6-12
『嘘・・・嫌!おじいちゃん!お母さん!』
『お嬢様!?何故斯様な所に!?』
『そんなに金を稼いでどうするのだ?』
『復讐ついでか・・・じゃあ、こう言うのはどうだ?』
『お前・・・何で生きているんだ!!!』
『お願いだ!!許して・・・やめろおおおおぉあああぁあ!!!』
様々な声が聞こえたような気がしてサザンカは起き上がった。
起き上がりの状態は最悪に近く、寝起きが良い自分としては頭が全然回らなかった。
そして何時も使っている部屋の模様と違う事に気が付くと、自分の昨日の行動を振り返っていた。
(確か昨日は・・・ああ、思い出した。)
自分が昨日は遅かったからと、気まぐれに実家に帰って寝たのを思い出した。
(まあ、実家に帰れば余り良い思い出が無いから、寝起きは悪いわね。)
実家にはただ寝に来るだけだったのだが、それでも毎度悪夢の様に過去を夢見るのだけが嫌で、余り近寄らない様にしていた。
それでも寄ったのは、本当に気まぐれだった。
(昨日の依頼の御かげで色々と進みそうなのよねぇ。)
結局サザンカはシモンズからの依頼を受けた。
ただ、記事の掲載をする気は無かった。
(シモンズさんには申し訳ないけど、利用させてもらうわ。)
ある計画からゴアズの情報が必要で、その関係者に連絡を入れる為に色々と動いていたので帰るのが億劫になり、実家に帰ったのだった。
(仮にも公爵家のベットだから寝心地はこっちの方が良いんだけどね。)
何時も使っているベットよりも良い素材を使っているのに、何故か何時も夢見が悪くて倦怠感と共に起きるのだった。
そうして頭の覚醒が終わると、着替える為に起き上がった。
(さてと面倒だけど、やりますか。)
ベットから起き上がり鏡面台に座ると、まずは化粧道具を出した。
乳液を塗り軽くファンデーションを塗ると、ペンシルを使い黒子を書き足していく。
十分に黒子が出来たら、次は寝間着を脱いで下着を履く作業を開始した。
(これが一番辛いのよね~。)
あまりにも体に特徴があり過ぎて下着を着るのに一苦労していると、入り口からノックがあった。
「誰ですか?」
「御目覚めですね、お手伝いに参りました。」
「どうぞ~。」
そうして入って来たのは、かなり年を召した女性だった。
「おやおや、結構なタイミングでしたね。」
「御婆、申し訳ないけど手伝って。」
「はい、只今。」
御婆と呼ばれた女性に手伝ってもらい何とか下着を着けると服を見繕い始めた。
「服は適当で良いのでは?」
「そうも言ってられないのよね。何処で誰が見てるか判らないし、上手く着ないと。」
「大変ですね。」
そうして選び終えた服を着ている途中に、サザンカが話し始めた。
「御婆、情報収集終わった?」
「終わりましたよ。資料は何方に?」
「新聞社はやめて。あっちにお願い。」
「解りました。」
「で、申し訳ないけど、またこき使っちゃうかも。」
「おやおや、76の婆になんてご無体を。」
「御免ね、今度のは簡単だから。南区の商工業組合長がさぁ、入れ替わってるんだけど、本物が何所か探してきてくれないかな?」
「おや?それなら解ってますよ。土座衛門です。まあ、死体は隠されてますがね。」
それを聞いたサザンカは短く祈り、着替え終わりと共に御婆に向き直った。
「どう?完璧?」
「完璧ですよ、御綺麗です。」
「じゃあ、その土座衛門は何処?」
「あそこの一家纏めて東区の倉庫の中ですね。箱の中に水を入れて魔法で腐敗を加速させている為、遺体が膨らみ始めてます。」
「その資料もあっちに、恐らくあのクソ馬鹿が仕掛けて来た。」
「反撃は間に合いますか?」
「今やってる。もう直ぐで全部が片付くけど、その前に花火が上がりそう。」
