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異界暗殺業  作者: 紅鈴
鍛冶屋
140/181

7-4

ダロン鍛冶店の朝は早い。

タイレルは日の出前に店に入り、炉に火を入れる。

炉の調子やその日の湿度や気温を確かめ、炉を適切な温度にして万全の状態で仕事を始める。

火が完全に入るまでの時間は暇なので、炉の点検をしながら思考に耽るのが最近のルーチンワークだ。


(親父の代から受け継いでるから、結構ガタが来てるんだよな。)


本当は炉もいい加減変えたいのだが、自身のせいで閉店寸前までいったので購入資金が足りなかった。

買い替える為の貯蓄はしているのだが、それとは別に貯蓄をしている事があるのでかなりカツカツの財政状況であった。


(息子には学院に行ってほしいしな。)

自分は中退なのに息子のミルドには学院に行かせようとしており、その事を息子にも話していた。

息子は案外乗り気で、今から学院に行くのを楽しみにしている様だった。


(俺も真面目に学院に通っていれば、苦労は無かったかもな。)


そう思考していると、炉内に熱が入った。


(今日も調子はいい方だな。これなら仕事も片付けれるだろう。)


熱の漏れや破損も無い様なので、余り炉内の温度を上げない様に調整しながら家族が来るのを待っていた。


「あなた、朝食を持ってきました。一緒に食べましょ。」


日が上り、暫くするとミュリアが朝食を持って作業場まで来た。


「・・・息子?」

「まだ夢の中。刃毀れの発見が出来なかったのがよっぽど悔しかったんでしょうね。」


最近のミルドは師匠を超えようと日夜努力をしている。

だが、何か失敗があると夜更かししてでも原因を修正しようとしてしまう。

その為、朝が起きれないことが多くなってきた。


「・・・ルイン、言ってた。経験。」

「あら?あの薄くて小さい刃なの?なら仕方ないじゃない。あれから刃毀れを見つけられたら、もうそこら辺の鍛冶師じゃ太刀打ちできない腕でしょ。」

「・・・研ぎ、技術、一端。」

「そうね。研ぎの技術だけならそこら辺の鍛冶師以上だものね。・・・あなたより下だけど。」

「・・・壁、高く。」

「まだ超えさせる気は無いんだ。」

「・・・当たり前。」


ムフーと鼻息を吐いたタイレルを見たミュリアは含み笑いを始めた。


「そんな風にしてると子供みたいに見える。」

「・・・少年心、物作り、必要。」


良い物を作るには経験も必要だが、子供の様な心持が必要だとタイレルは思っている。

唐突なアイディアは、何時だって童心に帰った時に湧いてくることが多かったからだ。


「何度も聞いたわ、伯爵に送った剣の話は。」

「・・・良い出来。」


その剣はある伯爵から『杖としても使える剣』の作成を頼まれた事に端を発した。

タイレル自身は仕込み杖の形での納品をと思ったが、作成条件として『隠し剣ではない形状』を求められた。

当時は金に困っていたし、一度依頼を受けると言ってしまった手前、何とか形にしようと躍起になっていた。

だが、仕込み杖以外のアイディアが全く浮かばず途方に暮れていた所、偶々子供が持っていた蛇型のおもちゃを見て自分もああ言うので遊んでいた事を思い出した時、アイディアが閃いた。

そのアイディアを元に作った杖型可変蛇腹剣は伯爵のお気に召した様で、報酬に上乗せがなされ、自分の中でも自信に繋がる出来事となった。


「・・・伯爵、稀、来る。」

「そうなの?会った事無いけど?」

「・・・変装。靴、同じ。」

「どう言う事?」


流石に端的に話しすぎたのでタイレルはゆっくりと言葉を解り易いようにしゃべった。


「・・・伯爵、御付き、嫌い。毎回変装。靴、毎回同じ。」

「あ~成る程。流石に伯爵様をこんな所に一人でこさせられないから御付きを付けるけど、伯爵はそれを嫌っていて毎回違う変装してるのね。」

「・・・そう。」

「でも靴が毎回同じだから、それを知っているとすぐばれちゃうのね。」


タイレルは頷いた。


「呆れた。それを知ってたら『自分は此処に居ますよ』って言ってるようなモノじゃない。」

「・・・変装、上手い。初見、気付けない。」

「どれだけ変装を持ってるのよ・・・。」


伯爵の変装はタイレルが知っているだけでも40通り程あるのだが、それをミュリアに言う気はなかった。

そうしていると店舗側の扉が勢いよく開かれた。


「ごめん!寝坊した!」


両親を見たミルドは開口一番にそう言った。


「・・・始業前。」

「全然大丈夫よ。朝は食べた?」

「食べてから来た。前みたいに倒れたくないし。」

「・・・体、資本、大事。」

「そうよ、ちゃんと食べないと力が出ないんだから。」


ミルドは以前、営業中に倒れた事があった。

原因は朝食を抜いてハードな仕事をした事であった。


「・・・確認。」

「特に変更は無いわ。だからって油断しない様に。」

「・・・解った。」

「じゃあ私はいったん家に帰って後片付けとかしてくるから、ミルドは店番よろしくね。」

「う~い。」

「あなたも怪我には気をつけてね。」

「・・・妻、気をつける。」

「ありがと。じゃあ行ってくるわね。」


ミュリアが店を出て行ったのを確認したタイレルは、作業場に行こうとしていた。


「何作業場に行こうとしてんの?今の予定って納品だけだよね。」

「・・・油断。」

「じゃないよね。単純に納品に行きたくないんだよね!?」


ミルドの指摘にタイレルは黙るしかなかった。

切りが良いのでここで切ります。

カッコいいですよね、可変剣


杖型可変蛇腹剣について

T字型の杖で普段は杖として使い、握り手の部分にあるスイッチで鞘が外れて少し太めのサーベル、逆側のスイッチで刃節に別れ鞭の様に使う。

まあブラボの仕込み杖ですよね。

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