7-13
「あなた~、お客さん。」
「・・・誰?」
「私は知らないけど、貴方なら知ってるって。」
「・・・何処から?」
「スノームーン。また変な事頼んだの?」
「・・・頼んだ。」
「「解った。(解りました。)」」
作業場から店舗の方に出てみると、サイモンが立っていた。
「どうも、相変わらず足落としませんね。っと、何か副娼館長がコレを持ってけって事で来ました。」
その手には紐で纏めた紙束が握られていた。
「・・・御代、いくら?」
「ええっと・・・。」
暫く考える仕草をしていたが、突如ポケットを漁り、紙を取り出した。
「お値段は銅貨70枚ですね。」
「・・・安い。高い、思った。」
そうして懐から銀貨を1枚サイモンに渡すと、お釣りを返してきた。
「・・・っと。これで足りますよね?」
「・・・足りてる。」
「良かった。」
安心するように息を吐いたサイモンを見たタイレルは気になった事を聞いた。
「・・・仕事、不安?」
「不安ですよ。この数日間、ずっと金額計算ばかりやってますが、何回も間違えるから不安で不安で・・・。」
「・・・経験、糧、変える。経験、裏切らない。」
「そうですかねぇ。」
「・・・鍛冶師、鍛造、経験、頼り。だから、失敗、いっぱい。」
「そんなにですか?副娼館長から聞きましたけど、かなりの腕が在って注文した人は全員満足してるとか言ってましたけど。」
「・・・何年、鍛冶師、やってる、思う?」
「え?18からだとして「30年。」・・・え?」
「・・・30年。今、歳、38。」
「8歳からって・・・化け物ですか。」
「・・・親父、カッコ良かった。ああなる、決めた。そこから、鍛冶師。だから、成功、いっぱい。失敗、それ以上。」
「そんな人生だったんですね。なんか、凄いな・・・。」
「・・・凄く無い。地味、努力、結果、今。だから、頑張れ。」
「はいっ!!!」
「・・・それと、恰好、つける、真似、早く、治す。新人、情けない位、いい。」
「そんなもんですか?」
「・・・格好、つける、失敗、逆、カッコ悪い。」
「気をつけます。・・・では!」
手を上げながら去って行くサイモンを見送ったタイレルは作業場に戻った。
「・・・しばらく、休憩。」
「解った。・・・その紙束、何?」
「・・・気になった事、調査依頼。結果。」
「ふ~ん。」
何を調査したか気になるのか、ミルドはちらちらと紙束を見始めた。
「・・・興味、在る、後、見せる。」
「一応は見たいかな。だから、帰りに見せて。」
「・・・解った。」
タイレルは作業場に備え付けた椅子に座り、調査報告書を読み始めた。
(予想通りだな。あそこに恨みを持ってるのが解らんかったが、これだけいるのか・・・。)
調査結果はデロイス商会自体は白。何なら枠外欄に調査員から商品購入の指示まで入っている程だった。
問題は敵対商会の数だった。
(幾らなんでも多すぎる。王都では新規商会なのに、古参の大商会まで敵対関係になってる。)
どれだけ辺境且つ辺鄙な所で商売しようとも王都では新規の筈のデロイス商会に、王都の古参商会それも名の知れた大商会が何故か警戒ではなく敵対関係になっていた。
(どうして・・・ん?なんだこれ?)
報告書の下の方に赤字で書かれた部分が気になり、その部分を読み始めるとタイレルの顔は険しくなった。
(何でこの商会の名前が在るんだ?潰れた筈だろ。)
そこには10年前に潰れた筈の『ガデンザ商会』と言う商会の名前が入っていた。
(詳細までついてるな。・・・ああなる程、あの馬鹿共、こざかしい手を・・・。)
そこにはその商会の生き残りが阿漕な商売を辺境でやっており、その販路にデロイス商会が参加して顧客が取られた事、顧客が取られた事による腹いせにお手紙作戦で自分達がやった悪行をデロイス商会におっ被せ始めた事が書かれていた。
(つまりは此奴らのせいでデロイス商会は被害が出てるのか。)
ガデンザ商会の手紙作戦の酷さに大商会の殆どが独自調査を始めたらしいが、それが済む迄の数か月間は一応敵対関係を維持する意向を調査報告書から感じた。
だが、下っ端の下っ端とは言え裏組織まで動かしての妨害はやり過ぎだとタイレルは感じた。
(こう言うのは余り首を突っ込みたくは無いんだが、流石に少し動くか。)
今日は早めに仕事を切り上げて、あの人の好い店長の為に動くことを決めた。
切りが良いのでここで来ます。
皆様も格好をつける時は気をつけましょうね。
ガデンザ商会
作中の10年前に潰れた悪徳商会。
主に雑貨を取り扱っていたが製品の質が悪く、それでいて他店より高かった為、開店数か月で閉店する事となった。
現在は生き残りが情報の少ない辺境などに行商に行って暴利をむさぼっている。