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ケイ=ストラグは仕事が終わり次第、すぐに治療院に来ていた。
出産まじかの嫁・・・マリン=ストラグの様子を見る為にだ。
ケイとマリンの出会いは家具職人の師匠に弟子入りした時だ。
正直に言えば、一目惚れだった。・・・マリンの方が。
幼かった頃のケイは、亡くなった祖母が大事に使っていた小物入れを見て、同じように使われる物を作ろうと思った。
年を重ねその思いのまま家具職人として大成しようとしたケイは弟子入りし、そこで仕事に没頭していて、その休み時間中にとにかくマリンが近づいてきて関係を持とうと話しかけてきたのだ。
何故、そこまで近づいてきたのか分からなかったケイ自身は、正直にマリンに聞いて一目惚れと言われて、困惑していた。
容姿はもっとカッコイイ人がいるだろうし、職に関しても、見習いの自分には失敗一つで職が無くなる危険性のある状態なのに、訳が分からなかった。
どうして自分なのかをマリンに聞いてみた所、最初に師匠と会った時の態度と心根だと言った。
『この人は自分の大切な物だったら、絶対に裏切らない。』そんな風な態度が、師匠との面会時に出ていたそうだった。
職人一家のマリンの家は、仕事の為に幼いマリンを悲しませた事があった。
幼学校の発表会の時、自分が主役だから観に来てほしかった。それなのに両親は仕事を優先して見に来なくて悲しんだ事があった。
一人娘の自分の事を口では『大切だ』と言っていたこの両親の行動は、幼かったマリンには酷いトラウマとなっていた。
だからかもしれないが、彼女は『大切』と言われるのをその時から嫌悪した。
年を重ね、両親の手伝いから同じ仕事に就いた彼女は、『大切』と言う言葉をさらに嫌悪するようになった。
『大切に使う』と言われた力作が、数日後に壊されたりして修理に持ってこられた時は、依頼人を殴り倒していた。
だから、新鮮だったのだろう。ケイの家具職人としての大成を『大切』と言ってのけた態度に、マリンは胸が高まった。そしてそれがそのまま恋心になった。
そんな風に休みの度に会話を重ねた2人は、いつの間にか互いを愛し合っていた。
娘の態度に気付いた師匠は、その事に対しては反対だったし、結婚を認めさせる為の条件は厳しかった。
だが、ケイは自分と彼女、両方の大切の為に頑張った。時には挫けそうになった事もあったがマリンが支えた。
そうして師匠が唸る一品を作り、師匠に一人前と認められ、独立し、そのままマリンと結婚した。
幸せの絶頂期と呼ばれる期間を味わうケイは、その感覚にこそばゆしさを感じていた。
(こんな幸せは長すぎると、絶望した時に危ないって、ルインさんが言ってたな。)
駆け出しの頃に知り合ったルインは、治療院でも判らない事を教えてくれた。
排卵日の事、妊娠時の時にかかりやすい病気や健康管理の重要性、安定期に入った時の運動の仕方等は治療院ではできない事だった。
何故、そんな事を知っているのかを聞いたら『遠い国の知識だ』と言って、知識の重要性も教えられた。
そんな風に思っているとマリンのいる部屋の前に来ていた。ただ、中からの話声がしていたので扉から邪魔にならない位置に立った。
しばらくの後、中から人が出てきた。その人はケイを見つけると苦虫をかみつぶした顔をしてケイの横を通り過ぎた。そして、入れ替わるように部屋に入った。
「今日も来たよ、マリン。横になっていいから。」
「いらっしゃい、ケイ。そうさせてもらうわ。」
身を起こしていたマリンに、横になるように諭しながらケイは近寄って近くの椅子に座った。
「さっきの人は?」
「昔、家具を買いに来た人でライルさんって言うの。会った時から妻にしたいって口うるさく言うんだけど、私とは合わないから、ずっと拒否してるの。」
「夫も居て、子供もできたのにかい?」
「そうね。妊娠の事をどこから聞いてきたのか知らないけど、未だに熱烈なあなたと別れて、子供ごと連れて結婚しても良いって言う、頭が可笑しな人よ。」
「それは強烈だね。」
そんな風に他愛無い話をしている時に、マリンのお腹をさすったケイの手をマリンの手が重ねた。
「あなたに似て育ってほしいわ。私は良い母親になれないかもしれないから。」
「そんな事無いよ。大切の意味をよく知る母なら、その思いに答えてくれる子になってくれるよ。」
「ありがとう。大好きよ、私の大切な人。」
「僕もだよ。何回でも言うよ、愛してる。」
そうして、互いに笑いあい、面会時間ギリギリまで二人は一緒にいた。
その裏で、人でなしが、ろくでもない計画を立てながら。
切りがいいのでここら辺で切ります。
幼学校等の教育機関について
大体、日本の教育機関と同じような感じです。
違うのは、義務教育は無く、お金が余計にかかる事(パインの支援があるメイリンでも入れなかったのはその為)
現状の登場人物で教育機関に入れたのはパインとメイリン以外です。(その代わりその2人は別の人から教わった)