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異界暗殺業  作者: 紅鈴
娼館長
125/180

6-13

ある日、パインはその日発行の新聞を広げていた。

事件欄を見ると興味深い記事が載っていた。


(マイナリー子爵家、全員逮捕ねぇ・・・。)


幾ら貴族位とは言え、重罪を侵せば容赦なく裁くのがこの国の法律である。

故に貴族も不正は表沙汰にしない様に巧妙に隠しているのだが、流石に侯爵家当主暗殺未遂は露見してしまえば詳細捜査は免れない様だった。


(まあ、この事は既定路線だったんだけど・・・。)


この貴族の性質を知っていたパインは何時かはこうなると思っていた。

ただ、それが今この時に重なるのは宜しくなかった。


(ドアズに気取られかねないのよねぇ・・・。)


幾ら情報収集が下手糞でも、自分が敵対している人間の情報を集めない訳が無い。

だから此処が調べられればちょっと厄介な事になりかねなかった。


(今の所動きは無いようだけど、警戒に越した事は無いわね。)


新聞を読み終わり、壊して買い替えた机の上に置かれた手紙を1枚ずつ読みながら、パインは現状の状況整理を始めた。


(一応、反撃準備は完了。何なら理由も報酬もある。)


ドアズの粛清は決定されたが、粛清の詳しい日にちがまだ決まっていない状況であった。

暢気に構えている訳では無いのだが、自棄になってその街の全入札者を殺す訳にもいけないので、その選定に時間がかかっているのだった。

ただ、時間がかかった御かげで粛清参加者全員に報酬が発生したのは行幸だった。


(あの人には感謝ね。)


ドアズの調査をしていたパインはその正体を知り、オーナーにその事を報告。

そしてオーナーの判断と、ある人との交渉の結果、報酬金が出たのであった。


(これがドアズにバレると危ないのよね。・・・何だろう?御婆の言っていたトランゼルド国に似てるわね。)


そんな事を考えながら手紙の処理をしていたら、件のドアズから手紙が来ていた。


(・・・何で?意味が解らないわぁ。)


生理的に嫌っていて敵視している相手に手紙を送る。

普通に考えたら宣戦布告の手紙にしか思えなかった。

そんな思いとは裏腹にパインは手紙を開いて確認した。

前半の嫌味を無視し、内容を要約すれば、こちらに入札者を送ると書かれてあった。


(しかもこれ、到着が今日じゃない!ふざけんなよあのクソ野郎!!)


一時にしろ永久にしろ入札者が滞在するなら宿泊先の確保や連絡方法の確立等の事務作業が在るのに、それすら出来ない様に送りつけられていた。

そうして他の手紙が読み終わった丁度その時、ノック音が4回響いた。


「どうぞ~。」

「失礼します。」


入って来たのは目つきは鋭いが、それ以上に腰の括れが気になる女性だった。


「ダイアナ、どうしたの?」

「娼館長に用事があるってお客さんがいるんですが・・・その・・・。」


ダイアナが言いよどんだおかげでどんな人物が来たのかが判ってしまった。


「その客なんだけど、此処に通して。」

「大丈夫なんですか?その・・・かなり・・・危険な雰囲気が・・・。」

「そんなに?」

「制御不能の矢の様な感じがしますね。」

「それでもよ。ほら、連れて来て。」


パインの指示に従ってダイアナは部屋を出たが、部屋を出る際に不満な顔を隠さずに出て行った。

そんなダイアナは規律や規則に厳しい為、店の風紀を敏感に感じ取るような嬢の1人である。

その彼女がその様に評価するのなら、かなりの危険人物をドアズが送ってきている事がパインは遺憾に思った。


(制御不能なのを送って来たのか、はたまたよくしつけられた猟犬か。・・・どっちにしろ余計な事を・・・いや、)


少し考えたら逆に都合がよくなった。

競売までこぎつけて無理矢理粛清対象にしてしまえば良いのだ。

幸いにも誰が厄介人物を送って来た証拠もある。


(となれば、厄介なのは自分の所の入札者ね。)


競売までの道筋を色々と考えを巡らそうとしたら、再びノック音がした。


「ダイアナ?」

「そうです。お連れしました。」

「お客さんと2人っきりになりたいから、貴方は準備に戻って。」

「・・・解りました。」


ダイアナが扉を開け、お客を中に招き入れるとそっと扉を閉じた。


「良く出来た嬢さんだねぇ。一切、警戒心を緩めなかった。」


入って来た客は老獪な剣客と言う印象をしていた。

右腰に直剣を履き、直ぐに抜けるようになのか柄頭に手を置いていて浅く腰を落とす姿勢は、こちらを警戒するようだった。


「うちの表での取り纏め役の1人よ。危険人物の嗅覚分けは上の方ね。」

「おやおや、あっしは危険な用ですね。」

「間違いでは無いでしょ。そんな戦闘態勢取ってる人物は。」

「おや?そうですかい。すいませんねぇ、どうも癖が抜けん。」


そう言いながら姿勢を正した客は、懐から紙を取り出した。


「一応聞いておきますが、ドアズさんからの手紙って・・・。」

「今日の今、届いたわぁ。」

「あのしとの悪ぃとこが出てますねぇ、申し訳ない。」


そう言いながら頭を下げ、それと同時に紙を机に置いた。


「無作法は承知の上でお願いいたしやす。あっしはモザンと申します。暫くの間お世話さんになりまさぁ。」


差し出された紙を確認し終わったパインはモザンに質問した。


「貴方への連絡方法は?」

「暫くは西の宿屋に、・・・その紙にその宿屋の名前がありやす。」

「・・・確かにあるわね。良いわ、競売の時は声をかけるから来なさいね。」

「へい、解りやした。」

「じゃあこれで面通しは終わりね。帰りは大丈夫?」

「同じ道をたどって帰りますんで大丈夫でさぁ。」

「そう、じゃあお疲れ様。一応気をつけて御帰りください。」

「あいよぅ、あんがとね。」


机から立って礼をしたパインを後目に、モザンは部屋を出て行った。

それからしばらく後に姿勢を正したパインは少しだけ頭を搔いた。


「しつけられた猟犬の方か・・・、誰かいる?」


その言葉と共に天井から人が降って来た。

それは御婆だった。


「此処に。」

「あの猟犬に気取られない様に誰と接触したか見張ってて。恐らくはドアズの手下連中と密会するでしょうから。」

「承知しました。対処は?」

「しなくて良し。このままドアズの計画通りに進めば競売が起きる。それに乗っかれば馬脚を出すから。」

「・・・お嬢様、申し訳ありませんが誰を犠牲に?」


そう問われたパインは机の上にあった資料からドアズの資料を引き抜いた。


「御婆のこの資料通りなら、あのクソ馬鹿連中はアンナさんを殺そうとする。そこに賭けるわ。」

「アンナ=フリューゲは見殺しに?」

「いいえ、逆よ。助けてしまいましょう。そうすればこっちの思い通りに事が運ぶはずよ。」

「・・・悪いお人。」

「あら御婆?この仕事に正義の使者なんていないでしょ?」

「そうですねぇ。あたしも悪い人だからね。」


くつくつと笑う御婆を後目にパインは今後を考え始めた。

切りが良いのでここで切ります。

御婆はそういう存在です。


ダイアナについて

必要無いかなと思いましたが一応書いておきます。

基本的には娼館の仕事しか知りません。

所謂風紀委員長気質の人で、そう言う層に人気がある。

娼館には借金のかたで入ったが、続ける内に天職と悟り現在に至った。

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