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異界暗殺業  作者: 紅鈴
鍛冶屋
151/181

7-15

鍛冶連合会の会議後、タイレルは落ち込みながら雑踏を歩いていた。


(これでも傷ついてはいるんだよ。幽霊みたいな扱いはな!)


自身が生まれてこの方気配が希薄な事や、足音が全くしない事は気が付いてはいたが去勢しようとも出来なかったのだ。


(何故か知らんが去勢すると骨が軋むんだよ。だから無理に去勢せずに音の鳴る物を付けようとしたが、既存のやつはちょっとなぁ。)


これでも存在感を出そうとして色々やってはいた。

まず考えたのは足音を鳴らすように意識する歩き方だが、意識して歩こうとすると骨が軋み、最悪の場合は骨が疲労骨折する寸前まで酷使されたように腫れ上がった。

そこからは音の鳴る物を付けようとはしていたが、既存の物は無骨だが大きいか小さいけど奇抜かの2択しかなかった。

だから素直に諦めて今まで生きて来たのだが、毎度毎度誰かに怯えられる度に少しだけ心の中で傷はついていた。


(誰かに頼むかぁ・・・いや、それよりも自分で・・・・う~ん、悩む。)


自身の腕で作れるなら御の字だが、如何せんどういう風に作ったら音が鳴るかはその道の専門家の方が詳しく所与、武具鍛冶師である自分ではその構造を教えてもらう事は出来ないだろう。

それでも作りたいと思うのは、物作りを生業にしている者の性かも知れなかった。


(仕方ない、諦めよう。)


何度目かの現状見送りを決定したタイレルは、家路につこうとした。



「あれ?タイレルさん?こんな所で如何したんですか?」


家に到着する寸前の曲がり角でムーアに出くわした。


「・・・今日、南区、鍛冶連合会、会合。そっちは?」

「自分はウチの商会に商品を卸してくれる所を探してましたね。・・・結果はゼロですが。」


『アハハ』と笑うムーアの顔には色濃い疲労が見えた。

恐らくガデンザ商会のお手紙作戦のせいで契約を取ろうにも取れなかったのだろう。


「・・・もう直ぐ、その状況、終わる。」

「何でですか?あのクソ商会のせいで、この状況に終わりなんて来ないですよ。」

「・・・ガデンザ、知ってた?」

「知ってるも何も、あの商会の事は辺境では語り草でしたよ。」


聞けば辺境での悪行はかなり酷いらしく、報告書には記載されて無かったような事情まで話してくれた。


「あの馬鹿共のせいで辺境の人達がどれだけ苦しんだか。」

「・・・流石に、中央値、10倍、ぼったくり。」


各商隊の商品には、定価の値段と輸送費等の必要経費差額を上乗せして合わせた値を中央値として定めていたが、その情報が入らない様な辺鄙な所で阿漕な商売をしていたガデンザ商会は中央値の10倍の値段で商売していた様だった。


「知った時は驚きましたよ。ですから実際の価格と輸送料の説明をして、商品を買ってもらいましたから。」

「・・・定価、説明、商人、致命的。」

「致命的でしたね。でも、あの時はああしないといけないと思いましたから・・・。」

「・・・やっぱり、貴方、悪人、向かない。」

「いえ、悪ですよ。他人の成果を糧に商売しているんです、何時如何なる時だって悪ですよ。」

「・・・貴方、自分、必要悪、思ってる?」

「ですね。そう思ってますよ。そう思わないと商売なんてできませんよ。この国は比較的マシですがそれでも辺境は魔物ばっかだし、ならず者の山賊はいるし、悪徳商人に諂う役人はいるしで最悪ですよ。だから貧困だけでも何とかしてやろうと思って、商人になったんです。けど奇麗事じゃあ貧困は取り除けないし、自分も其処等辺の草を食べる訳にも行きませんから、理想の善人じゃ無く、仕方ない悪人になりますよ。」


タイレルは乾いた笑みを浮かべたムーアに既視感を覚えた。


「・・・思考、狂人。だが、俺、嫌いじゃない。」

「そうですか?この話をすると、大体の人は変人扱いするんですけどね。」

「・・・俺、武具、作る、それ、誰、使う、判らない。だけど、必要、だから、作る。そこ、善悪、存在、しない。」

「成る程。貴方の様な製作者はそう言う風に思いますよね。納得しました。」

「・・・納得、できた、良かった。・・・話、変わる。今日、連絡会、議題、出した。」

「どんなのですか?」

「・・・重要、ガデンザ商会。この街、構成員、潜んでる。注意。俺、裏組織、襲撃、在った。」

「何でそんな事が起きたんですか?!警邏隊は?!」

「・・・情報、言えない。ただ、彼奴等、馬鹿貴族、懐柔。現状、警邏隊、信用、出来ない。」

「そうですか。・・・有難う御座います。一応、注意だけはしておきます。では。」

「・・・注文品、工程、順調。今度、会う、納品。」

「解りました!有難う御座います!」


ムーアの去って行く背中を見つめていたタイレルは、自嘲気味に笑った。


(俺も必要悪は必要だと思うよ。・・・ただアンタと違って、俺はかなりのろくでなしだがな。)


徐に両手を見たタイレルは、裏家業をやろうと思った切っ掛けをほんの少しだけ思い返し、直ぐに帰路に就いた。

切りが良いのでここで切ります。

商売って大変なんですよ。


タイレルの足音だし修行 グレープフルーツ味

「トトト・・・(少し強めに足踏み)(効果無し)」「ダン!ダン!ダン!(思いっきり踏み込む)(自分の足が痛かっただけ)」「トン、トン、トン・・・(スキップ)(他の人から見ると不気味だった)」

結果、意味無し(効果音付けましたが実際は何の音も鳴っていません)

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