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ムーアからの契約をした翌日、剣の鋳型をミルドと組んでいると、滅多に作業場に来ないミュリアが入って来た。
「御免、私じゃ対応できないお客さん。」
「誰?」
「警邏隊の隊長さん。何でも相談に乗って欲しいんだって。」
そう言われて店頭の方に顔を出すと、ジタンがTシャツにジーンズ姿で立っていた。
「ミルド君は久しぶりだね。っと自分は王都警邏隊第2隊の隊長をやっていますジタンと申します。武器の依頼なんですけれど、ちょっと意見が欲しくて・・・。」
「・・・話す。」
「ええっとですね、警邏隊って基本は殺傷武器を持てないんですよ。ですが支給されている皮鎧や木製の棒だけだと自身が守り辛いんですよ。ですので何か規定内で装備できる武器って無いですかね?」
「・・・規定、何?」
「緊急時以外の殺傷武器の使用禁止と過剰な武器の所持ですね。」
「・・・手甲、脚甲。」
「そっちについては確か無かったと思いますね。」
「・・・皮製、鋼鉄製、変更。」
タイレルは革製の手甲脚甲を何らかの鋼鉄製に変えてみる事を提案した。
「あ、その手があったか。」
「・・・決定?」
「そうですね。一応上に確認は取りますが、通るでしょうね。・・・それで何ですが、一応どんな物が在るか見せていただけませんか?」
「御免なさい。今は置いて「待て。」です・・・え?」
ミュリアの言動をタイレルが止めた。
「・・・一応在る。持ってくる。待てるか?」
「大丈夫ですけど。」
それを聞いたタイレルは作業場に入り、暫くすると出て来た。
「・・・自分、趣味、作った。」
その手にあったのは趣味で作るには作りこまれ過ぎた手甲と脚甲だった。
手甲の指部分は鉄で一枚一枚関節の部分で張り合わせてあり、どの様に曲げても関節が鉄で覆われる様になっていた。
てのひらの方は皮で出来ていたが、表面がデコボコしており物を握っても滑りにくそうだった。
二の腕の部分は全体を覆っているが手の甲側は3重構造になっていた。
脚甲も同様に作りこまれており、脛の部分に至っては警邏隊支給の物より倍も厚みがあった。
「物凄い作りこんでるな。これ、そのまま欲しいんですけど。」
「・・・警邏隊、職務、規定違反。警邏隊、卸せない。」
「・・・え?」
ジタンの疑問に答える様にタイレルは手甲を嵌め、手首を動かしていると手首側の二の腕部分から刃が飛び出してきた。
「うおぅ!!?」
「・・・これ、一応、ジャマダハル。」
ジャマダハルを簡単に説明するとナックルダスターの先に幅広の剣が備わった武器であり、切る事より突き刺す事を目的とした短剣の1種類である。
タイレルはそれを手甲で再現する為に、二の腕の部分を改造して剣を収納し、特定の動作で飛び出るように改造した。
「・・・力作。」
「御免!親父だと説明に時間がかかるから変わるね。親父ってこういうギミック武器を作る事が趣味なんだ。実際この手甲も他にもギミックが在って・・・。」
ミルドが指の部分を持って振るとそこから小型のナイフが出て来た。
「こんな風に小型の鉄爪になったりするんだ。」
「凄いな。こんだけの物に、これだけ仕込めるのか。・・・何でミルド君も知ってるの?」
「コレの製作にちょっとだけ見てて、一部のギミックは知ってるんですよ。ただ、親父がどれだけギミック入れたかは判らないんです。」
「成る程。・・・まあ、こんな危険な物は警邏隊に必要無いな。」
「・・・手甲、題材。」
「?どう言う事だ。」
「あ~、ジャマダハルを抜きにした手甲の形状は警邏隊としては良い題材じゃ無いかって事?」
「・・・そう。」
それを聞いたジタンは手甲と脚甲を見た。
「そうだな・・・二の腕の部分だけど、剣が入ってるにしてもちょっと太すぎるな。削れますか?」
「・・・できる。脚甲も?」
「そうですね。・・・脛の部分はもう少し厚みを無くすようにできます?」
「・・・可能。」
「足首の自由とかは無理ですよね。」
「・・・前蹴り?」
「そうです。やる奴なんて俺ぐらいですけど、足先を伸ばして距離を稼ぐようにしたいなと。」
「・・・できる。強度、不足。」
「強度不足になるけどできるそうです。」
「じゃあそっちの方向でお願いします。・・・今は大体こんな所かな。」
「じゃあ一回試作して、ちょっとずつ完成に近づける風で良いですか?」
「それでお願いします。試作の完成って何日かかりますか?」
「ちょっと仕事が立て込んでまして試作が出来るのが遅くても3か月後くらいになりますけどいいですか。」
「・・・解りました。試作が出来たら北の警邏隊詰め所に連絡をください。」
「解りました。」
そうしてジタンが出て行った後に、ミルドはタイレルに詰め寄った。
「親父、あれ何?俺が見たやつより作り簡単だったよね!」
「・・・試作品。」
「だよね!そうだよね!だって手甲のギミックが少なかったし、脚甲も脛部分が分厚いだけだもんね!」
「・・・見たの、最高傑作。他人、見せない。」
それを聞いた2人はため息を吐いた。
「見たら最後なんでしょ、可哀そう。」
「その情熱を会話能力に振ればいいのに。」
そう言われたタイレルは気分が落ち込んだ。
「落ち込まないの。態度にまで出てますよ。」
「親父、仕事に打ち込んで忘れよ。」
タイレルは頭を振ると作業場に戻っていった。
切りが良いのでここで切ります。
暑くなってきましたね(2025年7月前半)
警邏隊って支給品以外の装備って無いの?問題
経費申請すれば装備の更新等は出来ます。
ただ、装備品は審査が厳しいので大体は弾かれます。
弾かれる理由は殺傷能力がある事です。