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異界暗殺業  作者: 紅鈴
娼館長
115/129

6-3

家具屋に爆速で向かっていたパインは途中で失敗に気付いた。


(メリッサの懇意にしてる家具屋って何処?)


場所も聞かずに飛び出した弊害が今、パインを襲っていた。


(今更『判りません』で戻っても、ジタンさんに説教されるだけだしね~。)


そんな考えが頭に廻った時だった。


「すまんね。ちょっと宜しいかい?」


爆速で走っている自分の横に誰かが並走して来た。

ただ、パイン取っては馴染みのある声だった。


「御婆?どうしたの?」


隣に居たのは自身の密偵衆の中でも最高齢の女性で通称『御婆』と呼ばれる妙齢の女性だった。


「ちょいと止まってくんな。この年であんたの速度に対応するのはキツくてね。」

「ああ、ごめんなさい。」


急ぎ止まる為に制動を掛けたが、勢いが付きすぎて数メートルは滑った。

そして足元から『ボキッ』と言う音が聞こえると共に止まった。いや、


「ヘブッ!」


そのまま盛大に転がった。

その後ろから悠々と追いついた御婆が息を整えながら近づいてきた。


「ヒィ・・・ヒィ・・・、メリッサ嬢ちゃんの懇意の家具屋なら知ってるよ。案内するから付いておいで。」

「御婆、その前に靴買っても良い?ハイヒールが折れた。」

「自業自得だけど仕方ないね。そら、似合いのべべが台無しだから、しっかり立ちなさい。」

「は~い。」


折れたハイヒールを脱ぎ、素足で地面に立ったパインは御婆の方に向いた。


「しかし御婆、何でここに?今日の担当は東の筈でしょ?」

「丁度あんたが娼館から慌てて出ってった時に居合わせてね。声かけようとしたらとんでもない速度で消えるもんだから、何かあったのか娼館の人に聞いて慌ててここまで来たのさ。御かげで老骨が軋むったらありゃしない。」

「それは御免なさい。」

「良いよ良いよ。あんたにとっては一大事なんだから、あの慌てようじゃあ仕方ない。」


そう言いながら2人並んで歩いているが、その実情を知る御婆は申し訳ない顔を隠さなかった。


「すまんね。こんなおばあちゃんの歩行速度だと、あんたにとっては拷問だろ?」

「そんな事は無いわ。これも訓練の一環として捉えればいいもん。」

「ガキの頃から見てるが、他人から見たあんたの努力が一番堪えるだろうね。」

「そうかしら?子供の頃からコレだから全然実感がわかないの。」

「・・・メリッサ嬢ちゃんに感謝だね。あんたのそれはある意味、神様からのギフトだが、あんたにしてみれば呪いだろう。」

「それも気にして無いわ。」

「そうだね。・・・いやあ、御免ね。年を取ると説教臭くて。」

「そうね。あと何回、御婆と話せるかな?」

「よしとくれよ。あたしゃ先代と同じくらい生きてやるって決めたんだよ。」


からからと笑い始めた御婆を先頭にパインがついて行く。

そうして程なくして靴屋に到着した2人は一緒に靴を捜し始めた。

パインの目に留まったのは壊れたハイヒールとほぼ同じ形状の物だった。


「またハイヒールかい?今の状態じゃあ危ないから、同じヒールでもこっちのローヒールにしたら?」


事情を知っている御婆はローヒールでパインに似合いそうなのを勧めた。


「そうしたいけど、メリッサの事だから結構すぐに完成させそうなのよね。数日の為に死蔵するような靴履いてもねぇ。」

「それもそうだね。・・・おや?これよく見たら非売品じゃないか。」

「え?・・・本当だ。」


その靴の値札には非売品と書かれた紙が懸かっていた。


「お~うい、店員さん。何で非売品なんか店頭に並べてんだい。」

「え?・・・ああ、それですか。ついさっき購入者が現れたんですけど『暫くこの店に置いといてくれ』って頼まれたんですよ。それで一応、値札に非売品として置いて置こうって、店長と相談してやりました。」

「それ、料金はちゃんと支払われた?これには銅貨70枚って書かれてるけど。」

「支払われましたよ。ちゃんと金貨で。」


それを聞いた御婆はきな臭さを感じて懐に手を入れた。


「・・・店員さん、悪い事は言わない。その金貨、この婆に検めさせてくんな。」


そうして御婆は懐から書類を1枚引き出した。


「え・・・貨幣鑑定士!?わ、わかりました!!!」

「出た、御婆の伝家の宝刀。」

「怪しすぎんだよ。銅貨の奴を金貨なんてね。」


そうして店員が戻ってきて件の金貨を御婆に渡した。


「ふむ・・・凄いねぇ、此処まで精巧に偽物をやる馬鹿が、まだこの世に居たのかい。」

「違い判るの?あたしには同じに見えるけど。」

「判らいでか。微妙にだが重さが違う。それによく見たらこの国の金貨じゃない。これは確か、亡国になったトランゼルド王国の意匠だね。ロイズ王国とよく似た意匠なもんで、それで戦争寸前まで交渉したのをよく覚えてるよ。」

「御婆ちゃん、何歳なの?トランゼルドって30年前に滅ぼされたんじゃ・・・。」

「聞いて驚け、76歳じゃよ。ほれ、転写用の紙持ってきな。鑑定証の写しを持ってこの金貨を警邏隊の詰め所にもってけば、損失補填できるから。」

「有難う御座います!」


そう言った店員は店奥に向かった。


「優しいね、御婆。」

「老婆心だよ。あんな若い子が苦労するのはね。」

「御婆から見れば皆、若いじゃない。」

「違いないね。」


そうして靴屋での小さな善行は、ハイヒールの購入に繋がったのだった。

切りが良いのでここで切ります。

2話分を1話につなげた感がありますが既定路線です。


貨幣鑑定士って何?

所謂、お金に関しての警察。

国家資格の上永久資格の為、死ぬまで資格持ち。(その代わり試験がクソ厳しい)(毎年の合格率は100人中1人位)

貨幣に関しての捜査権限はあるがそれ以外は無い。

王城務めが殆どだが、早期退職して市民に紛れ込んで調査している者が多数いる。(御婆もその1人で表の仕事の1つ)

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