7-5
ミルドに言われて納品に向かっていたタイレルだが、正直気は進まなかった。
納品に行くよりは鍛冶に精を出したかったからだ。
(人と話すこと自体は好きなんだが、この口下手だけどうにかならんか?)
原因は自分の口下手具合だ。
(慣れている相手だとあまり怒らんのだが、今日みたいな新規の所は話し方で怒られることが多いから、あまり行きたくは無いんだよなぁ。)
噂を聞きつけた商店の一つが試しにロングソードを1本納品して欲しいという依頼だったが、取引の際に製作者に合わせて欲しいと言う事で仕方なく自分が赴くことになった。
(まあ、頑張るか。契約を取れたら家族を養えるしな。)
何とか気分を前向きにし、件の商店に赴いた。
「・・・御免。」
「如何されました?」
店に入ったタイレルは近くに居た店員に用件を伝えた。
「・・・ダロン鍛冶店、納品。」
そう言いながら袋に詰められた剣を突き出したが、店員は動こうともしなかった。
「ええっと、納品なんですよね。」
「・・・そう。」
「・・・少々お待ちください。」
店員が慌てて店奥まで入っていった。
数分待っていると先程の店員と共に1人の男が近寄って来た。
「お待たせいたしました。ダロン鍛冶店からの納品と言う事は伺っておりますが・・・。」
「・・・製作者、店主。」
「左様でしたか。私は当『デロイス商会』を経営しております店主のムーア=デロイスと申します。タイレル=アザキエル様の噂はかねがね聞いております。」
「・・・不愉快、噂。」
「どういう意味でしょう?」
「・・・俺、口下手。」
「ああ、其方でしたか。構いませんよ。商売をやっていると、もっと酷い人と知り合いますから。」
そう言ったムーアはタイレルに近づくと、タイレルの手にあった剣を受け取り中を検めた。
「・・・素晴らしい!これは鍛造ですか?」
「・・・鋳造品。鍛造、費用、もっと高い。」
「これを鋳造ですか。本当に素晴らしい!」
鍛冶には鍛造と鋳造があり、今回卸したのは鋳型を取り、その中に溶けた鉄を流し込んで冷やした後、鑢で形を整えた、鋳造品の剣であった。
「これなら少し色をつけても売れますね。」
「・・・やめる。此処、雑貨、多い。」
タイレルは剣の検品中に店内を見回していたが、生活雑貨が多すぎて、剣を置くと異彩を放つのではないかと思ったため止めに入った。
「確かにそうですね。ですが、うちは行商もやっておりますので、そちらの方に回せば良いかなと。」
「・・・雑貨、方針変更、困惑。」
「意外とそんな事は無いですよ。行商に行っている者の意見を聞くと、剣等の武器を売って欲しい事が多くあるそうです。」
「・・・村、専属鍛冶、作る。」
「修理が多いそうですよ。だから新品の武器って意外と需要が多いそうで。」
タイレルが聞いた所、この商店の行商が行く村にいる鍛冶師は修理依頼の方に掛かりっきりで、武器を新造する余裕も資金も無いらしい。
「・・・知識不足、すまん。」
それを聞いたタイレルは素直に謝った。
「いえいえ、我々としてもそういう村に赴くのが常ですし、そういう村の現状を知ってもらえて幸いです。」
「・・・これ、値引き。」
「逆にやめてくださいね。物の価値に対しての仕事の報酬が釣り合わないと、その腕が廃れてしまいますので。」
「・・・感謝。」
持ってきた剣を値引きしようとしたが、ムーアが逆に止めた。
どうやら彼はオーバンと同じ様な商売理念を持っている様だった。
「さて、これで初回は良いのですが少しお話しませんか?」
「・・・先程言った。俺、口下手。」
「いえいえ、継続契約の話をしたのですよ。」
どうやら持ってきた剣はムーアの目に叶いすぎた様だった。
釣り上げた大魚を逃がさない様に、直ぐに契約を結びたい様だった。
「・・・嬉しい。妻、呼ぶ。」
「どう言う事でしょう?」
「・・・俺、商売、下手。妻、上手。任せてる。」
「あ、そうだったんですか。てっきり店長である貴方が仕切っているのかと・・・。」
「・・・適材適所。」
「確かにそうですね。不向きな事を永遠にやらせても成長できるかは怪しいですからね。」
「・・・呼んでくる、時間?」
「今日一日中店にいますので大丈夫ですよ。」
「・・・また。」
「はい、お待ちしております。」
そうしてタイレルはミュリアを呼びに店に戻った。
「タイレルさん!商品代金忘れてますよ!」
「・・・すまん!」
尚、納入代金を忘れた為、直ぐに再会する羽目になった。
切りが良いのでここで切ります。
物資に限りがあるのなら普通は修理ですよね。
デロイス商会について
王都内に最近できた商会。
辺境の行商がメインで、王都の店舗は居抜きしている。
取り扱いはメインに雑貨、次に食料品や趣向品となっている。
ムーアが初代会長