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異界暗殺業  作者: 紅鈴
娼館長
121/121

6-9

その男はロイエンタールに存在するある建物の前に立っていた。


(まあ、大丈夫でしょう。此処の性質上、変な事さえなければ追い出されませんし。)


その建物・・・『ミストレル』とだけ書かれた建物に男は入っていった。

建物の中はかなり広く、受付と思われる物しかなかった。


(こんな広い空間に受付だけですか。普段からよほど警戒しているのでしょうかね?)


だが、受付の人間を見て男はしかめっ面を()()()()()


(女ですか。全く、反吐が出ます。女なんて家で大人しく家事だけやっていればいいんですよ!)


一種の生理的嫌悪の為だが、()()()()でそんな事は出来ないので男としては仕方なく普通に対応した。


「失礼、私は・・・」

「あ、大丈夫です。その顔には覚えがあります、ダストン=ゲーテ南区商工業組合長様。本日はどの様なご用件でしょうか?」

「・・・情報を持ってまいりました。此処では情報は入用ですよね、王都唯一にして大陸全土に広がり続ける新聞社としては。」

「はい、そうです。では今から一時入館パスを作りますので、少々お待ちください。」


そうして受付に居た女性が入館パスをすぐに作り、ダストンに手渡すと席を立った。


「ご案内いたしますが何方まで行けば宜しいでしょうか?」

「何方とは?」

「・・・当新聞社では日常生活を便利にする裏技から事件性の案件を扱う部署まで様々に御座います。その情報次第で、何処に案内するかが決まっております。ですので、どの様な情報をお持ちいたしましたか?」

「そうですね。・・・一応は事件の関係でしょうか?」

「では、事件課に向かいますね。ついて来ていただけますか?」

「案内、お願いいたします。」


そうして案内された事件課と呼ばれる部署はさながら戦場の様だった。


「この事件どうなってるんだ!?資料何処だ!」

「おい、さっき起きた事件の速報が入ったぞ!」

「5年前のダウンジ邸の犯人の似顔絵まだ!1時間も待ってんだけど!」


怒号に次ぐ怒号。

その熱量は、一刻も早く記事を完成させたいと言う思いから来るものだと、ダストンは嘆息した。


「凄まじいですね。私も商人の端くれですが、このような熱量に充てられると高ぶってしまいますね。」

「端くれとはご謙遜を。一代で南区では名を知らない者がいない商店にした方が何を仰いますか。」

「いえいえ、ただ運が良かっただけですよ。」


そうして案内された一室に着くと、案内をした女性は『担当の者を呼んできますので、しばらくお待ちください。中の飲み物はご自由にお飲みください。』と言い部屋から出て行った。

それを確認したダストンは近くの椅子に座り、思いっきり息を吐いた。


(女に案内されたのは屈辱的だが、まあいい。突然の訪問だったから対応がおざなりなのも仕方ない。だが、この建物内の熱気は何だ!?こんなので計画通りイケるのか!?)


ある人物からある計画を持ち掛けられた男は、短い期間で何とかダストンになりきり、この場所である人物のでっち上げの証言をしなければ成らなかった。

だが、先程見た事件課の喧騒は凄く、幾ら正確な情報を持ってきたとしてもこんなので取り合ってくれるのだろうか不安になって来た。

そうして不安のまま待つ事数分、部屋の扉がノックされた。


「ダストン様、いらっしゃいますか?」


声は先程の案内の女性だった。


「居ますよ。」

「担当の者を連れてまいりました。その方に情報のお渡しをお願い・・・え?ちょっと何を!?」


案内の女性が急に慌てた声を出した後に扉が勢い良く開いた。


「いや~すみませんねぇ。その情報あたしに渡してもらえませんか?」


扉を開け入って来たのはすらりとしたスーツを着て、薄く化粧をし、泣き黒子が左右に3つも付いた眼鏡をかけた特徴的な女性だった。

突然の乱入者の登場に驚いたダストンだが、受付嬢が何も言わない事から新聞社の従業員だと位置づけた。

だが、計画主から貰った資料にこの従業員の事は掛かれていなかったので素直に尋ねた。


「失礼ですが、どちら様で?」

「おやおや?あたしをお忘れで?このミストレルの社長をしております、サザンカ=エル・ノーチアの名前を!!」


その名前を聞いた瞬間、ダストンは自分の失敗を自覚した。

幾らなんでも会った事のある有名な会社の社長の名前と顔を忘れる者はいない。

つまり、この場で自分が偽物だと悟られる結果となった。


「まあ、会ったのは遠目にちらっとなんで、仕方ないですよね。会話もしませんでしたし。」


だが、それも杞憂だったようだ。


「いえ、遠目でも会ったのなら覚えるべきでしたね。申し訳ありません。」

「いえいえ、これを機に覚えてください。まあ、あたし現場主義者なんで、社長なのに全く出社して無いんですけどね。」


あははと笑い始めたサザンカの後ろに案内してくれた受付嬢と恐らく本来の担当者が立っており、社長に対して拳を振り上げていた。


「「何やってんですか、社長!!」」


その言葉と共に振り下ろされた拳は正確にサザンカの後頭部にヒットした。


「痛いな~。」

「これ位は必要ですよね!?ねえ!?」

「まあ、そうだね。色々と申し訳無い。でもさっきも言ったけど、ダストンさんの情報はあたしが聞いておくわ。その方が報告が早いでしょ?」

「確かにそうですが・・・。」

「納得がいかない?じゃあ、この話が本当だった場合は君の手柄にしてあげる。それで如何かな?」

「それなら・・・良いですよ。」

「じゃあ、決まり!ほら、仕事に戻って。」


そうして担当者と案内嬢が部屋から出て行くと、サザンカはダストンに向き直った。


「では、情報をお出しください。その話が本当かちゃんと調べて掲載しますのでご安心ください。」


サザンカの目に獲物を見定める怪しい光が灯った。

切りが良いのでここで切ります。

いきなりの場面転換の様に見えますよね。

仕様です。


ミストレル

王都ロイエンタール唯一の新聞社。

情報の買取から自社調査まで幅広くやっており、その情報を基に新聞を作っている。

基本は週3回の発行だが稀に号外が発行される。

情報の精度が何故か異常に高い為、最近では井戸端会議の情報より信用されているが、そのせいで余計なトラブルも抱えている(入って直ぐの所が受付だけなのもトラブル回避の為)

また、ミストレル開業後に何故か情報屋が数多く消されており、裏組織では最初は気味悪がられた。(現在では新聞を定期購読している組織多数)

現在の規模はロイズ国を中心にかなりの広がりを見せている。

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