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「・・・話を要約しますと、ここ最近の不振事には裏の組織が介入しており、その総元締めが女性の可能性が在ると?」
「はい、そうです。」
サザンカはダストンの説明により、そう結論付けた。
「何故、その情報を貴方が持っているのですか?これでも我々はプロです。王都中の情報を網羅しているとは言いませんが、その情報は今まで入ってきておりませんが?」
「我々商人にも意地がありましてね、それは教えられません。もし、明日の掲載でしたらお渡しできますが?」
サザンカの問いに商人としてのプライドを利用した駆け引きをダストンは選択した。
「一応、発行日は決まっておりましてね。今日発行しましたので次は・・・明後日ですね。」
「号外と言うんですか?あれでやってはどうです?」
「話を聞いてみた所、そんなに重要では無いんですよね。号外はもっと大きな・・・それこそ国王崩御や戦争勃発の時位の方が良いんですよね。」
「それはそれは、ではこう言うのはどうでしょう?」
そう言ってダストンは懐から紙を取り出し、それをサザンカに放った。
「これは?」
「見ていただけたら解りますが、今回の事件への関与をほのめかす資料の一部です。それの最後の一文を見てください。」
その紙の文字は定規で引いたように真っすぐな線が多いが、最後の一文だけ妙に丸文字ばかりだった。
「・・・ダストンさん。申し訳ありませんが丸文字を書く男性もおります。これだけで女性が事件の総元締めと言うのはちょっと誇大広告かと・・・。」
「文字はちゃんと読んだ方が良いですよ。」
そう言われたサザンカは最後の文字を読み取ると天井を仰いだ。
「成る程、確かに認識不足でした。これが本当なら、貴方の情報網は相当ですね。」
「そうですよね!どうでしょう号外として「ですが。」して・・・はぁ?」
「申し訳ありませんが、こんなので号外を出す程ではありませんね。」
仰いでいた顔を戻したサザンカは決意を込めてそう言った。
「貴方も解るかと思いますが、情報は鮮度が命です。新鮮な情報が経済や戦争を左右する。そんなのは古代から言われてますね。」
「そうですね。」
「ですが、現在はさらに一文が足されるとあたしは思います。」
「その一文とは?」
「正確性です。」
「ほう?」
それを聞いたダストンは自身の居住まいを正した。
「昔なら馬や人の足でやっていた情報速度を、現在では高価ですが魔道具が席巻し始めています。事実、弊社は大陸全土に情報を広げ、収集する為に魔道具による通信網の確保をしています。」
「それは凄い!ぜひ商人として嚙みたいものです!」
計画主からの資料によればミストレルの創業はごく最近で、その下支えには膨大なコストを用いた情報網を敷いている様だった。
その内容がまさかの魔道具による通信網だったのはダストンとしても驚いた。
「申し訳ありませんがそれはご勘弁を。・・・話を戻します。そうやって行くと必然的に情報速度が上がるのですが、あやふやかつ不確かな情報が数多いのですよ。」
「成る程。確かにあやふやな情報はトラブルの元ですね。」
「ええ、御かげで何回か裁判や社屋襲撃を仕掛けられましたよ。」
その膨大な通信網を敷いても情報の確度は不確かな時が在り、それにより裁判や逆恨みからの社屋襲撃がかなりあるようだった。
「現在では弊社のどこの社屋でも1階は受付だけで、こうやって情報を受け取ったり、社員の仕事スペースは2階以上にしている始末ですよ。それのせいで建設コストも馬鹿上がりで正直、大陸全土に情報網を広げようとすると、後何十年必要か判らないんですよね。」
サザンカは肩をすくめて苦笑した。
「でしたら、他の商家から寄付金を募りましたらどうでしょう?このような事業なら商人全員が乗り気になるのでは?」
「先程も言いましたがご勘弁願っているんですよね。昔、1度だけ商家に願ったら、情報を全部無償で融通しろと言われましてね。それ以降は自分達だけでやるようにしたんですよ。」
「・・・嘆かわしい。その様な強欲は身を亡ぼすのに・・・。」
「まあ、その後直ぐにその商家は潰れましたがね。我々が言うのも何ですが、無駄な情報に踊らされて、無駄な商品を買い漁って在庫不利益で倒産しました。」
笑顔で頬を掻くを搔いたサザンカの目は笑っておらず、言外にその情報を漏らしたのは自分達だと言っている様だった。
「おお、怖ろしい。」
何とかお道化たダストンだったが、自分が偽物だろうが本物だろうが正直もう関わりたくなかった。
情報1本で他人の人生を左右できる力を持った組織など怖ろしいからだ。
(まあ、俺もそう言う組織に属しているから思えるんでしょうね。)
「ですので、こんな情報だけでは正確性には欠けますね。ですのでちゃんと調査をして、掲載できる程の情報が集まりましたら通常通りに掲載いたします。それでよろしいでしょうか?」
「仕方ありませんね、それで構いません。」
「情報提供の報酬も掲載いたしましたらお支払いいたしますので、その時をお待ちください。」
「解りました。では、失礼いたします。」
ダストンが立ち上がり、部屋の出口に向けて歩き出すとサザンカが立ち上がり、礼をしてダストンを見送った。
暫くサザンカは礼の姿勢を続けていると、変わってもらった社員が入って来た。
「社長、どうでしたか?」
主語を抜いた言葉だが、仕事の必要性が在るのかを聞いてきただけだとサザンカは思った。
「掲載する必要も情報収集も必要無いですね。とんでもないガセネタです。」
「そんなにですか?」
「ええ。」
資料と呼ばれた紙を丸めてゴミ箱に投げたサザンカは告げた。
「こんなガセ情報が入るから、正確性は必要なんです。・・・さあ、仕事に取り掛かりましょう。実はとっておきのネタが在るんですよ!」
「どんなネタです!?」
「何と出来立てホヤホヤの事件で、表題は『恐怖!魔法薬によって暴走した馬車を止める女』なんてどうです?」
「何ですかそれ!?ワクワクします!」
「でしょでしょ!じゃあ行きましょう!」
2人が応接室を出た後、先程投げた資料が転がり落ちた。
丁度丸文字の部分が見えており、その部分には『パイン=ネイリス』と書かれていた。
切りが良いのでここで切ります。
丸文字を書く男性が作者の知人にいます。(なお作者はもはや象形文字の様な癖字マンです。)
教わる人によってそうなるので仕方ないですよね。(別々の習字塾に行っていた関係でそうなるんだなと子供の時に思いました。)
通信網について
各領の領主が緊急用の無線通信の魔道具を持っています。(王城直通の為他の領地への通信が出来ない)
(他国も同じ)
ミストレルは各支社での通信が出来る様に改良した通信魔道具で連絡を取り合い、記事にしている。
また、各社員にも1個貸与されている(こちらは受け持ち直下の支社にしか通信できない)(社員同士の相互通信可)
社長曰く「かなりのコストが掛かるけど、やってよかったと思ってる」