7-10
タイレルは墓参りからの帰り道にデロイス商会に寄ろうとしていた。
(2か月の納期とは言え、進捗位は知りたいよな。)
製造側で決めた納期は守るのは当たり前だが、どの様になってるかは卸す側としても知りたいはずである。
(通信の魔道具が普及すれば簡単に連絡できるのだろうが、現状は物凄く高価だからな、アレ。)
偶々密偵達が通信の魔道具を使っているのを確認したタイレルは値段を聞いてみたが、一家庭が持つには法外すぎる値段を聞いて諦めた。
(それに現状は2つで1セットだ。俺が欲しいのは1個で複数の通信魔道具に繋げれる奴なんだよな。)
現状の通信魔道具は糸電話の延長でしかなく、1つで複数の通信魔道具に繋げれるものは存在はしていなかった。
(メリッサも研究はしてはいるらしいが正直、俺が生きてる間には出来ないだろうな。)
そんな事を考えているとデロイス商会に続く通りに出た時だった。
「おい!そこのデカブツ!ちょっと面貸しな!」
いきなり周囲を複数人に囲まれ、ナイフ等の携帯できる武器で脅してきた。
「・・・どけ。」
正直、邪魔なので退いて欲しいのだが、
「面貸せって言ってんだよ!」
退く気は無い様だった。
「・・・此処、話す。」
「あぁん!?ふざけんなよ!この状況で警邏隊が来ないとでも思ってんのか!」
「・・・早く、話せ。くだらない話。」
「くだらなくはないぜ、アンタにとっては良い話だ。アンタこの先の商会から仕事貰ったんだよな?」
「・・・デロイス?」
「そうだ。」
どうやらデロイス商会に関しての話らしい。
「・・・何だ?」
「あそこの商会はやめておけ。金払いが悪いんだからな。」
話を聞いてみると、どうやらデロイス商会は阿漕な商売をしており、自身の懐を潤す為なら様々な事をやっているそうだ。
「辺境で物を売るのを良い事に作り手は低予算、買い手は高額で売りつけて高額な差額は自分の所に入れてるのさ!」
大声でそんな事を言っているが、それを聞いていたタイレルは正直な感想を言ってしまった。
「・・・お前、馬鹿?」
「あぁん!?」
「・・・差額、取る、商売、基本。」
売り手が買い手の為に商品の発注する際、其処に仲介料を上乗せするのは当たり前だし、儲けを意識するのなら作り手側にも交渉して商品代金を落とすようにするのは基本である。
それにデロイス商会の様に辺境等の辺鄙な所に赴く商売なら、輸送料等の費用は何処から補填しなければいけない。
それを差額として取る事に何ら違和感はない。
更に言ってしまえば、デロイス商会だけが辺鄙な所に行商を行なっている訳では無い。
他の行商と比較して、安い方を買うのも買い手の自由の為、あまり阿漕な稼ぎは出来ない。
それすら解らん奴なら商売になんて手を出すべきでは無いのだろう。
「・・・お前、商売、才覚、俺以下。商売、辞める。」
「ぬぐぐぅうぉがぎぃ!!!」
「・・・そもそも、話、聞かせる、複数人、武器、大声、不要。」
話を聞かせるだけなら囲む必要も武器を出す事も大声で話す事も不要なはずなのに、それをやってる時点で此奴らの目的は判ってしまった。
「・・・大方、敵対商会。デロイス、悪評、広める。」
「ぎぎゅびぅ!!!・・・こうなったら、お前等!やっちまえ!!!」
図星をつかれた推定敵対商会の雇った馬鹿共は奇妙な声を上げて一斉に武器を振りかざしてきた。
(馬鹿いや、馬鹿に失礼だな。阿保なのか此奴等?今更過ぎるだろ。)
阿保に繰り上げになった此奴らの相手をタイレルはする気は無かった。
だから高速でしゃがみ、人垣の開いている隙間に向かってスライディングをして抜け出した。
(一斉に飛び掛かって来たら隙間もできる。それに・・・)
「いでぇ~!!!!」
「テメェ、なにしやがんだ!!!」
「はがが・・・はがが~!!!」
(後先考えずに突っ込むから、こうやって同士討ちになる。)
スライディングの姿勢から立ち上がり後ろを見ると、大方の予想通り大多数が負傷していた。
(立っていて負傷して無いのは・・・1人だけか。)
唯一立っていた襲撃者に近づくと、そいつは怯えて武器を手放し、両手を上げて降参の意思を示した。
「・・・警邏隊、来る。捕まれ。」
「つ・・・捕まったら、・・・命が・・・。」
「・・・お前の?」
「そ・・・そうです。」
「・・・拘留所、安全。お前等、組織、下っ端。上役、厄介、嫌う。」
幾ら構成員が拘留所に入ったからと言って、いきなり罰しようなんて言う上役はあまりいない。
それよりは安全に出てこさせて、ボロを出してないかを確かめた方が早い。
(しかし被害妄想が豊かな奴だな。もしかして・・・。)
立っていた輩を手招きで引き寄せると、輩は素直に従った。
「・・・お前、新人?」
「そうだよ。」
「・・・優し過ぎる。悪人、向いてない。」
油断させて襲撃してくると思っていたが、全くそんな気配がない上に顔が完全におびえていた。
そんな甘ちゃんな奴が末端とは言え裏家業に就くのは気分が悪かった為、輩を他の連中から引き離して辞める様に説得しようとした。
「向いて無いのか・・・。」
輩は説得の必要もない位には落ち込んでいた。
「・・・反省、出来る。余計、向いてない。・・・仕事、在るか?」
「ここ辞めたらね~よ。」
「・・・特技、何?」
「特技ぃ?・・・しいて言うなら命令を聞く事と、立ち仕事が苦にならない位、か?」
「・・・仕事、紹介、出来る。抜けろ。」
「え?でも抜けたら・・・」
「・・・制裁、心配、無し。俺、一緒、行く。だから、捕まれ。」
「?解った。」
そうして到着した警邏隊に襲撃の内情を話す為に、簡易詰め所まで一緒に付いて行った。
切りが良いのでここで切ります。
商売の基礎は大事ですよね。
馬鹿襲撃者の杜撰計画 グレ-プフルーツ味
「複数人で武器持って囲みゃあイケるだろ。」「何で上はこういう事やら無いんだ?」「俺の方が頭良いからさ!さあ行くぞ!」「(物陰から出てくる)・・・あいつ等除名しとけ。馬鹿すぎる。」「承知。」
普通に費用対効果が合わなかったからやらなかっただけです。(馬鹿共の末路は章の最後の方に書くかも)(書いてもお察しの通りの結果になりますがね)