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異界暗殺業  作者: 紅鈴
娼館長
116/180

6-4

「しかしトランゼルドかぁ。今更、30年前の亡霊が出てくるなんて、ろくでも無い事が起きる兆候かねぇ。」


靴屋から出てきて目的の家具屋に向かう途中、御婆が神妙な顔つきになった。


「そう言えば、どんな国だったの?」

「・・・余り言いたくないがね。まあ説明してしんぜよう。」


御婆の説明によればトランゼルドは大陸の中央の方に位置し、周辺は自国に従う小国で固め、そこから各国に挑発行為を繰り返していたそうだ。


「さっきの金貨でこの国に挑発行為を吹っ掛けて来たし、他の大国にも吹っ掛けたのさ。あの時は酷かった。当時の国王は今の国王より好戦的でねぇ、最初の挑発でブチ切れて速攻で戦争をおっぱじめそうだったんだから。」

「あの王族は本当に・・・。」

「まあ、必死こいて止めた当時の宰相は、それが原因で頭髪が全部抜け落ちて禿げたんだがね。」


からからと笑いだした御婆は少し物思いに更けていた。

一役人だったが偽造金貨関連だったので呼び出され、王と宰相の殴り合いを見て噴き出すのを必死にこらえたのは良い思い出だった。


「っと、話が飛びそうだったね。それ以外にも挑発行為があってね、大体は技術の後出しをして『先にうちが作った』と言い張って使用料を取ろうとしたり、大陸交流の席で他国の王を侮辱一歩手前まで罵ったりして遊んでたのさ。」

「よく縁を切られなかったわね。」

「そこが上手い所さ。当時の各国に輸送する為の交易路に自国の一部が入っていてね、通るためには通行書が必要なのに、決裂した国には一切許可を出さなかったのさ。」


トランゼルドは他国間へ交易路が大陸中央付近だった為無数にあり、交流が決裂した国には一切許可は出さなかった。

そのせいで災害支援物資や国益品等の輸送も一切止める事が出来る為、渋々挑発を聞き入れるだけの国が多かったのだった。


「よくもまあ、方々に恨みを買ったようで。」

「だから周辺大国が連合組んでの電撃奇襲包囲戦をやったのさ。」


トランゼルド王国の終焉は周辺大国連合による包囲戦を行い、そこから一気に奇襲して大国を潰したようだった。


「今のあの国の跡地は、その時の周辺小国が分割統治しているよ。」

「え?小国も連合作って逆侵攻掛けたの?」

「まさか。さっき挑発行為の繰り返しって言っただろ。その時の周辺大国連合軍を素通りさせたのさ。」


トランゼルドもまさか自国に従っていた筈の周辺小国が、連合軍を素通しするとは思わなかったのであった。


「あの国の悪い部分は色々あるが、一番の悪い所は情報収集が下手糞だったのと、悪知恵を英知に使えなかった事さ。」

「・・・まさか。」

「そのまさか。周辺国もいじめ過ぎてご立腹だったのさ。だから包囲戦をやられた瞬間に即降伏、その後に埋伏計をやってトランゼルドの情報の抜出をやって、奇襲を仕掛ける原因を作ったのさ。」


何とも世知辛い話を聞いたパインは天を仰いだ。


「あの国の嫌な所は他にもあってねぇ。男は外に出て仕事で切るのに、女は一切できない所さ。」

「何か、知ってる人に似た国ね。」

「ドアズのクソガキかい?まあ、そんなのがあの国の至る所に居たんだよ。」

「うへぇ。」


嫌悪感も隠そうとしないパインはその思いも声となって出ていた。


「国王もそんなんだったから、王妃の苦言に全く耳を貸さなかったのさ。耳を貸していれば、あんな悲惨な目に遭わずに済んだかもね。」

「ちなみにどうなったの?」

「国王は連合国全土にスレイプニルに引きずり廻されて、最終的には餓死刑。王妃は各国の王が求婚、その時の1番の功績を残した国に側室として入ったねぇ。()()()()。」

「実情は違うの?」

「国王はそのままさねぇ。ただ、王妃はそのまま教国の巡礼者となって世界中を旅したんだよ。贖罪の為にね。」


話によれば『あの愚王を止められなかった罪は私にあります』と言い、周りの言葉も聞かずに教会に入信、即巡礼の旅に出て世界中を回っているらしい。


「今も生きてりゃこの婆と同じ位の御仁だよ。とっくに隠居かくたばったと思うよぅ。」

「教会の秘密保持はホント厄介ね。」

「だから、情報収集の組織に()()()()を入れたんだろ?あんたは偉いよ。」

「その発案の元はルインの御かげだけどね。」

「違いない。」


そうして歩いているとパインはふいに疑問が沸き上がった。


「そう言えば、王子とか王女は?居たんでしょ?」

「どうだったかねぇ?何しろあの時は王と王妃は話題に上がったが、王子や王女は全く上がらなかったねぇ。」

「不自然じゃない?」

「調べるかい?」

「当たり前でしょ。何が依頼に繋がるか判らないんだもの。」

「ハハッ、良い顔だねぇ。・・・おっと、そうだ。あんたに会いに来た理由を言い忘れてた。」

「そう言えばそうね。何だったの?」

「『会合』が在るけど何時で何処かは聞いたかい?」


その言葉は幾ら御婆からの言葉でも寝耳に水だった。


「いいえ、聞いて無いわ。」

「成る程、婆に接触があったのはそれで・・・。」

「・・・そう言えば、今回の司会ってドアズだったっけ?」

()()()()()?」

「当たり前でしょ。幾ら生理的に嫌いだからって、こう言う事を平気でする奴は痛い目見せないと。」

「その意気だよぅ。ああ言う舐めたクソガキは貶め(おとしめ)ちまえ。」


またからからと笑いだした御婆と悪だくみ顔になったパインは家具屋に向かって歩を進み続けた。

切りが良いのでここで切ります。

嫌ですよね、挑発行為は。


トランゼルド国

作中年表上30年前に亡国となった大国

歴史に名を遺す程の愚策と愚物の集積地みたいな国だったが、それが祟り周辺国家から袋叩きにあった。

大国の跡地はその時の周辺小国が併合し、現在では国力回復に努める土地となっている。

王は死に、王妃は巡礼に出たが、何故か王子王女の情報が各国で失伝してしまっている。

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