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王族だ~れだ。と事件の顛末
ナトライア孤児院の執務室に疲労顔を隠さない3人が書類仕事をしていた。
「マジで誰か変わってくれ。」
「辛いよ~。」
「大変ですが頑張りましょう。」
マグノリア達がナトライア孤児院の責任者となって数日が経った。
マグノリア達はその業務を分業していたが、偽院長が業務を全くと言ってよい程やっていなかった為、その残務処理に掛かりっきりになっていた。
経費申請から物品購入の意図の説明、挙句の果ては入院児の名簿記載までと多岐にわたっていた。
その上に子供の世話までしないといけないという状況は、はっきり言ってしまえばオーバーワークでしかなかった。
「もう嫌だ~。文字観たくない~。手が痛い~。」
「頑張れよ。私だって文字に計算にやる事が多すぎてイライラしてるんだからさ。」
「子供達の世話をある程度投げてこれですからね。」
「マグノリア~、息抜きに外に行ってるんだったら~何か買ってきて~。」
「交渉事を息抜きとか言わないでください!」
3人の持ち回りは交渉事では強いマグノリアが外に出て交渉し、他の2人が書類仕事。
交渉事が無い時はマグノリアと1人で書類仕事、残りの1人が子供の世話と分業していたが、息抜きと言うには遊びが無い状態が数日も続けば精神的にも肉体的にも疲労が蓄積されてきていた。
「まあ、息抜きと言うにはちょっと変な物ですが、それが今日届きますので、それで少しは気がまぎれますよ。」
「何~?」
「来てからのお楽しみです。ですので頑張りましょう。」
「「うぇ~い。」」
気の抜けた返事だが、届く物に興味が湧いたようで、作業効率が上がり始めた。
そうして書類仕事を進めていると執務室の扉がノックされた。
「すみません、誰かいますか?」
「3人共詰め込み作業中だ、何だい?」
「来客がありまして・・・ただ、その・・・」
「上からの確認は取れてます。その人を此処に通してください。」
「解りました。・・・確認が取れました、どうぞ。」
入って来たのはサザンカだった。
「え!?パイ・・・サザンカさん!?何で!!?」
マグノリアが驚きからいつもの名前を言いかけたが、何とか持ち直した。
「いや~、新規開拓なんだから、上役が来るでしょ。偶々開いてた上役があたしなのよね~。」
そうしてバックから、新聞を取り出した。
「はい、アンナさん襲撃事件の日から今日までの発行新聞全セットお持ちしました。ご確認ください。」
どうやら持ってきた新聞はアンナの事件からサザンカ来訪迄の新聞の様だった。
「有難う御座います。これでやっと情報の更新が出来る!」
「マグノリア、戒律は大丈夫か?」
「マグヌス様に確認しましたよ。そうしたら、既に治療院では新聞が入荷されていたので大丈夫です。」
交渉の為の外出中に立ち寄った治療院で新聞を見つけたマグノリアは、直ぐにマグヌスに直談判した。
どうやら戒律が一部改められており、情報収集が新聞でも出来る様になったのだった。
その場でマグヌスに新聞購入を申し立てた後、直ぐにミストレルに行き、アンナ襲撃から最新ナンバー迄の購入と、定期購読の契約を行なったのであった。
そしてそれを聞いたアンナは早速新聞を広げ、自分の事件の記事を見ていた。
「うわ~、結構派手だったんだね~、あたしの事件って~。」
「そりゃ派手でしたからね。街中で使用禁止魔法なんて放たれたら、誰だって注目しますよ。」
「そんで直ぐに犯人死亡の上で事件解決だろ。商売あがったりじゃないか?」
「流石にあれだけ証拠があれば仕方ないですよ。」
やれやれと溜息を吐いたサザンカは暗殺後の顛末を思い出していた。
犯人はゴアズからの指示でアンナを殺害しようとしたとサザンカ達は工作した。
まずは偽の手紙を犯人の内ポケットに入れ、簡単に風で飛ばない様にし、警邏隊にその手紙が見つかるようにした。
次に本物の南区の商工業組合長を発見させ、その近くに偽物の方の犯行に見える様に痕跡を残した。
更には組合長の家に偽のゴアズから指示書を大量にばらまき、それが数日前から入れ替わってい様に細工した。
そうして全てが出そろった後に、新聞で考察記事として出せば全部の問題が解決したのだった。
「この事件の指示を出した奴、トランゼルド出身かよ・・・。」
フリージアはゴアズの死亡事件の方を見ていた様だった。
「おや?トランゼルドに何か思い入れでもあるのですか?」
「・・・記事にしないって約束できるのなら、話していい。」
「魔道契約にしましょうか?その方が安心できますよね?」
サザンカが再びバックを漁ると、魔道契約に必要な羊皮紙が出て来た。
それを見たフリージアは呆れ顔になりながらも首を左右に振った。
「そこまでは別にいいよ。・・・まあ、簡潔に言えば私はトランゼルドの王族だったってだけ。」
「年齢が合わないですよね?フリージアは24歳でトランゼルドの崩壊は30年前ですから、どうやってそれを証明するんですか?」
「私の母が崩壊した時の王妃だったの。」
フリージアは一度ため息をつくと、静かに話し始めた。
「崩壊した国とは言え王族に嫁いで戸籍まで出来たら元王族でしょ。だから一応私は現存するトランゼルド王家の最後の血筋って訳。」
「成る程ね~。でもさ~、フリージアって~、祖国が嫌いだったよね~。」
「そうだよ。母に言い寄ってきた元国民の連中を見て来たから、あんなのに関わりたくないと思ってね。」
フリージアの母が教国の巡礼者になったのは祖国の者には知れ渡っていた。
その為、巡礼先に祖国の者が大勢待機して、罵倒や脅迫等を見ていたフリージアは祖国に関わる全てに嫌気がさし、同じ様に教国の施設に入る事を選んだ。
「母はその選択を誇ってたよ。『馬鹿な連中に付き合う必要は無い。自分の人生を選択して全うしなさい』って。」
「良い話ですね。」
「それが良いのか悪いのかはさて置き、私の秘密はこんなもんだよ。どうする?」
問われたサザンカは、首を左右に振った。
「意味の無い情報は記憶しない様にしてるんですよ。ですのであたしは何も知りません。」
「そう言ってくれると助かるよ。」
「そうですか。・・・では、責任者に定期購読の説明に移りたいんですけど、宜しいですか?」
そうして説明の末、ナトライア孤児院は新聞の定期購入が始まった。
この話は続きません。
と言う訳でフリージアがトランゼルドの王s族でした。
当人も言ってますが母親が王族に名前を連ねていただけなので王族としての責務なんて物には興味はありません。