6-ss-1又は5-27.5
5-27で何でマグヌスの馬車にルインが乗っていたかの話です。
「で、なんで俺はこんな馬車にいるんですか?」
朝一番にマグヌスとダリウスが乗る馬車に引き込まれたルインは、東区の孤児院に訪問した後に尋ねた。
「なぜ今、その質問をした?」
「いや、お前ねぇ!問答無用で催眠魔法掛けた奴が何ってんの!?普通に誘拐拉致だからね!!」
なお、引き込みの内容は馬車で病院に乗り付けた後、催眠魔法で眠らせ、無理やり乗せたようだった。
「すみませんね。ちょっとお時間が欲しいのですよ。」
「・・・治療院や俺の家じゃできませんか?」
「出来ませんね。今の貴方が簡単に貴族街に入れるとは思えませんが?」
「モーリアス家の御令嬢が俺を指名ですか。」
「・・・よく解るな。」
「あの御令嬢の事は俺の所まで聞こえて来たからね。数か月前の自領での火災で領民を救うために奔走してたら、顔に焼けた大木が倒れて来て顔面が大火傷でしたよね?」
モーリアス領で発生した大火事の鎮火を御年14歳の令嬢が陣頭指揮を執り、その最中に焼けた大木が顔面に覆いかぶさったが、気にせずに指揮をして鎮火させたと言う物だった。
「大木では無いのですよ。実際には犯人の魔法を受けた為ですね。」
マグヌスから話を聞くと、自領での火災はどうやら他国の間者が自身の逃走の際に起こした物で、そいつを追跡中に火系統の魔法を受けたのが顔面の大火傷の原因らしい。
幸いにも命に別状は無かったようだが、顔の約半分が第3度熱傷により焼けただれた様だった。
「大層な女傑だな。そんなのが普通に治療を受けるのか?」
「彼女の両親が依頼人何だが・・・そのな・・・」
「大体判った。説得頑張れ。」
「治さないのですか?治せるものは可能な限り治すのがあなたの心情でしょう?」
「一応、言いますけど、当人が望んでないのに無理やり治すのは、それが命の危機に瀕していた場合だけですよ。それ以外は当人が望まない限りは治しませんよ。」
転生前の癖か、当人が治療の拒否をすれば治療をやめる様にしているのだが、マグヌスやダリウスはそんな物を見てはいないので意外そうな顔をしていた。
「そうなのか?お前の事だから、意地でも助けようとしているのだと思ったが。」
「そう思うのは勝手だが、完全に助からない命より、まだ助かる命を優先するからな。」
「そうですね。我々の使命は命をより多く助ける事ですから・・・嘆かわしいですが、そう言う事も時には必要です。」
そう言ったマグヌスは悲痛な顔を隠さなかった。
「ダリウスさん、覚えて起きなさい。我々は戦場に行くこともあります。その際に命の取捨選択を迫られた際は、まだ助かる命を優先しなさい。たとえ自分の大切な者が死にかけていてもです。」
「・・・納得は出来ませんが、承知しました。」
「今はそれでいいです、それが若者の特権です。」
そうして着いたモーリアス家の内部に通された3人だが
「私のこれは名誉の負傷だ!父の言いなりにはならん!!」
予想通り患者の治療拒否を受けた。
「あのですね、我々にも事情が・・・」
「知らん!私は騎士として働きたいのだ!女の容姿など不要だ!」
「騎士は国の顔ですよ。その様な火傷傷では採用されるかどうかも・・・」
「くどい!例え何度落ちようとも、止めはせぬ!」
意志の固さに辟易としたルインはすでに壁の花になる事を決めた。
(ダリウスの言う通りなんだよな~。)
騎士とは国の顔と言える存在だ。
彼らは勇敢に戦い国を守る存在である為、必要に応じて顔をさらけ出さないといけない場がある。
それなのに入隊前に火傷で爛れた傷があるのは宜しくは無い。
それが理由で落ちる事もあるのに、彼女は何度でも、それも受かる迄試験を受ける様だ。
彼女の両親も娘の反応には辟易としていた。
(両親としては危ない事をさせたくないんだろうな。)
彼女が騎士に成りたい理由は判らないが、娘が死ぬ可能性のある職業に付けさせたくないという親心を理解してはいないのか、もしくは理解していても、自分の夢を曲げられないのだろう。
(・・・仕方ない、少し助け舟を出すか。)
壁の花を決め込んでいたルインがダリウスを押しのけて令嬢の前に立った。
「少しいいか?」
「何だアンタは・・・。」
「今回の治療を担当する者だ。まあ、あんたが強情なのは判った。だけどな両親の気持ち位は汲んでやりなよ。」