「それはそれは。暫くは防衛ですね。」
「ええ、じゃあ朝食を食べよ~!」
髪を何時ものポニーテールに結び終え、部屋を出たサザンカ達はしばらくすると食堂に着いた。
「おはようございます、お嬢様。申し訳ありませんが・・・」
入っていきなり頭を下げた執事に、サザンカは片手を挙げて待ったを掛けた。
「別に気にしないよ、ウォルカ。連絡も無しに帰って来たのはこっちなんだし。」
「ですが、お嬢様不在を預かる家令長としては慙愧に耐えません。」
「硬いな~、そんなんだと早く禿げちゃうよ。」
「お嬢様の為に悩み、禿げるのなら本望!何もできなかったあの時より、お嬢様の為に身を粉にする覚悟はできております!」
ウォルカのその御思いの重さに辟易としているが、その実直さを買っているサザンカは苦笑いをしながら席に着いた。
そうして席に野菜スープとベーコンエッグとパンが運ばれてくると、まずは口を濡らす為にスープを飲んだ。
そして、野菜では絶対にあり得ない程の強い苦みを感じた。
「皆~、スープ飲むの中止!速攻シェフ捕まえて来て!」
その言葉と同時に消えたウォルカが数秒でシェフを後ろ手に縄を付けた状態で運んで来た。
運んできたシェフを乱雑に放り投げたウォルカは懐からナイフを取り出すと、シェフの首筋にナイフを当てた。
「おいテメェ、何お嬢様に毒飲ませてんだ、コラァ!」
「ウォルカ、止めて。あたしがやるから。」
そう言ってウォルカを止めたサザンカはシェフを片手で持ち上げた。
「ナイトメアスコーピオンの毒を入れるなんて流石ね。でも、無意味だったわね。貴族って昔から毒物に対しては耐性を付ける様にしてるんだけど、あたしの場合はそんな訓練の必要が無い位全く毒が効かないのよ。」
それを聞いたシェフは驚愕した。
ナイトメアスコーピオンの毒は1滴でもオーガを倒せるのに、それが効かない人間が存在するとは思わなかった。
「今、雇い主を正直に話したら許してあげる。だれ?」
「マイナリー・・・伯爵です。」
そのせいで心が折れたシェフはサザンカの質問に素直に答えた。
「元よ。あのクソ共、ついにやったわね。」
そうしてシェフを放そうとしたが、逆にサザンカの腕を掴んで来た。
「お願いです・・・妹が・・・」
「人質?」
「はい・・・。」
「御婆、この人の妹さんを助けに行って。人員はそれなりの少数で。」
「畏まりました。マイナリー子爵の方は?」
「あの家、あたしが情けで貴族位だけ残したのにこうやったからさ、残り全部の不正証拠を王に直訴してくるわ。」
「其方は私が。お嬢様は普段通りに行動してください。その方が怪しまれません。」
「じゃあお願いねウォルカ。救出したらこの家にかくまってね。」
言い終わりにベーコンエッグを食べたサザンカは、笑顔になった。
「あたしってさ、庶民的な味の方が好きなの。この味が食べれるなら苦労はしないとね。」
それを聞いたシェフは呆けた。そして素直に聞いてしまった。
「侯爵家の現当主なのに、何でそんな味が好きなんですか?」
「ちょっと特殊な事情があってね。妹さんが無事に救出できたなら教えてあげる。」
切りが良いのでここで切ります。
情報屋を怒らせてはいけない。
御婆って2人居るの?とノーチア公爵家と魔物紹介
御婆の秘密はもう少ししたら書きます。
ノーチア家はサザンカが当主になる前にある事件で貴族位を剥奪されかけましたが、それをサザンカが当主になる事で許されました。{新聞社(当時は新事業)設立と民間情報収集拠点構築の恩賞で許された。}
ノーチア前侯爵夫婦は現在は鬼籍です。(どう死んだって?現段階では教えません。)
ナイトメアスコーピオン・・・国外の危険種魔物の1つ。オーガを1滴で死亡させる程の強い毒性有り。