊第2隊から騎士隊第17隊に移行。
以後調査進展無し。
(表向きの資料です)(数年後に廃棄事件庫行き)