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異界暗殺業  作者: 紅鈴
鍛冶屋
144/179

7-8

作業場に戻ったタイレルは3種の鋳型を完成させた。


(最初の1個が出来れば後は簡単なんだよ。)

「・・・息子、鋳型、複製。」

「解った。どんな方法で?」

「・・・錬金術。数、10、休みながら。」

「10個ね。解った。」


そうしてミルドが複製準備に入ると、タイレルも準備に入った。


(最初に錬成陣から。)


タイレルはまず床に複製の錬成陣を書いていき、ちゃんと陣が作動するかを魔力を通して確認をした。


(この錬成陣の厄介な点は、2つ共ちゃんと書かないと効果は発揮しない点だよな。)


複製の錬金術は便利な分厄介な制約が多い。

魔力消費に複製元本劣化もそうだが基本である錬成陣をちゃんと書かないと作動しないのも厄介だ。


(メリッサに言わせれば『錬金術の基礎だ、当たり前だろ。』なんて言ってたな。)


鍛冶屋にしてみれば、こんな物を覚える位なら鍛冶の腕を上げる方に精を出すのが良いのだが、いかんせん大量注文大量消費を考えるとこういう小技を覚えなければいけないのは業腹であった。


(一時期はこんな物を使わんといかんかったからなぁ~。)


営業面でも妻には感謝をしているが、経営立て直しの為に面白くも無い無難な鍛冶をしなければいけなかった為、ストレスから手抜きしようとこの裏技を使った。


(見つかったのが運のつきだったな~。)


ミュリアが『こんな便利な物が在るなら教えてくださいよ!』と言って説明を聞かずに無茶な注文を取ってきた為、初めてミュリアに怒ってしまった。


(説明を聞かなかったミュリアも悪いが、説明が出来なかった自分も悪いな。)


説明の後、無茶な注文をさばき切り、その後妻にも実際に複製をやってもらった。

その時、始めて妻はこの複製の辛さを知った。

物作りを生業にしているなら、傑作品が劣化しながら大量生産されていく様は、見ていて空虚な物だっただろう。

それ以降は余りこの技法を使う様な注文を取ってこようとはしなくなった。


(ミルドにもやり方は教えはしたが、余りやりたがらないのは良い傾向だ。)


何時かは巣立ちの時を迎えるミルドにも量産の大切さと共に教えはしたが、当人は仕方ないと思った時以外は使おうともしないと自分の前で誓った。


(魔道契約書まで持ってきたのには驚いたな。・・・契約は止めさせたが。)


魔道契約の恐ろしさを息子に説く羽目になったのは喜ばしい誤算だった。


「親父、材料用意し終わったよ。」

「・・・息子、こっち。俺、向こう。」

「あいよ。」


息子の方も準備が出来たので、2人で鋳型を錬成し始めた。


(最初は良いんだ。問題は2個目から・・・。)


複製の錬成陣は最初は元本と同じ物を複製するが、数が重なる毎に元本がどんどん劣化していく。

その為、一番効率が良いのは最初の1個目を複製したら作られた複製品を元にして同じ事を繰り返すのが良いのだろうが、それが出来る程甘い作業ではない。


「やっぱできないね。複製品を元本にする事。」

「・・・一番、不都合。」


何処かで不備が在るのか、それとも術の特性なのか複製品を元本にする事が出来ない様になっていた。


「何がいけないんだろうね。」

「・・・知り合い、錬金術師、同じ。」

「専門家でも解明できてないんだ。」

「・・・そう。」


専門家でも解決法が無いのならかじっただけの自分達が改良でいる訳では無いので、諦めて元本の劣化を気にせずにやっていくしかなかった。


(それでも10個までなら重大な劣化がおきないのは良い事だがな。)


複製10個と言う数字は何度も繰り返して重大な劣化がおきない最小値の為、この錬金術を使う者はそこで止めていた。


「親父、・・・10個できたよ。」


ミルドは鋳型を錬成し終わったが、明らかに息がきれていた。


「・・・休め。」

「解った。」


自身は残りの鋳型を全て作り終えると、鋳型に流し込む鉄を溶かし始めた。


「・・・鉄、溶ける、暫く、休憩。」

「応!その間に準備もしとく。」

「・・・疲れ、大丈夫?」

「親父より先に休んだから、少しは先に動ける。」

「・・・無理、禁物。」

「解ってる。」


鉄を溶かしている間はタイレルは休憩していたが、先に休んでいたミルドは早めに休憩を止め、鋳型に流し込む為の漏斗を鋳型に嵌め始めた。

十分に鉄を熱した辺りでタイレルは休憩を止め、鉄の溶け具合を確認した。

鉄はよく溶けており、鋳型に流し込むには十分な状態だった。


「・・・やる。」

「応!」


タイレルは細心の注意を払いながら鋳型に鉄を流し込み、十分な量を流し込んだらミルドが漏斗を外し、少しだけゆすって壁際迄鋳型を運んだ。


「親父!この位置か?」

「・・・それでいい。」


それを何度か繰り返し、全部の鋳型を運び終えると、タイレルは鋳型から少し離れた位置で両手を突き出した。


「・・・【奪熱】」


タイレルが魔法を唱えると鋳型から発せられる熱が減ってきた。


「・・・魔法、便利。加減、難しい。よく見る。」

「魔法で熱をゆっくり奪うんだね。加減が難しいからよく見てろと。」

「・・・精進。」


十数分程魔法を行使し続けてから魔法を解除し、鋳型を開けると中の鉄が固まっていた。


「・・・端材、落とせ。」

「解った。」



ミルドが端材を落とし、落とし終わった物をタイレルに渡すと、タイレルは炉に入れ、物を十分に熱したら、よく冷えた液体の中に入れた。

俗に言う焼き入れと焼き戻しを行なった。


「これで完成?」

「・・・今日はな。明日、研ぎ。今日、疲れた。」

「だね。・・・俺もへとへとだよ。」


2人は近くの椅子に座り力を抜いて項垂れた。


(体力は十分なんだが、魔力と集中力がな・・・。)


鋳型の複製錬金術に奪熱の魔法、この2つの魔法はかなりの魔力を消費する上に、細心の注意を払わないと直ぐに製品を駄目にしてしまうので、体力勝負の鍛冶以上に疲れてしまったのだった。


(時間は・・・少し早いが、丁度良いな。)


タイレルは窓の外を見ると日が落ち始めていた。


「・・・仕舞い。帰る。」

「応!早く帰って飯にしよう!」


さっきまで項垂れていたミルドが、終わりの宣言を聞いて勢いよく立ち上がった。


「・・・現金。」


それを見たタイレルは呆れてしまった。


「いいじゃん!腹減ったもん!」

「・・・片付け、やる。」

「応!」


2人は手早く片付けて帰路に就いた。

切りが良いのでここで切ります。

殆どの小説だと鍛造のシーンが書かれますが鋳造も大変なんですよ。


使用魔法

複製の錬金術(魔法では無いが一応掲載)・・・陣Aと陣Bを書き、Aの上に元本、Bの上にAと同じ材料を載せて錬成すると手早く複製できる。ただし、元本が少々劣化する上Bを元本か出来ない。

奪熱・・・攻撃魔法火属性で指定した範囲の熱を奪う(何で攻撃魔法なのかは奪う対象が人でも良い為)

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