「汲むだと?汲んでどうなる?ただ両親の言いなりになる位なら私はこの顔で良い!」
その言葉はルインの逆鱗に触れた。
「・・・少し黙りな。」
「何をだま「黙れと俺は言ったんだ!!!」っ!」
そうしてルインは令嬢の胸ぐらを掴んだ。
「いいかよく聞け!お前はまだ幸運だ。両親がそれなりの治療費を払って治してくれるんだからな。だがなぁ、世の中金が無くて、その傷を治せない奴なんかごまんといるんだよ!それなのに名誉の負傷だぁ!?ふざけんじゃねえぞ!治したくても治せないのがどれだけ地獄か解って言ってんのか、ああん!!!」
その迫力に押された令嬢は言い返そうとしたが、何も言い返せなかった。
「何も言い返せないか?そうだよな!そう言う目に遭った事が無いんだからな!お前の服も食事も今は両親からの贈り物だ。それなのに傷も治さずに騎士に成りたい?我が儘も対外にしろ!!」
掴んでいた胸ぐらを投げるように放したルインは出口に向かって歩き始めた。
「こんなのに手を患う事は無い。他の患者がいますので帰ります。」
「お・・・お待ちください!」
帰る宣言に慌てたモーリアス当主はルインの前に来ると頭を下げた。
「お願いいたします!娘を・・・如何か・・・!!」
「・・・御当主、顔を上げてください。彼女に治す意思がない限りは依頼はお受けできないだけです。」
「それは理解しています。ですが・・・如何か・・・!」
一向に顔を上げようとしない当主にルインが焦れていると、令嬢がつぶやきが聞こえた。
「受けます。受ければいいんですよね!」
諦めたような感じだったが、ルインとしてその言葉を引き出したかった。
「・・・及第点だ。じゃあ、治療の話の前にちょっと話そうか。」
そうして椅子に座ったルインは少しだけため息をついた。
「騎士になりたいのなら健康な体が資本だ、その為には自分の限界値を知れ。今あんたがどういう状態か解ってるか?」
「顔が半分焼け爛れて・・・」
「顔の半分が第3度熱傷、全身打撲に一部筋線維断裂。相当無茶したな。これが1人での任務だったら、最悪は死んでたぞ。」
「えっ?」
「当たり前だろ。何処に魔物がいるか判らんのに、自分は戦えませんは通用しないぞ。だから出来るだけ俺等みたいな治療師に頼らない様に体を作りな。」
それは純粋に令嬢の胸に響いた言葉だった。
民を守る為の騎士が戦えない状態になるのは耐え難い屈辱を負う事である。
そうならない様に鍛えてるのに、自分は怪我を理由に親の制止を振り切り無茶をしようとしているのを自覚した。
「それとな、騎士以外の道も探るのも重要だ。不意の事故で騎士として終わる時もあるからな。・・・俺の知り合いがまさにそれだな。」
「・・・どの様な人なんですか?」
「当人としては良いお嫁さんになりたかっただけなのに、不慮の事故で戸籍を最近まで消失していてな。戸籍を戻した時には、新規事業の社長兼領主なんて事になった。」
「それは、ノーチア家の・・・」
「ああ。サザンカは古い友人でね、今でも偶に体を診ている。」
それを知った当主は驚きのままルインに詰め寄った。
「何故、彼女の生存を知らせなかったのですか?」
「当時は偽名を名乗っていて、公爵家の人なんて知らなかったんですよ。それにあの時のノーチア家に伝手なんて無いですしね。」
ルインがパインの本名を知ったのは新聞社を発足した時であった。
まさかの事態だったので、自分でも驚きのままパインに詰め寄ったのは、今でも覚えてる程だった。
「そうですか。・・・それなら仕方ない。」
「だから、そういう事態が突如起きるから、別の道も模索してみるのも手だぞ。まだ若いんだ、道を1本に絞るのは早すぎる。」
「解り・・・ました・・・。」
「まあ、今は治療に専念だな。じゃあ治療方法を話すとしますか。」
そうしてルインは皮膚移植の話を始めた。
この話は続きません。
火傷の治療した後に治療院預かりになりました。
尚、モーリアス家はこれ以降は出ない予定です。
時系列(パイン周りだけ)
子供の頃に事故に遭う(祖父・母死亡)(戸籍が1度抹消)→娼館の住み込み手伝い→オークションの入札者としての出入り開始→ルイン入札者として出入り→闘技場伝説→新聞社設立(ばらすとルインの入れ知恵)→ノーチア家当主就任→娼館長に就任→オークションのオーナー就任(娼館長になるのとほぼ同時期)→現在
と言う具合です。(一応の考え)(闘技場伝説辺りから変える可能性有り)(その際はご了承ください)