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異界暗殺業  作者: 紅鈴
聖女
110/180

5-27

暗殺から数週間後のある日、マグノリア達は孤児院の入り口に立っていた。


「新しい院長誰だろうね~。」

「誰だっていいさ、偽物じゃ無ければな。」

「もうあんなのは懲り懲りですよ。」


マグノリアの横にはフリージアと数日前に退院となったアンナがいた。

アンナの見た目事件前と変わらず、火傷や爆傷の痕が全く見えなかった。

ただ、立てない程では無いが何故か左右にふらついていた。


「にょわ~。」

「アンナ、大丈夫かい?」

「大丈夫~。原因は判ってるから~、頑張って制御してる~。」

「ルインさんも言ってましたからね。『これに関しては想定外だ。』って。」

「皮膚張り替えによる魔力量増大、どれだけ上がったかは判らんが、発表したらとんでもない理論だろうな。」


アンナは皮膚移植の副作用として、魔力増大に伴う感覚器官の一時不調に悩まされていたのであった。

マウス実験等を繰り返しやっていたルインも、流石に8割方の皮膚の入れ替えを想定していなかったのでこんな事が起きるとは予想していなかった。

その為、再検査後に下した診断は、暫くは体を動かす事に意識を向ける事と、魔法を使って魔力がどれだけあるかを再確認する事だった。


「しかし直ぐ判らんかったのか?こんだけ魔力量が上がってれば気付くだろ?」

「起きてから数日間はいなかったの~。帰って来た時に症状を見てくれたんだよね~。」

「何でいなかったんだ?」

「何でも~、患者の依頼で遠方に行ってたんだって~。」

(正確にはパインさんに連行されていったんですけどね。)


唯一内情を知っていたマグノリアだがルインがいなかった訳を説明する気は無かった。

説明してしまえば裏仕事の事がバレてしまう為、話せる訳が無かったのだった。

そんな事を思いながら暫く待っていると、4頭立ての馬車が孤児院の前に止まった。

止まった馬車の扉が開き、中から出て来たのは仮の院長であるマグヌスと秘書代わりにダリウス、そして何故かルインが降りて来た。


「え!?ルインさんが新しい院長なのか!?」

「そんな事は無い!」


フリージアの質問をダリウスが間髪入れずに否定した。


「自分の仕事場の放棄はしないよ。朝に拉致られたのさ。」

「その文句は指示を出したマグヌス様に言え。それよりアンナ=フリューゲは何処だ?」

「私です~。」

「へぇ~、彼女が・・・。」


そうして近づいたマグヌスは軽く手を差し出すと目を閉じ、何かをし始めた。


「・・・数年前の記録を参考にしますが魔力量が約3倍に増えていますね。ルインさん、原因の主治医として弁明を。」


おこなったのはどうやら魔力の測定の様だった。


「第3度熱傷及び爆傷による皮膚の壊死、それを回復させる為の皮膚移植手術のせいです。移植する皮膚には魔物の薄皮を培養した物を使いました。」

「お前はまた・・・。」

「ダリウスさんは放っておいて続きを。」

「使用したのはスライムの亜種であるピュアスライムを使いました。スライムの薄皮を剥ぎ、使用する患者の壊死していない皮膚を一緒に混ぜると再生能力により、その人しか使用できない皮膚が出来ます。マウス実験によるものですが安全性は確保されています。」

「ルイン、そんなのあやふやな技術を人にやるなよ。」

「仕方ないだろ。戒律のせいで人体実験なんかできなかったんだから。それとも自分の腕でやれってか?」

「・・・すまん、続けろ。」

「今回は約8割の皮膚の入れ替えでしたので、恐らくはそれが原因です。大雑把に言えば皮膚の表面が魔物の皮になったので、その分魔力が上がった物と推察できます。」

「成る程。」

「現在は副作用としまして魔力増大による感覚器官の不調に悩まされていますが、訓練すれば収まるかと思います。」

「解りました。戒律を是とする教会員ならいけませんが、治療者としては満点です。治療院代表として今回の件は不問といたします。」

「有難う御座います。」


解説を聞き、納得したマグヌスはアンナに微笑みながら話し始めた。


「さて、アンナさん。教会員としては貴方を破門にしたいのですが事が事です。今回は不問とします。他の方もこの事で陰口を言わない様に。身綺麗のコツは誰も恨まない事です。」

「「「解りました。」」」

「さて、行きましょうか。ルインさん、乗ってください。自宅まで送りましょう。」


そうして馬車の方まで歩き始めたマグヌスを、ダリウスが思いっきり肩を掴んで止めた。


「先程のはついでの要件じゃありませんか?マグヌス様?」

「ダリウスさん、肩が痛いです。放してください。」

「真面目に仕事してください!私は次の院長が誰なのか知らないんですよ!」

「ちっ・・・仕方ありません。」

「今舌打ちしましたよね!?そんなに嫌ですか、発表が!?」

「嫌ですよ!何で私が治療院兼任で院長までやらないといけないんですか!仕事が多すぎて死んでしまいますよ!」


その言葉を聞いた孤児院に集まった全員が愕然とした。

治療院は激務でそこの院長となれば王家や公爵家等の最上位貴族との折衝も含まれている。

普段は他の治療師に任せっきりでも書類の類や交渉が減る訳では無いので、その業務に孤児院経営まで加われば言っている通りに死ぬ可能性が在る。


「人員増加無し!仕事は増大!給料は変わらない!誰が喜ぶんですか!」


更に言えば人員や給与待遇の改善まで無かったらしい。

其処迄聞いたルインは前世のブラック企業の患者を思い出した。


(あの人も今のマグヌス医院長みたいな事を語ってたっけ。)


ただ違いがあるのはマグヌスは溌溂としているが、件の患者は目が死んで体も草臥れていた位だった。


「そんな訳で申し訳ありませんがマグノリアさん、フリージアさん、そしてアンナさん、以上3名を仮の院長にします。月に2度程、治療院に来ていただいて報告をお願いいたします。」

「ふえ?」

「マジかよ。」

「私達ですか!?」

「孤児院経営の修行だと思ってください。」


指名された3人は困惑したがマグヌスは有無を言わさずに任命書を押し付けた。

そうしてさっさと馬車の方に歩み始めた。


「・・・すまんな、そう言う事らしい。」


それに続いてダリウスも踵を返し、やや早歩きでその場から離れ始めた。


「俺に助けを求めるなよ?俺は一応、教会の事には関われないんだからな。」


最後まで残っていたルインも無情な宣告をして踵を返した。

馬車が走り出すまでその場にいた全員が凍り付いたが、マグノリアが震え始めたのを切っ掛けに全員が3人に注目し始めた。

そして、


「何でこんな事になっちゃうんですか~!!!!!!!」


無情な叫びが孤児院周辺の建物に木霊した。

今章終了です。

私事で更新を怠り、申し訳ありません。

何時も通り人物紹介と設定集を出して次章に移ります。

予告通りこの章の裏で起きたパインに纏わる事件を書きます。


スライムの種類について

各地域の特徴に根差したスライムがいて、火山なら火属性のファイアスライム、砂漠なら地属性のサンドスライムと言った具合です。

ピュアスライムは純粋な魔力のみのスライムで、かなり希少なスライムです。

ルインは人工的にピュアスライムを作りました。(ウォータースライムを捕獲して、水の魔力を徹底的に抜いた)

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