6-2
壊した机の撤去が終わったパインは急ぎフィグマ魔法薬店に向かった。
腕に付けていたクロスリングの修理、又は新造を依頼する為に現在の全力で屋根を跳ねていた。
(冗談じゃ無いわ!コレの御かげでどれだけ助かっているか!)
まだるっこしく地面を走っていたのでは被害が大きいので屋根を跳ねまわって魔法薬店来たパインは大慌てで扉を開いた。
「メリッサ!居る!」
「・・・居るけど貴女、ドアの修理代出しなさい。」
「え?・・・あっ。」
引き戸を全力で引いた時にドアの接合部ごと破壊していた。
パインはそそくさとドアを脇に避けるとゆっくりと中に入った。
「ドア破壊で何しに来たか分かったからさっさと出して。」
「御免なさい、どうぞ。」
そう言ってクロスリングを渡すと直ぐに弄りだした。
「接合部がやられたんじゃないね。・・・中の術式が負荷に耐えられなくなったのね。」
「じゃあ・・・」
「新造ね。でもミスリルでこれだから、それ以上の物にしないとすぐ壊れるわね。」
ミスリルは魔力の高負荷に耐えれる魔術触媒となるが、その分値段も高く、それ以上となると法外な値段を要求される可能性が在った。
「何とかできない?」
「無理、諦めて別の魔道金属にしなさい。」
「そんな~。」
へにょりと座り込んだパインだがメリッサは気にしていなかった。
(この人はこういう少し可愛いムーブをするから、みんな騙されるんでしょうね。)
立ち姿は妖艶さが在るのに何故か実年齢より若いムーブをする事が多いのがパインの特徴の1つだが、慣れると計算でやっている事が分かってしまうのだった。
「座り込んでも何も出ないよ。」
「・・・いけず。」
「それよりどんなのにする?いっその事、火緋色の金にしてみたら?」
「何、それ?」
その名前の金属に心当たりの無かったパインは素直に聞き返した。
「オリハルコンの製造実験は前話したわね。」
「確か山の銅って言われるような物だから、金銀銅色んな金属全部、魔法で合成して作ったんだっけ?結局できなかったそうだけど。」
「そうね。理論は間違って無かったんだけど、何故かできなかった。だから躍起になって錬金術師が片っ端から実験し続けてるんだけどね。」
その実験は錬金術師ギルドが出来てから直ぐにやった実験で、現物が在るからとやってみたら、結局できなかったと言うギルド初めての失敗だった。
原因は何か?材料が足りなかったのか?そんな議論が日々交わされていて、在野の錬金術師も唯一、完成しそうな理論の為、躍起になって実験をしているのが現状である。
「その時に出来たのが火緋色の金。オリハルコンより柔らかいけど、オリハルコンと同じ位魔力が通しやすくって軽いの。」
「ふ~ん。」
「まあ柔らかさのせいであまり見ない金属になっちゃったんだけどね。最終的には通しや重量が嵩んでも頑丈さでアダマンタイトに分が上がる位だから。」
「同じ合金でも違いがあるのね。」
「あたいとしてもミスリル以上ならアダマンタイトよりはこっちと思ってね。術式負荷もこっちなら余裕だろうし。」
「それって安くできる?」
「舐めんな、現実見ろ。・・・まあ、アダマンタイトよりは安くできるんじゃない?アダマンタイトが高いのは国が税金を掛けるからだし。」
アダマンタイトは流通している魔道合金の中で唯一、各国が税金をかけていた。
古くは各国が戦争状態の時に武器製造の阻止の為にかけられたものだったが、現在では危険組織に安易に渡さない為の物となっていた。
「ならそれで作るわ。・・・あ、そうだ。」
「何?嫌な予感がするんだけど。」
「ちょっとこれの材料を大量に作れない?」
そう言って鉄扇をカウンターに置いた。
「・・・何で?」
「実は昨日、昔の武器を振り回したら壊れまして・・・。」
「・・・製造方法がほぼ一緒だから作っとくわ。そっちは最終的に『鍛冶屋』に?」
「お願い!『鍛冶屋』さんならあたしの武器の事知ってるから。」
「了解。『鍛冶屋』は嫌がるでしょうね。」
「え?あの人、武器なら何でもやるって人だけど?」
「加工が難し過ぎるの。何日工房にこもる羽目になるか・・・。」
「あ~、あの人はそれが嫌だからね。」
その時、入り口から警邏隊が入って来た。
「大丈夫ですか!!!・・・って、スノームーンの店長さん?」
「あら、ジタンさん?如何されました?」
「店舗の入り口が破壊されてたら、警邏隊なら駆け込むでしょうが!!!」
そうしてパインは自分がやった事を思い出して慌て始めた。
「え~っと・・・、じゃあ、よろしくね。あたしは家具屋さんに行くから!すぐ戻って来る!」
そう言ったパインは机の上の物を片付けると、一足飛びにジタンの脇を抜けて走り出した。
「いや、説明・・・速いな!?」
脇を抜けたのを確認したジタンが振り返った時にはすでに視認距離ギリギリまで走っていた。
「あ~、ジタンさん。あの扉はパインが破壊したの。元々ガタが来てたから、取り換える予定だったんだけどね。」
「扉を破壊?どうやって?」
「引き戸を引いたら接合部がバキッと折れた。ただそれだけ。事件性無し。」
「はあ?成る程?・・・ん?」
その時ジタンが机の上に置いて在ったクロスリングが目に入った。
「あの人、これ忘・・・え?」
リングを手に取って確認したジタンの顔が引きつった
「あの噂、全部本物だったのか。」
「え?・・・そっか、警邏隊なら見知った魔道具か、ソレ。」
「流石にこんな高級な物じゃ無いがね。」
「隠密性もすごいでしょ。だから隊長さん。この事は内密に、ね。」
悪戯に成功したようなメリッサの目を見たジタンはため息を吐いた。
「扉のがたつきは嘘ですね。ただ、こんなの調書には載せられませんので、さっきの説明で器物破損にしておきます。」
「有難う御座います。」
「・・・スノームーンで馬鹿やるのはやめよ。流石に死にたくない。」
「賢明な判断ね。まあ、娼館で馬鹿やる客がいたら駄目だろうけどね。」
「違いない。」
そうしてパインが帰ってくる迄、2人は談笑していた。
切りが良いのでここで切ります。
パインの秘密はさわりとしては結構書いてます。
依頼と材料が届いた時の『鍛冶屋』 グレープフルーツ味
「うんほぉぉぉぉ!コレでアレ作るの嫌なの!でも武器だから作るの!この両極な思いはどうするの!助けて誰か!!!!!」
(実際はこんな事言ってません)(実際の人物像には隔たりがあります)